1939年に起きたヒトラー暗殺未遂事件を、事実に基づいてオリバー・ヒルシュビーゲル監督が映画化。実行犯のゲオルグ・エルザーの人生を明かしながら、歴史の闇に葬られた事件について描く。
ファーストシーンでいきなり時限爆弾を仕掛けるエルザーの姿が映る。つまりこの映画は結果を先に示し、エルザーが暗殺を企てる経緯を遡って見せるという、一種の倒叙型として成立している点がユニークであり、「あと13分早ければ…」という歴史のifを想像させるところもある。
女癖が悪く、優柔不断な主人公エルザーの人物像には、なかなか感情移入がしずらいが、この場合は、そうした極普通の男が暗殺を行おうとした、という点が重要なのだ。そこには単純な知られざるヒーロー話や美談にはしないという、作り手たちの姿勢がうかがえる。
また、ファシズムに押し流されていく村の人々を見ていると、この映画の主人公とは逆のパターンだが、フランスの村でナチスの手先となる少年の悲劇を描いたルイ・マル監督の『ルシアンの青春』(73)を思い出した。
戦後70年、本作やアウシュビッツ収容所の実態を若い検事が暴く『顔のないヒトラーたち』など、いまだにナチスの罪を引きずりながらそれを執拗に描くドイツと、もはや戦争の傷など忘れてしまったかのような日本との違いは大きいと感じさせられる映画だった。