まさかホロコースト否定論が存在するとは…
舞台は2000年のロンドンの法廷。米国在住のユダヤ人歴史学者デボラ・リップシュタットとホロコースト否定論者の英国人デビッド・アービングの対決を、実話を基に映画化した。
果たしてホロコーストの実在は証明できるのか…という争点への興味はもちろんだが、英米の裁判制度の違いを見せる法廷劇としての面白さも充実している。レイチェル・ワイズ演じる頑固なヒロインが、英国式の“チームワーク”による戦術に感化され、変化していく様子も見どころとなる。
否定論者のアービングは自明の事実を認めない完全な悪役なのだが、本当にそれは事実なのか、という疑問を投げ掛け、問題の本質を再考させる役割も果たしたところが皮肉だ。
その昔、『ボディガード』(92)を撮ったミック・ジャクソンが、いつの間にか達者な社会派監督に変身していたのに驚く。アービング役のティモシー・スポール、デボラの弁護士役のトム・ウィルキンソンが巧演を見せる。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
夫婦の愛情劇+奇想天外な冒険ファンタジー
『DESTINY 鎌倉ものがたり』
詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1133917
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ライアン・ジョンソン監督に、公開前の“今話せる範囲”でインタビュー取材。
『ブレードランナー2049』のドゥニ・ヴェルヌーヴ同様、若くて、真面目で、オリジナルにとても敬意を払っていると感じた。
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1133603
『どですかでん』は、黒澤、木下惠介、市川崑、小林正樹が設立した「四騎の会」が製作したものだが、その後、小林は『いのちぼうにふろう』(71『深川安楽亭』)を、市川は、ハイビジョンドラマ『その木戸を通って』(93)、『どら平太』(00『町奉行日記』)、『かあちゃん』(01)を、と、それぞれ周五郎の原作を映画化している。このうち『その木戸を通って』が、周五郎が得意とする“忽然と姿を消す不思議な女の話”として出色の出来だ。
『町奉行日記』は、岡本喜八が仲代達矢のとぼけた味を生かして「着ながし奉行」(81)としてドラマ化したが、それ以前にも、大映の三隅研次が勝新太郎主演で撮った『町奉行日記 鉄火牡丹』(59)がある。三隅は他にも、長谷川一夫が原田甲斐を演じた『青葉城の鬼』(62『樅の木は残った』)、藤村志保主演の『なみだ川』(67『おたふく』)で、周五郎原作の映画化に取り組んでいる。これらはいずれも未見なので、いつか見てみたい。
東映の田坂具隆は、中村錦之助主演で『ちいさこべ』(62)と、3編の短編をオムニバス形式で映画化し、錦之助が一人三役を好演した『冷飯とおさんとちゃん』(65)を撮っている。この2本は、黒澤の『赤ひげ』とは違った意味で、周五郎原作の神髄を描いたと言っても過言ではないだろう。
日活の野村孝は、『さぶ』の時代設定を明治に移して、小林旭の栄二、長門裕之のさぶで『無頼無法の徒 さぶ』(64)としたが、やはりこれは妙なものだった。時代は変わり、藤原竜也の栄二、妻夫木聡のさぶで三池崇史が監督した『SABU~さぶ~』(02)は、背景は江戸時代に戻したものの、演出が今一つという感じだった。
松竹では、野村芳太郎が妖艶な岩下志麻主演の『五辨の椿』(64)と、コント55号主演の喜劇『初笑いびっくり武士道』(72『ひとごろし』)を撮っている。後者の映画化としては、大洲斉監督が監督し、松田優作が主演した『ひとごろし』(76)もある。この2本を見ると、同じ原作を使っても、こんなに違った映画になるのか、という楽しみを感じることができる。
で、東宝で川島雄三が撮った『青べか物語』(62)には、森繁久彌演じる先生と呼ばれる作家が登場する。原作はもちろんのこと、これは周五郎自身をモデルにしたキャラクターだろう。
『冷飯とおさんとちゃん』については↓
http://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9dd3b2f40b7d6217615ade4cdf595ff7
山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を連続ドラマ化した「赤ひげ」がNHK BSで放送中。船越英一郎の新出去定(赤ひげ)と中村蒼の保本登という配役を聞いて、見る前は、一体どうなることかと思ったが、実際に見てみると両者ともなかなか頑張っており、結局毎回見ている。何より、ほぼ連作短編集である原作通りにドラマ化しているところがいいのだ。
