『徳川家康』(65)(1983.1.1.テレビ東京)
黒澤明の『蜘蛛巣城』(57)を見た後だからなのか、ひどく時代がかった映画という感じがした。力作ではあるのだろうが、人物の描き方が何とも古くさく見えてしまった。伊藤大輔の作品はあまり見たことがなかったので、期待していたのだが残念だった。
もっとも、伊藤の本来の実力は、サイレントからトーキーの初期にこそ発揮されていたようだから、晩年のこの映画だけで評価を下してしまうのは違うとは思うのだが…。
この映画は、徳川家康(北大路欣也)と織田信長(中村錦之助)の人生を、織田と今川に挟まれた松平家の視点で、家康(竹千代)の出生前から桶狭間の戦いまでが描かれる。つまり、タイトルは“家康”なのに、主役は信長という妙なバランスのものになっているのだ。そこも違和感を覚えた理由の一つだった。
【今の一言】実はこの企画は、当初は内田吐夢の『宮本武蔵』シリーズのように、5部作の予定だったものが、東映時代劇の衰退とも重なり、これ1本で打ち切りとなり、伊藤は東映を退社したのだという。なるほど、バランスの悪さや尻切れトンボのような終わり方の原因はそこにあったのか。
最近、大河ドラマ「青天を衝け!」で、北大路が老いた家康を演じていたのを見ていたから、それを経て改めてこの映画を見ると、感慨深いものがあった。また、今回の放映は、大河ドラマ「どうする家康!」にあやかったものだったのか。