田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『サマーフィルムにのって』

2021-06-13 10:25:05 | 新作映画を見てみた

「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」

 時代劇オタクで勝新を敬愛する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は、映画部に所属しながら、時代劇が撮れずにくすぶっていた。

 そんなある日、自分が脚本を書いた時代劇の侍役にぴったりの凜太郎(金子大地)を見付けたハダシは、仲間を集めて映画「武士の青春」を撮り始める。だが、実は凜太郎は未来から来たタイムトラベラーだった…。

 監督のハダシをはじめ、主演の凛太郎、撮影のビート板(河合優実)、殺陣のブルーハワイ(祷キララ)、助演のダディボーイ(板橋駿谷)、録音と音声の駒田(小日向星一)と増山(池田永吉)、照明の小栗(篠田諒)という七人の仲間たち。

 彼らが映画を作る楽しさを体現し、見ているこちらも、彼ら一人一人が愛おしく思えてくる。中でも、30過ぎで朝ドラ「なつぞら」に続いて、またも高校生を演じた板橋が傑作だった。

 監督・脚本の松本壮史と脚本の三浦直之は、恋と友情、時代劇、SF、学園ドラマといった、さまざまな要素を混在させながら、ハダシの「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」という言葉に代表されるように、端々に映画への愛を表している。そして、この映画の場合は、自主製作映画のようなノリがまたいい。

 さて、実は、自分も大昔の高校時代、意気揚々と映画部に入ったのだが、男子校だったもので“女優”がおらず、妙な映画作りになりそうだったので、すぐに退部してしまったという、苦い思い出がある。結局自分は、映画を作るよりも見る方が好きだったのだろう。

 という訳で、この映画のことは、昨年の東京国際映画祭で上映された時から気になってたのだ。そんな、何やら甘酸っぱい思いを抱きながら見たことに加えて、映画製作ものとタイムトラベルもの、それに時代劇も大好物なので、そこもまたツボだった。それに、ちゃんと青春映画になっているところにも好感が持てた。

 また、素人っぽいところが逆にいいという意味では、『カメラを止めるな!』(17)にも通じるところがあるかもしれないと感じた。

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『カラミティ』

2021-06-13 07:22:05 | 新作映画を見てみた

 レミ・シャイエというフランス人の監督が、西部開拓時代のアメリカに実在した女性ガンマン、カラミティ(疫病神)・ジェーンの子ども時代を創作を交えて描いた長編アニメーション。

 実際のカラミティの生涯は謎に包まれており、どこまでが事実で、どこからが伝説なのかがはっきりしない。だから創作が入り込む余地がある。

 シャイエ監督は、詳細は不明だが、カラミティが生前「幼少期に一家でミズーリ州からモンタナ州まで楽しい旅をした」と語っていた点に着目したという。そこで、描く年代を彼女の少女時代の1863年とし、舞台をワイオミング州(ホットスプリング郡)からアイダホ州へ向かう「オレゴン・トレイル」に設定。母の死後、父が幌馬車隊に加わり移転先まで旅をする物語とした。

 女性は女性らしくという西部開拓時代。この映画の主人公マーサは、旅の途中で負傷した父の代わりに、家族を支えるために髪を切り、ジーンズを履くことを決意する。そして、生きていくために必要な乗馬、馬車の運転、投げ縄といった“男の作法”を苦労して習得する。

 というわけで、伝説の女性ガンマンの誕生秘話の側面もある本作は、マーサを“ジェンダーレスな生き方”を選択した女性として描いている。そこに“今の視点”が入り、今の時代にカラミティ・ジェーンを描く意義が生まれる。

 日本のアニメとも、アメリカのアニメとも違う、独特の質感と色遣いが印象に残ったが、イタリア語のマカロニウエスタンならぬ、フランス語の西部劇というのは、やはりちょっと妙な感じがした。

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