『赤ひげ診療譚』の映像化に関しては、黒澤明が、三船敏郎の去定、加山雄三の登で映画化した『赤ひげ』(65)が決定版だが、テレビドラマ「赤ひげ」としても、去定=小林桂樹、登=あおい輝彦(72)、去定=萬屋錦之介、登=田原俊彦(89)、去定=藤田まこと、登=高嶋政宏(97)、去定=江口洋介、登=伊藤英明(02)がある。
このうち、72年版では途中まで倉本聰が脚本を書いていたが、倉本は周五郎の短編『人情裏長屋』を連続ドラマ化した高橋英樹主演の「ぶらり新兵衛道場破り」(73)の脚本にも参加している。このドラマは、周五郎の他の短編も取り入れた趣向が冴えを見せる、なかなかの名作。その「人情裏長屋」は、最近も、高橋克典主演で「子連れ新兵衛」としてドラマ化された。
黒澤は『赤ひげ』の他にも、周五郎の原作から、短編『日日平安』を『椿三十郎』(62)として、連作短編集『季節のない街』を『どですかでん』(70)として映画化した。その他、黒澤が周五郎の原作を基に書いた遺稿シナリオを、小泉堯史が『雨あがる』(99)として、熊井啓が『海は見ていた』(02)として映画化している。黒澤は周五郎の小説が大好きで、しかもあまり強くない者を主人公にしたものがお気に入りだったという。
(続く)
黒澤の『赤ひげ』については↓
http://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/26bccad59a259cfe75f68aa0e4fe0010
ハミルも66歳って、そりゃあ、オレも老けるわけだ…。
https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1133396
1982.2.5.有楽座での初見の際のメモを。
前作『1941』(79)は、今後のスピルバーグの映画は大丈夫なのか、と思わされるほど出来が良くなかった。『激突!』(71)『続・激突!カージャック』(74)『ジョーズ』(75)、そして『未知との遭遇』(77)と、これまでの彼の映画は見る者を引き込んでしまうしまう魔力に満ちあふれていた。それなのに、そのスピルバーグが、ただ物をぶっ壊すだけの笑うに笑えないコメディを撮った。これはかなりショックな出来事で、今まで俺たちを楽しませてくれた彼は一体どこへ行ってしまったのかと思わされた。
だから、この映画に関しても、正直なところ、期待半分、不安半分といったところだった。ところが、この映画では『1941』以前のスピルバーグに戻ってくれたばかりでなく、さらに成長した姿を示してくれたのである。スピルバーグが復活した!
ジョージ・ルーカスが製作し、スピルバーグが監督したこの映画は、モーゼの十戒の破片を納め、神秘的な力を宿すといわれる聖櫃を巡って、考古学者インディアナ・ジョーンズがナチスと対決するさまを描いたアドベンチャー作。
ジョン・ウィリアムスの軽快な音楽に乗って、もう出だしからハラハラドキドキの連続。まさに“活動大写真”の醍醐味にあふれ、映画の原点である見る者を楽しくさせるという作用が働いて、気が付けば、時のたつのも忘れて引き込まれた自分がいた。
伏線が張り巡らされた見事なストーリー展開、『激突!』や『ジョーズ』の驚かしをさらにスケールアップした見せ場、ジョーンズ役のハリソン・フォードのスーパーマンぶり、「007」シリーズなどとは一味も二味も違うアクション…。
それだけではない。「ターザン」や、『駅馬車』(39)をはじめとする西部劇など、往年のハリウッド活劇をなぞり、おまけに黒澤明タッチすら見せるのだ。まさに映画狂スピルバーグの面目躍如。こうした温故知新の精神を持っているところが、スピルバーグやルーカスの良さでもある。
と、スピルバーグの復活を喜びながら、その反面、若いうちに、すごい映画をたくさん作ってしまった彼は、ずっとこの水準を保ちながら映画を撮り続けていけるのだろうか…という不安が頭をもたげる。また『1941』のような失敗作を作らないことを願うばかりばかりだ。それだけ期待しているということですよ。スピルバーグ殿。
【今の一言】あれから35年…。この話の続きは、「インディ・ジョーンズ」と名を変えてシリーズ化され、現在までに『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)が作られ、「5」の製作も進行中だとか。
