記憶と時間にまつわる新機軸のラブコメディ
郵便局で働くシャオチー(リー・ペイユー)は、仕事も恋もパッとしないアラサー女子。何をするにもワンテンポ早い彼女は、写真撮影では必ず目をつむってしまい、映画を見て笑うタイミングも人より早い。
ある日シャオチーは、ハンサムなダンス講師とバレンタインデーにデートの約束をするが、目覚めるとなぜか翌日で、バレンタインが消えていた…。
その謎の鍵を握るのは、毎日郵便局にやってくる、常にワンテンポ遅いバス運転手のグアタイ(リウ・グァンティン)らしい。そして、シャオチーは街中の写真店で、なぜか“目を見開いている”、見覚えのない自分の写真を見付ける。
映画技法の、同じシーンの別撮りや、テーク~(撮り直し)を利用して、何事も人よりワンテンポ早い女の消えたバレンタインをめぐる物語と、ワンテンポ遅い男によるアナザーストーリーを展開させるという、記憶と時間にまつわるちょっとシュールな新機軸のラブコメディ。ファニーフェイスのリー・ペイユーが不思議な魅力を発散する。
例えば、ハンサムなダンス講師からデートに誘われ、有頂天になったシャオチーが「30年間積み立ててきた運が一気に爆発した感じ。幸せが1台のトラックのように、自分に向かって突っ込んできた」と語るセリフ。
あるいは、ラジオのDJが語る、「人生はたくさんの記憶のパズル。恋が人生を創造する。お互いが、相手の記憶に刻まれていたら最高だ。でも、君の大切な記憶は、相手にとっては無意味なものかもしれない。それが人生」という、この映画そのものを言い当てたようなセリフに代表されるように、なかなか脚本がしゃれている。
また、台湾では、年2回バレンタインデーがあり、2月14日よりも、旧暦の7月7日の「七夕情人節(チャイニーズバレンタインデー)」の方が重要なイベントなのだという。だからこの映画の舞台は、バレンタインと言いながら、冬ではなく夏なのだ。そこも面白い。
監督は“台湾ニューシネマの異端児”と言われたチェン・ユーシュン。欧米のこの手の映画のように洗練されてはいないが、粗削りなところがかえって新鮮に映る。
エンドクレジットのバックに、映画の内容と合致するビージーズの「I STAETED A JOKE=ジョーク」を流すところなどにもセンスの良さをうかがわせる。そのうち、ハリウッドや日本でリメークされるかもしれないと思った。