昭和の作家たちが、新聞や雑誌に寄稿した映画に関する文章を集めたアンソロジー。どれも興味深く読んだが、ハリウッド映画はどこか小馬鹿にするのに、フランス映画は芸術として語るところに作家の気取りを感じる。そんな彼らの姿勢が、日本の映画批評や評論に与えた影響は少なくないと思わされた。
印象に残ったものは、江戸川乱歩がヒッチコックを論じた4編。ヒチコック技法の集大成(『見知らぬ乗客』)、ヒチコックの異色作(『ダイヤルMを廻せ!』)、恐怖の生む滑稽(『ハリーの災難』)、ヒッチコックのエロチック・ハラア
多分映画が大好きな、高見順の「陽のあたる場所」を見る、「チャップリンの独裁者」を見る、「恐怖の報酬」、「映画の感動に就いて」(『民族の祭典』)
ここにも寺山修司ワールドが…。「円環的な袋小路」(『81/2』)、「ぼくはジェームス・ディーンのことを思い出すのが好きだ」
川端康成がモンローの“自殺”について語るとは…。「大女優の異常 マリリン・モンロー」、あるいは「頻々たる文藝作品の映画化に就いての感想」
その他、「怒りの葡萄」とアメリカ的楽天主義」(福永武彦)、「心理のロマネスク」(『居酒屋』吉行淳之介)、「映画と想像力」(『モダン・タイムス』内田百閒)、「志賀さんと映画」(阿川弘之)、「スリラー映画」(松本清張)、「映画に現われたユーモア」(獅子文六)、「この映画と私」(『戦場にかける橋』今日出海)、「太宰治先生訪問記」(関千恵子)、「永井荷風先生 映画ゾラの『女優ナナを語る』」、「映画革命に関する対話」(司馬遼太郎/岡本太郎)などなど。