『ピンク・クラウド』(2023.1.26.オンライン試写)
高層アパートの一室で一夜を共にしたヤーゴ(エドゥアルド・メンドンサ)とジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)を、翌朝、けたたましい警報が襲う。強い毒性を持つピンク色の雲が街を覆い、その雲に触れるとわずか10秒で死に至るのだという。
2人は、窓を閉め切って部屋に引きこもり、そのままロックダウン生活を強いられることになる。事態は一向に好転せず、人々はこの生活が終わらないことを悟り始める。
月日が流れ、父親になることを望むヤーゴに、ジョヴァナは反対するが、やがて2人の間にリノが誕生。リノは家の中という狭い世界で成長し、ヤーゴは新しい生活になじんでいくが、ジョヴァナの心中に生じた歪みは次第に大きくなっていく。
突如として発生した毒性の雲により部屋の中に閉じ込められてしまった人々の姿を描いたSFスリラー。これまで6本の短編作品を手掛けたという、ブラジルの新鋭女性監督イウリ・ジェルバーゼの長編初監督作。
2017年に脚本が書かれ、19年に撮影されたというから、何とコロナによるロックダウン以前に作られた話ということになる。先見の明とでもいおうか、その類似性には驚くばかりだが、同時に、SFが現実になってしまったような薄気味悪さも感じさせられる。
ピンクがかった画調による、絶望的な閉塞感の中で、ヤーゴ(男)とジョヴァナ(女)の違いが浮き彫りになってくるところが面白い。コロナ禍がなければ、“ちょっと変わった映画”という評価だけで終わっていたかもしれない。その意味では、“時を得た映画”ともいえるだろう。