爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
日常は「系列作品」から
http://snobsnob.exblog.jp/
へ変更

メカニズム(23)

2016年09月10日 | メカニズム
メカニズム(23)

 ぼくが発泡酒を飲み、ひとみはビールを飲んでいる。家庭内格差。稼いでくるのがいちばん偉いのだ。だが、つまみは平等だ。

「最近の話、全部、面白いね。その調子」誉められ、おだてられる。会社員時代の叱咤もどこかでなつかしい。ぼくを叱る人間などどこにもいない。つまりは愛情の対象から除外されている。望んだ結果なのか。

 大人は個を大事にするといいながら、結局は群れたがった。多数決という簡単な答えもある。民主主義。大勢が王様を望めば、それもあり得る。ぼくらはすることもなく選挙の特番を見ていた。

「お店では、いちばん人気のある子が、成功者」
「単純な人気投票で明快で、分かりやすくていいね。根回しもいらない」
「陰の実力者もいない」
「送りバントもいらない」
「それは、たまにいるよ」

 世界にはあらゆるシステムがある。古びるのもあり、刷新するのもある。貴族院議員だったうちの祖父というデタラメを考える。ひとつずつ、ボードに花が飾られる。

「受かったら、なにするんだろう? なにしたいんだろう?」

 ビールがワインになる。肝臓を休めた方が良いのかもしれないが、仕事と普段用では気分も違うのだろう。
「先生と呼ばれたいんだろう」
「お客さんにも、いろいろな先生がいるね」
「いろいろな社長も」

 潜在的な無職。顕在の現実の無職。ひとからチヤホヤされることも忘れた。いや、これまでもあったのだろうか? テストで良い点を取り、みんなのまえで誉められた気もする。過去の武勇伝を語った時点で男は終わりであった。むかし、きれいでしたでしょう、と訊かれる女性も現役ではなかった。歴史上の人物として追放される。

 有利と不利が判定される。明日の朝刊はこちら側のトップの笑顔になる。造花のバラを背にして。次の面は、反対の党の苦虫を噛み潰した顔。ぼくは、ライバルに負ける男の物語を構想する。それは漱石先生のこころではないのか。ひとみはうとうとしている。寝ている間に、ぼくは働かなければならない。時計を見る。腕時計の電池は切れた。無職の証拠。明日、どこかで交換しようと思う、政局や政権が変わるように。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« メカニズム(22) | トップ | メカニズム(24) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

メカニズム」カテゴリの最新記事