『梅切らぬバカ』(2021.10.24.オンライン試写)
山田珠子(加賀まりこ)は占い業を営みながら、自閉症の息子・忠男(チューさん=塚地武雅)と暮らしている。庭に生える梅の木は忠男にとって亡き父の象徴だが、その枝は私道にまで伸びていた。
隣りに越してきた里村茂(渡辺いっけい)は、通行の妨げになる梅の木と予測不能な行動をとる忠男を疎ましく思うが、里村の妻子(森口瑤子、斎藤汰鷹)は珠子と交流するようになる。
珠子は自分がいなくなった後のことを考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームに忠男を入居させる。ところが、環境の変化に戸惑う忠男はホームを抜け出し、ある事件に巻き込まれてしまう。
年老いた母と自閉症の息子が地域の偏見や不和にさらされながら、自立の道を模索する姿を描く。タイトルは、対象に適切な処置をしないことを戒めることわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」に由来し、人間の教育においても、桜のように自由に枝を伸ばすことが必要な場合と、梅のように手を掛けて育てることが必要な場合があることを意味している。
この手の映画によくありがちな、きれいごとで描いたり、安易なハッピーエンドにはしていないところがリアルだ。自分の甥にも知的障害があるので、近隣住民の反応や家族のやるせない気持ちはよく分かる。
そして、この親子のような障害者のいる家族の日常は答えがでないまま続いていくのだし、奇跡のような劇的な変化も訪れはしないのだから…。まあ、それだけでは暗澹たる気持ちになるので、親子のユーモラスなやり取りや、隣の家の一家の変化で救いを持たせてバランスを取っている。
里村の息子とチューさんの関係を見ながら、『アラバマ物語』(62)に出てきたブー(ロバート・デュバル)のことを思い出した。
塚地が『レインマン』(88)のダスティン・ホフマンに負けず劣らずの演技を見せ、大ベテランとなった加賀が見事にこれを受け止めている。77分の小品だが、いろいろなことを考えさせられる映画。初対面の和島香太郎監督は元横綱北の富士の甥だという。