そして、この後、スピルバーグは、『E.T.』(82)『カラー・パープル』(85)『太陽の帝国』(87)『ジュラシック・パーク』『シンドラーのリスト』(93)『プライベート・ライアン』(98)『宇宙戦争』『ミュンヘン』(05)『戦火の馬』(11)『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)などを撮り、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)が来年公開される。35年前にオレが抱いた不安は、杞憂に過ぎなかったのだ。
2011年8月29日、妻と共に飯田橋ギンレイホールで見た際のメモを。
夫:今年のアカデミー賞で作品、監督、脚本、主演男優賞を受賞した話題作を遅ればせながら見たね。
妻:スクリーンで見られる最後のチャーンス!と思ってギンレイホールね。平日なのに満席。
夫:英国王室のスキャンダルとも言える実話の映画化だけど、こういう映画が作られるという点では、日本の皇室とは大違いだな。もともとイギリス人は王室のスキャンダルが大好きだしね。とにかく脚本がうまいと思ったよ。
妻:イギリス王室ものといえば、『エリザベス』とか『クイーン』、最近では『ブーリン家の姉妹』とか。ひえー、こんなことまで映画にしちゃっていいんですか、女王さま! みたいな衝撃的な話があるよね。
夫:コリン・ファースが演じたジョージ6世が悩んだ吃音症だけど、英語だからなのか正直なところもう一つぴんとこなかったなあ。
妻:ああ、それは、映画を見た友だちも言ってたわ。
夫:日本語吹き替えでもう一度見直してみたい気もするなあ。それから、シェークスピアの芝居やセリフが劇中にたくさん登場するんだけど、これも出典を知らないと心底楽しめないところがあると思うな。
妻:そうそう、シェークスピアのセリフってこの映画に限らず、映画(洋画)の中によく出てくるね。それって、こっちでいうと歌舞伎や落語のセリフのちょっとしたフレーズを言う感覚なのかしらね。
夫:プロデューサーも兼ねたジェフリー・ラッシュが結構おいしいところを持っていってるよね。彼の長くてでかい顔を見ていると、何だか、馬面の個性派俳優、伊藤雄之助を思い出すんだよなあ。ラッシュが喜劇をやったら結構面白いと思うよ。
妻:難しいことはよく分かりませんが、これはコリン・ファースよりはジェフリー・ラッシュの映画ですな。プロデュースしているから当然か。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
演者の異なる古典劇を見るような楽しみがある
『オリエント急行殺人事件』
詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1133096
久しぶりに『オズの魔法使』を見た。
ところで、この映画のユニークな登場人物や歌曲について、アルバムや曲の中で取り上げているミュージャンが結構いる。
エルトン・ジョンが1973年に発表したアルバム『黄昏のレンガ路』のタイトル曲は「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード(Goodbye Yellow Brick Road)」。これは、ドロシー(ジュディ・ガーランド)たちがオズを目指して歩いた道のことだ。
https://www.youtube.com/watch?v=DDOL7iY8kfo
「金色の髪の少女(Sisters Golden Hair)」が有名なアメリカの74年発表のアルバム『ホリデー(Holiday)』の中に「魔法のロボット(Tin Man)」という、哀愁に満ちたいい曲が入っていた。もちろんあの“ブリキ男”(ジャック・ヘイリー)のことを歌った曲だ。
https://www.youtube.com/watch?v=7uJL8er_tV0
スティーブン・ビショップは、78年に発表した『Bish(水色の手帖)』のオープニングに、かかし男(レイ・ボルジャー)が歌った「私は脳味噌が欲しい(If I Only Had A Brain)」をインストロメンタルで流し、自曲「ルージング・マイセルフ・イン・ユー(Losing Myself In You)」につなげている。
https://www.youtube.com/watch?v=pMLpA2B21tE
81年のフィル・コリンズのファースト・ソロアルバム『夜の囁き(Face Value)』のラストはビートルズの「トゥモロー・ネバー・ノウズ(Tomorrow Never Knows)」のカバーだが、曲の最後のところで、『オズの魔法使』のテーマ曲「オーバー・ザ・レインボー(Over the Rainbow)」が聞こえてくる。
https://www.youtube.com/watch?v=AQCjIZKrqG0
まあ、ほかにもいろいろとあるだろうけど。 彼らにとって“オズ”は一種のイコンなのだろうなあ。