田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『幸せの答え合わせ』

2021-06-05 10:47:17 | 新作映画を見てみた

「希望の隔たり」

 イギリス南部の港町シーフォードで暮らすグレース(アネット・ベニング)とエドワード(ビル・ナイ)は、結婚29年目を迎えようとしていた。ところが、一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)が久しぶりに帰郷したある週末に、突然、エドワードが「家を出て行く」と宣言する。

 『グラディエーター』(00)などで知られる脚本家ウィリアム・ニコルソンが、息子としての実体験を基に脚本を執筆し、自ら監督した。ほぼ、夫婦と息子による会話劇が展開し、ベニング、ナイ、オコナーが三者三様の好演を見せる。

 こうした老年夫婦の危機を描いたものは、妻が別れを切り出すパターンが多いが、この映画は逆。最初は、気が強くて強引な妻と気弱で繊細な夫という図式が見えて、やり込められる夫や、夫婦の間に入って苦悩する息子に同情するのだが、やがて、それは一元的な見方に過ぎないと気付かされ、夫の行動にも身勝手なものを感じるようになる。

 つまり、こうした問題は、どちらか一方に非があると、簡単に片づけられるものではないということ。そこが厄介だったり、切なかったりするのだ。身につまされて、思わず苦笑させられる場面やセリフもあった。

 原題の「ホープ・ギャップ」は、劇中に登場する海岸の名称だが、この場合「(互いの)希望の隔たり」というダブルミーニングにもなるわけだ。

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『夏への扉 キミのいる未来へ』

2021-06-05 07:19:42 | 新作映画を見てみた

この小説の初映画化が日本でなされたことに驚く

 1995年、将来を嘱望される科学者の高倉宗一郎(山崎賢人)は、亡き養父・松下(橋爪淳)の会社で研究に没頭していた。ずっと孤独だった宗一郎は、自分を慕ってくれる松下の娘・璃子(清原果耶)と愛猫ピートを、家族のように大切に思っていた。

 だが、研究の完成を目前にしながら、宗一郎は罠にはめられ、冷凍睡眠させられてしまう。彼が目を覚ますと、そこは30年後の2025年の東京だった。

 ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』を翻案。冷凍睡眠(コールドスリープ)とタイムマシンを使って、現在と未来を結び付けるという大筋は原作を踏襲しているが、原作の1970~2000年への旅を1995~2015年に変え、相手役の娘の年齢を上げ、主人公が未来で出会うアンドロイド(藤木直人)を登場せるなど、いろいろと改変を試みている。

 監督の三木孝浩は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16で、脚本の菅野友恵は『時をかける少女』(10で、すでにこうした話を映画化しているので、現在と未来のギャップによる浦島太郎的なコミカル味も含めて、タイムトラベルのつじつま合わせや伏線の回収も、違和感なく行っている。何より、この小説の初映画化が日本でなされたことに驚いた。 

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