「希望の隔たり」
イギリス南部の港町シーフォードで暮らすグレース(アネット・ベニング)とエドワード(ビル・ナイ)は、結婚29年目を迎えようとしていた。ところが、一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)が久しぶりに帰郷したある週末に、突然、エドワードが「家を出て行く」と宣言する。
『グラディエーター』(00)などで知られる脚本家ウィリアム・ニコルソンが、息子としての実体験を基に脚本を執筆し、自ら監督した。ほぼ、夫婦と息子による会話劇が展開し、ベニング、ナイ、オコナーが三者三様の好演を見せる。
こうした老年夫婦の危機を描いたものは、妻が別れを切り出すパターンが多いが、この映画は逆。最初は、気が強くて強引な妻と気弱で繊細な夫という図式が見えて、やり込められる夫や、夫婦の間に入って苦悩する息子に同情するのだが、やがて、それは一元的な見方に過ぎないと気付かされ、夫の行動にも身勝手なものを感じるようになる。
つまり、こうした問題は、どちらか一方に非があると、簡単に片づけられるものではないということ。そこが厄介だったり、切なかったりするのだ。身につまされて、思わず苦笑させられる場面やセリフもあった。
原題の「ホープ・ギャップ」は、劇中に登場する海岸の名称だが、この場合「(互いの)希望の隔たり」というダブルミーニングにもなるわけだ。