田中雄二の「映画の王様」

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『ロバート・アルトマン ハリウッドで最も嫌われ、そして愛された男』

2015-10-05 10:22:27 | 新作映画を見てみた

 ロバート・アルトマンの山あり谷あり、波乱万丈の監督人生を描いたドキュメンタリー。カナダのプロデューサー、ロン・マンの監督作。ゆかりの人々が“アルトマンらしさ(アルトマネスク)”を語る。



 サム・ペキンパーを描いたドキュメンタリーの公開と同時期にアルトマンのものも公開されるという因縁。二人の誕生日はわずか1日違い。ほぼ同時代に活動し、どちらもアウトロー、アウトサイダー、異端と呼ばれた監督という共通点もある。

 ペキンパーは途上で若死にしたが、アルトマンはしたたかに生き抜き映画監督としての天寿を全うした。

 そんなアルトマンの作品群は良く言えば多彩だが、悪く言えば少々まとまりに欠けるところがある。

 『M☆A☆S☆H』(70)『BIRD☆SHT』(70)でブラックコメディーをものにし、『ギャンブラー』(71)『ボウイ&キーチ』(74)というニューシネマの佳作を生み、『ロング・グッドバイ』(73)『ビッグ・アメリカン』(76)では英雄伝説を破壊したかと思えば、『クインテッド』(79)『ポパイ』(80)などという大失敗作も作った。

 そんな彼が最も得意としたのは『ナッシュビル』(75)『ウエディング』(78)『ザ・プレイヤー』(92)『ショートカッツ』(94)『ゴスフォード・パーク』(01)など、異常な状況下で雑多な人間たちを描き込む群像劇だろう。

 このドキュメンタリーを見ると、群像映画の要、私生活での大家族の長という“ビッグパパ”としてのアルトマンの顔が明らかになる。

 そして、オープニングとラストに示されるアルトマンの言葉が、シニカルな作風とは裏腹なロマンチストとしてのアルトマンを見事に浮かび上がらせる。

 「映画は砂の城と同じだ。“大きな城を作るぞ”と言いながら、仲間たちとやっと完成させる。だが、やがて波が来て城をきれいに運び去る。それでもその城は皆の胸の中に残るんだ」…アルトマンは自らの製作会社をサンドキャッスルと名付けた。

 「若い頃、暇つぶしに映画を見に行った。その映画の主人公は色気も若さもない女優だったが、何故か目が離せなかった。20分後、私は涙を流しながら彼女に恋をしたことに気付いた。『映画には何かがある』と思った瞬間だった」…その映画とはデビッド・リーンの『逢びき』(45)だったという。

 どちらもいい話じゃないか。アルトマンは映画が持つ不思議な力を信じていたのだ。

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