田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『デトロイト』とドラマティックス

2018-01-11 09:21:20 | 新作映画を見てみた

 今年最初の試写は、『ハートロッカー』(08)『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)の“女オリバー・ストーン”こと、キャサリン・ビグローが、1967年のデトロイト暴動の最中に起きた「アルジェ・モーテル事件」を描いた『デトロイト』だった。



 前半は、暴動が広がる様子を、中盤はアルジェ・モーテル事件を、後半は裁判を描く、という三幕構成。アルジェ・モーテル事件における、白人警官が黒人に強いる、逃げ場のない“死のゲーム”の執拗な描写を見ていると、案外、女性の方がしつこいのかもしれないと思えてくる。

 ただならぬというか、不快な緊張感が漂う中、警官役のウィル・ポールターの嫌悪感しか抱かせないような演技が秀逸だ。こういう映画を見ると、今も続く、白人警官による黒人への暴力の原因は、単純なものではなく、人種、貧困、労働など、根深い問題をはらんでいる、と改めて感じさせられた。

 ところで、モータウンがデトロイトの治安の悪さからロサンゼルスに移ったのは知っていたが、「イン・ザ・レイン」を歌っていたドラマティックスが事件に巻き込まれていたことは知らなかった。72年に発表されたこの曲は、事件との直接の関係はないのだが、映画を見た後で久しぶりにこの曲を聴き、歌詞の意味を考えたら、感慨深いものがあった。

https://www.youtube.com/watch?v=ux8gZuvTVR8

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「大草原の小さな家」

2018-01-09 16:14:38 | 映画いろいろ

 FOXチャンネルが暮れから正月にかけて、「大草原の小さな家」(「Little House on the Prairie」)の全シリーズを連続放送した。19世紀末、西部開拓時代の米ミネソタのウォルナットグローブに住む、インガルス一家の日々を描いたファミリードラマである。



 頼もしい父チャールズ(マイケル・ランドン)、心優しい母キャロライン(カレン・グラッスル)、大人びた長女メアリー(メリッサ・スー・アンダーソン)、お転婆な次女ローラ(メリッサ・ギルバート)に、町の人々などがからみ、心温まるエピソードが綴られていく。1970年代後半、我が高校時代にNHKで放送されていた頃は、仲良しのファミリームードや女々しい感じのストーリーが嫌で、デビッド・ローズ作曲のテーマ曲が鳴り始めるとチャンネルを変えた覚えがあるが、実はメリッサ・スー・アンダーソンのことは好きだった。

 ところが、それから40年余を経た今、改めて見直すと、思いの他面白く、しかも何だか身にしみて、結構な本数を見てしまった。今回は途中から見始めたので、すでに放送は、80年代に作られた「シーズン6」(全く未見)に入っていたのだが、どちらかといえば暗い話が多かった。このドラマの舞台は西部開拓時代だから、いわゆる“時代劇”なのに、作られた80年代の世相や雰囲気を如実に反映しているところがあるのだ。

 結婚後のローラが主役となった「シーズン9」や、3本のスペシャルになると、さらに悲しい話が続き、最後は、地上げに遭い、ウォルナットグローブの住民自らが町を破壊するという、後味の悪さと空しさが残る結末となった。一部で囁かれた、病を得たマイケル・ランドンがドラマを“私物化”した結果、というのは、どうやら都市伝説らしいのだが、では、一体なぜこんな終わり方になったのだろうか。 

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『ジャコメッティ 最後の肖像』

2018-01-07 07:00:04 | 新作映画を見てみた

あなたは本当に天才なのか?



