ところで、以前『砂の器』の原作の登場人物たちの年齢を調べたことがあった。原作が新聞に連載されたのは、1960~61(昭和35~36)年だが、事件は1959(昭和34)年に起きたことになっている。和賀が自分の父親と同年代だと知って、驚いた覚えがある。
刑事
今西栄太郎=1914(大正3)年生まれ。45歳
吉村弘=30歳前後。
若手芸術家ヌーボーグループ
和賀英良=1933(昭和8)年生まれ。26歳
関川重雄=1934(昭和9)年生まれ。25歳
成瀬リエ子=1934(昭和9)年生まれ。25歳
宮田邦郎=1929(昭和4)年生まれ。30歳
巡礼親子
本浦千代吉=1905(明治38)年生まれ。昭和32年52歳で死去。
本浦秀夫=1931(昭和6)年生まれ。28歳
被害者と養子
三木謙一=1908(明治41)年生まれ。51歳
三木彰吉=25、26歳
そして、原作者の松本清張=1909(明治42)年生まれ。50歳となる。
こうして見ると、清張は、主人公の今西刑事、あるいは被害者の三木と同世代だから、当然彼らの側に自らの思いを託して書いている。反対に、息子世代にあたるヌーボーグループを辛辣に描いているから、映画とは違い、犯人に対する同情も湧かないのだが、その反面、吉村や三木の養子の彰吉といった、真面目にこつこつ働く若者には優しいまなざしを向けているのが興味深い。
映画の公開は1974(昭和49)年なので、時代設定は1971(昭和46)年に変わっている。従って、和賀英良=1937(昭和12)年生まれ。34歳。三木謙一=1906(明治39)年生まれ。65歳。と、原作よりは少し年上に設定されている。だから加藤剛が和賀を演じることができたのだ。
何より、本浦千代吉(加藤嘉)を生きていることにしたことが最大のポイントだろう。実は、三木を演じた緒形拳が千代吉役を切望したらしい。