ここは、セピア調に統一されたとても落ち着けるところ。お気に入りの店だ。
いつ行っても客がいないというのも落ち着ける要因の一つである。間違っても儲かっているとは思えない。
マスターにそれとはなく、そのことを訊いたことがある。もちろん失礼な訊きかたはしない。
「マスターはいいよね。海外旅行もしょっちゅう行くし、あくせくしてまで働かなくてよさそうだし、相当財産唸ってるんでしょう?」と。
どうやら、そこは、親が持っていた土地を等価交換でマンションの一部を得、それを相続したので家賃が全く要らない。それでなんとかやっていけてるということだった。
昨日の4時頃その店で、PCを持ち込み文章を打っていると、隣の席に男性三人が座った。
やがて、こんな話をし始めた。
「一応、今月一杯で終わりにしていただきます。今月までにそれなりの売上が上がれば約束どおりなんとかしたけど、このとおりなので来週一杯までですか。来月は来ても来なくても賃金を支払います。寮のほうも来月一杯で引き払ってください」
「……はい」
言われているのは、五十代後半の白髪交じりの男と、四十代前半の男の二人だった。
複雑な気持ちで、早々に店を出た。