 1964年パリ。著名な芸術家ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)が、友人の米人作家ロード(アーミー・ハマー)に「肖像画のモデルになってほしい」と声を掛ける。2日で終わるという言葉を信じて、気軽に引き受けたロードだったが、作業は遅々として進まない。果たして肖像画は完成するのか…。

 二人芝居のような画家とモデルの対決をコミカルに描く中で、芸術家の気まぐれ、苦悩、葛藤が浮き彫りになる。ロードの「ジャコメッティ、あなたは本当に天才なのか?」という叫びが聞こえてくるようで面白い。名脇役スタンリー・トゥッチの監督作。ラッシュの怪演が見ものだ。

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川の街・広島 『この世界の片隅に』『その夜は忘れない』

2018-01-06 16:49:20 | 雄二旅日記



 今年の正月は妻の実家がある広島を訪れた。平和公園(原爆ドーム前)から宮島まで高速船で巡った。川と海から広島の街並みが堪能できる。この船で宮島に行くのは2度目だが、今回は『この世界の片隅に』を見た後なので感慨深いものがあった。方向は異なるが、冒頭に、ヒロインのすずが、江波から船に乗って中心部を訪れる場面があるからだ。

 川沿いには、すずが上陸し、吉村公三郎監督、若尾文子、田宮二郎共演の『その夜は忘れない』(62)でも印象的に登場した、雁木(がんき)と呼ばれる階段のような船着場が今も残っている。こうして見ると、広島はまさしく川の街なのだが、かつては東京もそうだったのだ…。

【コラム】「前向きなメッセージを発信 「この世界の片隅に」がヒット」↓
https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2017-02-08_1588425/

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【ほぼ週刊映画コラム】『キングスマン:ゴールデン・サークル』

2018-01-06 15:43:22 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

英米のカルチャーギャップが面白い
『キングスマン:ゴールデン・サークル』



詳細はこちら↓

https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1136673
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『ヒトラーの試写室』『ジェームズ・ボンドは来ない』(松岡圭祐)

2018-01-05 09:03:51 | ブックレビュー

フィクションとノンフィクションの狭間が面白い

 

 『ヒトラーの試写室』は、1937(昭和12)年、俳優志望の夢破れた柴田彰は、偶然、知り合った円谷英二の下で日独合作映画『新しき土』の特殊撮影に従事する。その後、彼らが手掛けた『ハワイ・マレー沖海戦』(42)の特撮技術の優秀さに、ナチスの宣伝相ゲッベルスが目をつける。映画による人心の掌握と統制を進めるゲッベルスは、柴田をベルリンに招聘し、タイタニック号の航海を描く映画の特撮シーンの担当を命じるが…という歴史秘話もの。

 序文に「この小説は史実から発想された」とある。ドイツが戦中にタイタニックの映画を作ったことは知っていたが、そこに日本人が絡んでいたとは全く知らなかった。まずは、その点に興味を覚えさせられる。そんな本書のユニークな点は、伝説の尽きない円谷はもとより、ヒトラーの腰巾着的なイメージが強く、単に映画をプロパガンダに利用したと見られがちなゲッペルスの、“映画狂”としての側面を描いているところだ。

 また、原節子との絡みなど、創作した部分も多々あると思われるが、オレのような映画好きにとっては、当時の日独の映画界や特殊撮影の舞台裏などを垣間見ることができるという楽しみもある。最後まで読むと、円谷、ゲッペルスという対照的な人物の下で特撮製作に従事した柴田のモデルは一体誰なのだろうかという興味が湧く。

 片や『ジェームズ・ボンドは来ない』は、瀬戸内海に浮かぶ直島に、映画『007/赤い刺青の男』のロケを誘致する…、という突拍子もない実話を小説化したもの。こちらの話については、そんな事実があったことは全く知らなかった。

 さて、映画にまつわる実際の出来事とフィクションを巧みに織り交ぜるという手法は『ヒトラーの試写室』と同じだが、こちらはヒロインの高校生を中心に、島民たちの姿をコミカルに描いた群像劇として読ませる。また、映画好きにとっては、サイドストーリーとして、007シリーズの変遷が語られるところも楽しい。どちらも、フィクションとノンフィクションの狭間の中で、何かに熱中していく人々の“狂気”を描いているところが面白かった。

 

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