田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』

2023-01-07 06:18:00 | 新作映画を見てみた

『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(2022.12.22.東宝東和試写室)

 映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発し、#MeToo 運動の火付け役となった2人の女性記者による回顧録を基に映画化した社会派ドラマ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、大物映画プロデューサーのワインスタインが、数十年にわたって、複数の女性たちに行った性的暴行について取材をする中で、彼が、これまで何度も記事をもみ消してきた事実を知る。

 被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や、暴行によるトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が映画業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材を拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

 ブラッド・ピットが製作総指揮をし、監督は『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のマリア・シュラーダー。実際の被害者の一人であるアシュレイ・ジャッドが、本人役で登場する。

 新聞記者が大きな事件の真相を暴く、しかも実話の映画化という形式は、例えば、『大統領の陰謀』(76)(ワシントン・ポスト/ウォーターゲート事件)、『スポットライト 世紀のスクープ』(15)(ボストン・グローブ/カトリック司祭による性的虐待事件)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)(ワシントン・ポスト/アメリカ国防総省の最高機密文書)、『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(17)(ナイト・リッダー/イラク戦争の大量破壊兵器捏造問題)など、枚挙にいとまがない。

 ところが、そのほとんどが、男社会の新聞社が舞台で、男性記者が活躍するというパターンだった。それに対してこの映画では、事件の内容もさることながら、2人の女性記者が中心になっている。そうした変化からも、これはまさに”今の映画”だと思わずにはいられなかった。

 記者が、単なるスクープ狙いではなく、本当に対象者の身になって取材し、それを記事にした。だからこそ、被害女性たちも声を上げたのだ。これが男性記者だったら、こうはいかなかったはずだ。否、そもそもこの事件を記事にしようと考えただろうかということ。これは報道の根幹に関わる問題でもある。

 この映画、娯楽的に見ても、全体的にテンポがよく、2人の女性記者の日常生活の描写や、サスペンスフルな話の展開という点でも見事なものがあった。キャリー・マリガンが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)とは180度違う役柄を演じていたので驚いた。

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加山雄三の映画『零戦燃ゆ』

2023-01-07 04:40:50 | 映画いろいろ

『零戦燃ゆ』(84)(1987.8.15.ゴールデン洋画劇場)

 ゼロ戦のパイロット(堤大次郎)と整備士(橋爪淳)との友情を通して、ゼロ戦の歴史と太平洋戦争の流れを描く。加山雄三が、ゼロ戦開発の海軍側主務者の下川万兵衛海軍大尉を演じる。

 また、8月15日が近づくと、昨日の『子象物語 地上に降りた天使』(86)や、この映画のような、戦争映画が放送され、1年の数日間だけ、戦争について考える日々がやって来る。

 だが、もはや多くの日本人が戦争についての意識を失っており、アメリカ映画が描くベトナム戦争もののような、緊張感や切実さを、日本の戦争映画に求める方が無理な話なのではと思う。

 従って、この映画も、東宝お得意の戦争映画の1本として見てしまえばよかったのだが、柳田邦男の原作ということで、ゼロ戦にまつわる『ライトスタッフ』(83)的な描き方を期待してしまったのがいけなかった。

 第二次大戦を扱えば、悲劇の敗戦国日本という大前提があり、それが良くも悪くも日本の戦争映画を空々しく見せ、風化させるという、逆効果を生むことを忘れていたのだ。いいかげん、作り手たちは、そこに気が付いてくれないものだろうか。

 その前提を取り去れば、もっと違う形で、広い視野から戦争の罪悪や空しさなどを、捉えることが出来るはずだ。監督・舛田利雄、脚本・笠原和夫のコンビは、日露戦争を描いた『二百三高地』(80)では、それをやってのけたはずなのにと、戦争を知らない俺にいわせるようじゃ駄目だよねえ。

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加山雄三の映画『戦国野郎』

2023-01-07 02:01:14 | 映画いろいろ

『戦国野郎』(1992.1.25.)(63)

 甲斐の武田家を離反し、武田家の忍者たちから命を狙われながらも、城持ちになることを望み、さすらいの旅を続ける若き忍者・越智吉丹(加山雄三)の活躍を描く。

 『岡本喜八全作品』という本の発売を記念して、一時途絶えていた、「ビデオによる岡本喜八復習週間」を復活させてみた。前回の最後が、ちょっときつかった『血と砂』(65)だったので、今回は、小品ながら、東宝青春路線+時代劇=和製ウエスタンといった感じがするこの映画を選んでみたが、これが大正解の快作だった。

 黒澤明が和製ジョン・フォードなら、この岡本喜八は和製ジョン・スタージェスか。いや、この快調なコミカルタッチはバート・ケネディか。

 実際、加山雄三のお気楽ぶりは若大将以上だし、今は「水戸黄門」の風車の弥七になった中谷一郎が、かつて持っていた危うい魅力、またもや怪演を披露する佐藤允の木下藤吉郎など、岡本演出は冴えわたっている。

 ただ、最近の「全ての作品が素晴らしい」というような、岡本喜八の持ち上げられ方は、何だかサミュエル・フラーやデニス・ホッパーのそれとも似ている感じがして素直にうなずけないものがある。

 実際、岡本喜八の魅力は、突拍子もなく面白い映画を作る半面、見事な失敗作も作ってしまう危うさにあると思う。その分、出来がいい方に出会えたときのうれしさが倍増するといったところではないか。そんな気がするのだが。

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加山雄三の映画『独立愚連隊西へ』

2023-01-07 00:02:51 | 映画いろいろ

『独立愚連隊西へ』(60)(1989.1.18)

 軍隊のハミ出し野郎が集まった“独立愚連隊"。彼らは、北支戦線で全滅した連隊の軍旗を求めて、敵の真っただ中に飛び込んでいく。軍隊の象徴たる軍旗に命を懸けることの虚しさを描いた加山雄三の初主演作。

 またもや岡本喜八監督作である。彼の戦中派としての、戦争に対する屈折した思いや憎悪は、すでに『肉弾』(68)などで見せられてはいたが、噂通り、この映画はその最たるものであった。

 しかも、そうした思いテーマを、半ばコミカルに、アナーキーに描き、加えて、アクション映画としての面白さも持ち合わせながら、戦争に対する憎悪という本筋をしっかりと浮かび上がらせるところは、さすがであった。

 例えば、最近のバリー・レビンソンの『グッドモーニング,ベトナム』(87)のように、戦争とは別のコンセプトからストーリーを展開させながら、実は戦争の持つ悲惨さや無慈悲を描いているという作法とも通じるものがある。

 日本の戦争映画は、総じて重苦しく、ひたすら敗戦国日本の悲劇を描こうとするから、無理や風化が生じる。その意味では、こういう戦争映画が撮れる岡本喜八の存在は貴重である。再び、「岡本喜八に光を!」と叫びたい気持ちになった。

 ところで、初期の岡本作品の多くに、佐藤允が出演し、ギラギラとした個性を発揮している。何やら噂では、今は仲違いしているようだ。黒澤明と三船敏郎もそうだが、監督と役者の関係は、残念なことに、深ければ深いほど、一度こじれたらなかなか元には戻れないようだ。

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