『美恵子容疑者の弟が、森永グリコ事件の参考人として事情徴集されていた過去がある、、、、そんな記事を以前見かけた』
一体どんな趣味を持っているのだろう、そんな思いを抱かせるあの詰まらなさそうな顔。絶対に見間違えようがないテレビでお馴染みの経済アナリスト森永卓郎。その彼が、池袋駅南通路を西武池袋線方向に斜め向こうから歩いてきた。
これは決して誇張して書いたわけじゃない。
どう見ても高価と思えそうもないスーツ、いやスーツの上着だけ。そして下はトレパンのような白の替えズボン。はっきりいってしまえばヨレヨレ。みすぼらしい姿だ。これが彼の姿を表現した一番適切な言葉だろう。
とりあえあず有名人なんだから、せめて上にブレザーかジャケット、そして下にはブランドものでもなくてもいいから、もどきを醸し出す雰囲気のパンツを穿いて欲しい、他人事ながら思った。
「やぁ、どうも。お久しぶりです」
「……」
「判りますか? 森永先生、ですよね?」
笑ってるのか、笑ってないのか、煮え切らない表情の顔が僕を見る。
「はい? あなた、どなたでしたっけ?」
「ほら、テレビで」
「……」
「テレビ見てますよ」
やっと悟ったの様子の先生。
「ああ、どうも、ありがとう」
「先生、周りに負けないで、頑張ってくださいよ」
「あ、はい!」
僕の言ってる意味がすぐ理解できるほど、自分が判っている人。
と、こんな風に話しかけようと考えたけど、数秒の間の出来事で決断がつかなかった。