白土三平といえば、自分にとっては、彼の漫画そのものよりも、「少年忍者 風のフジ丸」(64)「サスケ」(68)「忍風カムイ外伝」(69)といったテレビアニメや、映画『大忍術映画ワタリ』(66)の原作者としてのイメージが強い。
ただ、それとは別の思い出もある。高校1年の時の担任で、世界史を教えてくれたI先生が、歴史を学ぶ際のお薦め本として、『遊牧騎馬民族国家-“蒼き狼”の子孫たち』(護雅夫)、『街道をゆく5 モンゴル紀行』(司馬遼太郎)、『新講 世界史』(土井正興)、『火の路』(松本清張)などと並べて、手塚治虫の『火の鳥』と白土三平の『カムイ伝』を挙げたのである。
それまで漫画を薦める教師などいなかったので、これは新鮮な驚きだった。そして、もちろんどちらも読んで、歴史に対する新たな視点を得たのだった。
また、「お前は映画が好きなのだから、何か歴史に関係のある映画を見たらリポートを書け。いいものを書いたらちゃんと評価するから」と言ってくれた。
で、例えば、『デルス・ウザーラ』(75)では森林やツンドラでの猟について、『十戒』(56)では「旧約聖書」の「出エジプト記」について、『風とライオン』(75)ではリーフ族とセオドア・ルーズベルトとの関係について、『サンチャゴに雨が降る』(75)では1973年のチリの軍事クーデターについてなど、幾つかリポートを書いたら、褒めてくれた上に、ちゃんといい点をくれたので、豚もおだてりゃ木に登る状態になって、映画について書くことが癖になった。
それによって、映画は見るだけではもったいない。見たものについて何か書くのは面白いしためになる、と気付かさせてくれたのである。それが今の自分の仕事につながっているのだから、言わばI先生は恩人なのだ。と、白土三平から話が随分それてしまったが。