田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『そして、バトンは渡された』

2021-10-18 23:39:17 | 新作映画を見てみた

『そして、バトンは渡された』(2021.10.18.ワーナー試写室)

 第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説を前田哲監督が映画化。(ネタバレ禁止なので多くは語れない)

 血のつながらない父親の間をリレーされ、4回も名字が変わった優子(永野芽郁)。今は料理上手な義理の父・森宮さん(田中圭)と2人で暮らす彼女は、さまざまな悩みを抱えながら、いつも笑顔を絶やさず、卒業式のピアノ演奏の練習に励んでいた。そんな彼女の前に、ピアノが上手な同級生・早瀬(岡田健史)が現れる。

 一方、何度も夫を変えながら自由奔放に生きる梨花(石原さとみ)は、泣き虫な義理の娘みぃたんに精いっぱいの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘の前から姿を消す。

 中盤までは、この二つの物語が並行して描かれるのだが、やがて二つは微妙に絡み合い、最後はある秘密と嘘が明らかになる、という流れ。よく考えたら設定に無理や矛盾があり、一歩間違えたら犯罪と言ってもおかしくない行為も出てくるのに、“いい話”を見たような気にさせるところが、“だまし映画”の真骨頂。

 前田監督は、この映画に「愛とは、見えないところで見守ること」「見た人が幸せな気持ちに包まれる映画に」という思いを込めたというが、その点は達成できたのではあるまいか。要は「人間万事塞翁が馬」的な話なのだ。

 また、一見、わがままなくせ者に見えて、実は…という展開は、前作の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)の主人公・鹿野(大泉洋)にも見られたが、今回もある人物にそれが当てはまる。これは前田監督と脚本の橋本裕志の好みなのだろう。

 『キネマの神様』に続いて永野がチャーミング。そして、彼女が流す大粒の涙が印象的。まだ高校生の役ができるんだなあ。

 前田哲監督には、『陽気なギャングが地球を回す』(06)の時にインタビューをしたが、その際、『ホット・ロック』(72)の話で盛り上がったことを覚えている。 

【インタビュー】『陽気なギャングが地球を回す』前田哲監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/51b939c50275e81e74259f8982a9e071

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e8131e6957475e849a7d23829c71991a

【インタビュー】『キネマの神様』永野芽郁
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9246c2ed7b01dce53f5cf8823bc0862a

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『ラストナイト・イン・ソーホー』

2021-10-18 09:22:09 | 新作映画を見てみた

『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021.10.14.TOHOシネマズ日本橋)

 『ベイビー・ドライバー』(17)のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・ファンタジーホラー。全編に、1960年代のブリティッシュ・ポップスが流れる。

 60年代に憧れ、ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーのデザイン専門学校に入学したエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。

 だが、夢の中で60年代のソーホーで歌手を目指すサンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)に出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディの後を追うが、やがて体も感覚もサンディとシンクロし始め、次第に精神をむしばまれていく。

 ライト監督は、主人公が幻覚に惑わされるロマン・ポランスキー監督の『反撥』(65)や、霊媒師が登場するニコラス・ローグ監督の『赤い影』(73)の影響を口にしているようだが、それよりも、アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマの諸作を思い起こさせるところがある。

 ちなみに、『赤い影』の音楽は、デ・バルマ作品でよく音楽を担当したピノ・ドナジオ。彼はダスティ・スプリングフィールドやエルビス・プレスリーがカバーして有名になった「この胸のときめきを」の作者でもある。

 ついでに、『赤い影』の原作はダフネ・デュ・モーリアで、ヒッチコックの『レベッカ』(40)『鳥』(63)の原作も彼女。というわけで、ぐるぐる回ると、この映画はヒッチコックやデ・パルマともつながる。

 パラレルワールドへのタイムトラベル、ファンタジー、ホラー、ミュージカルといった要素と、対照的な光と闇、懐かしさと新しさが混在する摩訶不思議な世界が現出するこの映画。

 それを彩るのは、60年代の音楽とファッションであり、実際に60年から活躍していたダイアナ・リグ、リタ・トゥシンハム、テレンス・スタンプも姿を見せるのだから念が入っているのだが、ただ60年代のロンドンをひたすら懐かしみ、礼賛するのではなく、その恥部や醜さもきちんと入れ込んでいる点が目を引く。

 さて、登場する曲は、ピーター&ゴードン(ポール・マッカートニー作)「愛なき世界」、ダスティ・スプリングフィールド(バート・バカラック作)「ウイッシン・アンド・ホーピン」、シラ・ブラック「ユーアー・マイ・ワールド」「恋するハート」(バカラック作)、ペトラ・クラーク「恋のダウンタウン」、ザ・フー「ヒート・ウェーブ」(後にリンダ・ロンシュタットがカバー)、ジェームズ・レイ「セット・オン・ユー」(後にジョージ・ハリスンがカバー)、サンディ・ショー「パリのあやつり人形」「恋のウェイト・リフティング」、ウォーカー・ブラザース「ダンス天国」、デイブ・ディー・グループ「ソーホーの夜」…。

 『ベイビー・ドライバー』の選曲もマニアックだったが、その点では、今回もまたすごかった。日本では比較的地味な存在だが、ビートルズ伝説にも登場するブラックをはじめ、スプリングフィールド、ショー、クラークら、当時イギリスで活躍した女性シンガーたちの人気の高さを垣間見た気がして、興味深いものがあった。

【インタビュー】『ベイビー・ドライバー』アンセル・エルゴート
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0b9f5eafe953a153033b33693b34ca2d

カーチェイス版の『ラ・ラ・ランド』か!?『ベイビー・ドライバー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/82de3be5a6111f03c215dec48cdc4fd3

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「BSシネマ 」『ラストサムライ』

2021-10-18 07:26:21 | ブラウン管の映画館

『ラストサムライ』(03)

ハリウッド映画がこれだけ真面目に日本の侍を描いたことは喜ばしい
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/49ffa1d36ec04bf32dd59a96aaf849d8

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