田中雄二の「映画の王様」

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『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』

2021-06-09 22:06:46 | 新作映画を見てみた

23年前のあの興奮がよみがえる

 1998年長野冬季五輪でのスキージャンプ団体の金メダル獲得を陰で支えたテストジャンパーたちの知られざる実話を映画化。

 94年リレハンメル五輪の団体戦。日本チームは原田雅彦(濱津隆之)の失敗ジャンプで惜しくも銀メダルに終わった。同僚の西方仁也(田中圭)は、長野五輪での雪辱を誓うが、腰の故障もあって代表から落選する。
 
 失意の中、テストジャンパーとして長野五輪への参加を依頼された西方は、裏方に甘んじる屈辱を感じながらも、さまざまな思いを抱えて集まったテストジャンパーたちに、次第に心を開いていくようになる。

 団体戦当日。日本は、またも原田が1本目のジャンプを失敗。2本目で逆転を狙うが、猛吹雪で競技が中断。審判員は「テストジャンパーの25人全員が無事に飛べたら競技を再開する」という判断を下す。日本の金メダルへの道は西方をはじめ、テストジャンパーたちに託されることになった。

 まさに「事実は小説よりも奇なり」。作り話を遥かに超えたこの事実を忠実に描くだけでも感動のドラマが出来上がるのは必定。では、そこに何をプラスするかが、映画の腕の見せどころになる。

 同い年の原田と西方、あるいは西方の妻(土屋太鳳)、それぞれの苦悩と葛藤に加えて、ろうあの高橋竜二(実在=山田裕貴)、紅一点の小林(小坂菜緒)、トラウマを抱えて飛べない南川(眞栄田郷敦)、彼らを𠮟咤激励するコーチ(古田新太)など、創作も交えながらテストジャンパーそれぞれのドラマを膨らませて描いている。

 そうした増幅されたドラマを改めて見せられることによって、もう23年も前のことになった、あの冬の興奮が倍加されてよみがえってきた。

 特に、原田を演じた濱津、高橋を演じた山田の適役ぶりには驚かされた。また、小林役のモデルになった葛西賀子らの頑張りが、今の高梨沙羅、伊藤有希ら、女子選手の活躍につながっていると考えると感慨深いものがあった。

 オリンピックは4年に一度。それ故のドラマが生まれる。現在、コロナ禍での開催が物議を醸している東京オリンピックだが、こういう映画を見ると、改めて、選手たちには何の罪もない。できればやらせてあげたいと思ってしまう。

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