田中雄二の「映画の王様」

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ニール・サイモン脚本作その5『ブルースが聞こえる』

2018-08-30 07:01:29 | 映画いろいろ
『ブルースが聞こえる』(88)



 第二次大戦中の兵士訓練所での青春像をノスタルジックに描く。ニール・サイモンの自伝的な原作・脚本ということで、所々に適度なユーモアがあり、ジョルジュ・ドルリューによるノスタルジックな音楽の効果も加えると、戦争映画というよりも、むしろ青春映画と言った方がすんなりとくる。

 これを見ると、第二次大戦後、全く戦争を知らない日本に比べ、その後、朝鮮やベトナムで悲痛な戦争を経験しているアメリカにしてみれば、第二次大戦はもはや風化し、ノスタルジーとして語るべき対象になっているのかもしれないと思わされる。

 例えば、この映画と同時期に作られたスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(87)などを見れば、二つの戦争に対する捉え方の違いや時の流れが浮き彫りになる。

 また、この映画を青春映画として描いたマイク・ニコルズも、『卒業』(67)などでニューシネマの最先端をいっていた頃に比べると、アクが取れて、随分と丸くなったと感じさせられた。まさか彼がこんなに素直な懐古調の映画を撮る日がこようとは…という感じである。

 ラストはジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』(73)を思わせる。それは、同時にあの映画がいかに優れた青春懐古映画だったかの証明でもある。

 またしてもクリストファー・ウォーケンが“異常な人”を演じていた。もはや彼が普通の人を演じるのは無理な話なのだろうか。何だか哀れである。

 1988.9.30.みゆき座

 この後、ウォーケンはコメディなども演じて役柄を広げ、現在もしたたかに活躍中。哀れだなんて、とんでもない間違いだった。(終)
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