田中雄二の「映画の王様」

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東京国際映画祭で見た“小さな映画”

2015-10-29 09:00:34 | 新作映画を見てみた

『ジョーのあした~辰吉丈一郎との20年~』

 赤井英和主演のボクシング映画『どついたるねん』で監督デビューした阪本順治が、波瀾万丈のボクシング人生を歩む辰吉丈一郎を20年にわたって取材したドキュメンタリー。

 若くて生意気なイメージが強かった辰吉ももう45歳になるのか…という感慨に加えて、年を経るに従って、多弁で理論派である彼のろれつが回らなくなっていく姿が悲しく映る。

『スプリング、ハズ・カム』

 2月のある日。東京の大学に入学する娘の部屋探しのために、広島から同行した父。祖師ヶ谷大蔵を舞台にした、別れゆく父と娘の1日の物語を淡々と描いた佳作。

 父親役に落語家の柳家喬太郎、娘役に『ソロモンの偽証』のエキセントリックな役柄から一転、“いい娘”を好演した石井杏奈。喬太郎は祖師ヶ谷大蔵で生まれ育ったウルトラマンフリーク(円谷プロは同地にある)とのこと。タイトルはシンプルに「春が来た」の方が良かったのではと思うが、手堅くまとめた監督、脚本、編集の吉野竜平の今後に期待。

『ディス・イズ・オーソン・ウェルズ』

 娘のクリストファーをはじめ、マーティン・スコセッシ、ピーター・ボグダノビッチら映画監督たちへのインタビューを通して、監督デビュー作の『市民ケーン』(41)から、ハリウッドで監督した最後の作品となった『黒い罠』(58)まで、オーソン・ウェルズのアメリカでの映画人生を簡潔にまとめたドキュメンタリー。

 『市民ケーン』以外は、どれも意に添わない映画となり、“呪われた天才”と呼ばれたウェルズ。その一方、火星人襲来を告げてパニックを巻き起こしたラジオドラマや『フェイク』(75)のように、人をだまして楽しむいたずらっ子のようなところもあった。手品や変装も大好きだったとのこと。「『市民ケーン』を撮るに当たって、ジョン・フォードの『駅馬車』(39)を飽きるほど見て映画の技法を研究した」など、ウェルズ本人が語る部分が一番面白かった。

コメント
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