『こんにちは、母さん』(2023.7.26.松竹試写室)
大会社で人事部長を務める神崎昭夫(大泉洋)は、職場では常に神経をすり減らし、家では妻との離婚問題や大学生の娘(永野芽郁)との関係に頭を抱える日々を送っていた。
ある日、母・福江(吉永小百合)が暮らす下町の実家を久々に訪れた昭夫は、母の様子が変化していることに気づく。どうも母は恋をしているようなのだ。
実家にも自分の居場所がないと感じて戸惑う昭夫だったが、隣人たちの温かさや、母との新たな触れ合いを通し、自分が見失っていたものに気づいていく。
山田洋次監督が、永井愛の同名戯曲を映画化。現代の東京・下町に生きる家族と隣人が織りなす人間模様を描く。寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOUらが助演。
同じく山田監督と吉永主演の『母べえ』(08)『母と暮せば』(15)に続く「母」3部作の3作目。その中では初の現代劇となった。
家族、老人問題、サラリーマン、ホームレスと、さまざまなテーマを盛り込みながらも、その描き方に時代錯誤が見られ、せりふやギャグの空回りもあるが、90歳を超えた山田監督に時代に対する鋭敏さを求めても仕方がない。
むしろ、そのズレを楽しみ、老齢者から見た今の社会、あるいは理想像という視点で見ると、この映画の魅力が浮かび上がってくる。実際のところ、90歳を超えてこれだけの映画が撮れること自体が驚きに値するのだから。
また、大泉が「吉永小百合から大泉洋は生まれない」とコメントしていたが、ちゃんと親子に見えるところが、“山田演出の妙”といえるのではないかと感じた。大泉によれば「監督自身のお母さんへの思いが反映されている」とのこと。