世界ヘビー級の初代王者ジョン・L・サリバンから、黒人初のチャンピオンとなったジャック・ジョンソン、ジャック・デンプシー、ジョー・ルイス、ロッキー・マルシアーノ、モハメド・アリ、ジョー・フレージャー…といった、26人の王者たちの栄光と悲哀、因縁を描く。
この人の思想的な部分には付いていけないが、ボクシングを題材にしたものは、ファイティング原田を描いた『「黄金のバンタム」を破った男』に続き、今回も面白かった。以下、昔見たジョンソンとルイスを描いたドキュメンタリー映画について。
『史上最強のボクサー ジャック・ジョンソン』(70)(1991.11.19.)
ボクシングを扱った、とても優れたドキュメンタリーが続けて放送された。まずは、黒人として初めてヘビー級のチャンピオンとなったジャック・ジョンソンを描いたもの。
以前、マーティン・リット監督、ジェームズ・アール・ジョーンズ主演の『ボクサー』(70)(1978.7.31.月曜ロードショー)を見ていたので、ジョンソンについては全くの無知というわけではなかったが、このドキュメンタリーの方が、より鋭く、彼が生きた時代や、彼の生きざまを捉えていた。しかも、よくこんなフィルムが残っていたなあと思うほど、当時の映像が生々しく使われていたことにも驚かされた。
そして、ジョンソンを追うことで、当時の世相が浮き彫りになってくるところがすごいし、「グレート・ホワイト・ホープ」という『ボクサー』の原題が、実はジョンソンを倒すことを期待された白人挑戦者たちのことだったという皮肉の意味も知ることができた。
音楽は、先頃亡くなったマイルス・デイビス、ジョンソンの声を代弁するのが名脇役のブロック・ピータース。どちらも黒人である。70年代初頭に吹き荒れたブラックパワーが生んだともいえる、力のこもったドキュメンタリーだった。
「不滅のヘビー級チャンピオン ジョー・ルイス物語」(88)(1991.11.9.)
続いて、ジョンソン以来の黒人チャンプとなったジョー・ルイスを描いたドキュメンタリー。
ここでは、ジョンソンとは違った形の“黒人の立場”が浮かび上がってきた。ひたすら白人に反抗することで自己表現をしたジョンソンとは対照的に、ルイスは白人社会と同化することで、ステータスを築いていった。
だが、徴兵に応じた結果、軍や国に食い物にされてボロボロになっていく。そこに、反抗しようが同化を図ろうが、結局は悲劇につながってしまった彼らの哀れを感じて切なくなってしまった。彼らが行った挑戦が実を結ぶのは、カシアス・クレー=モハメド・アリの登場まで待たなければならなかったのだ。
この二本のドキュメンタリーが描いたものは、今の黒人全盛のヘビー級戦線からは想像もつかないが、確実に存在した歴史の悲しい断片である。