田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「BSシネマ」『ホタル』

2021-10-27 07:21:16 | ブラウン管の映画館

 鹿児島を舞台に、戦争の傷を背負いながら静かに生きる夫婦の姿を描く。監督・脚本は降旗康男。

 妻の知子(田中裕子)と小さな港町で養殖業を営む山岡(高倉健)に、ある日、特攻隊の仲間だった藤枝(井川比佐志)の訃報が届く。これをきっかけに、山岡は、かつて特攻隊員たちから慕われていた食堂の女主人(奈良岡朋子)の頼みを引き受ける。それは山岡たちの上官だった金山少尉・本名キム・ソンジェ(小澤征悦)の遺品を故郷の韓国へ届けるというものだった。

 この映画の発端は、『鉄道員(ぽっぽや)』(99)のスタッフたちに、「今見るべき映画」として、初めて健さんが自ら映画化を持ち掛けたことだったという。健さんは、特攻隊の生き残りである漁師を演じ、主人公と妻の生き方を通して昭和という時代を振り返った。健さんがハモニカを吹く珍しいシーンもある。

 『鉄道員(ぽっぽや)』とこの映画は、健さんとスタッフたちが、長年映画作りの現場で培ってきたものの集大成と呼べるような作品となった。

“これぞ高倉健”というイメージを作り上げた降旗康男
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/85483d84925a696f8b433dd5ed395419

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「目黒シネマ」「吉沢商店目黒行人坂撮影所」

2021-10-26 22:13:04 | 雄二旅日記

 取材のため、久しぶりに目黒を訪れた。五反田に住んでいる頃によく通い、取材をしたこともある権之助坂上の「目黒シネマ」は健在だった。

 目黒といえば、杉野ドレスメーカー学園のある、通称「ドレメ通り」と呼ばれる辺りに、日本初の映画撮影所「吉沢商店目黒行人坂撮影所」が、1908年(明治41年)に作られたことを知っていたので、周辺を少し歩いてみたが、昔をしのぶよすがは何一つ残っていなかった。

【違いのわかる映画館】目黒シネマ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/98f69a9cf9e2c9922cd96f293bc04bf4

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『アイス・ロード』

2021-10-26 07:58:07 | 新作映画を見てみた

『アイス・ロード』(2021.10.25.GAGA試写室)

 カナダのダイヤモンド鉱山で爆発事故が起こり、作業員26人が地下に閉じ込められた。事故現場に充満したガスを抜くための巨大な救出装置を運ぶため、トラックドライバーが集められる。

 メンバーは、ベテランドライバーのマイク・マッキャン(リーアム・ニーソン)と戦場で傷つき失語症となったが、整備士としてはすご腕の弟ガーディ(マーカス・トーマス)、伝説のドライバー、ジム・ゴールデンロッド(ローレンス・フィッシュバーン)と元部下で先住民の血を引くタントゥー(アンバー・ミッドサンダー)、そして保険会社から派遣されたトム・バルネイ(ベンジャミン・ウォーカー)。

 鉱山への最短ルートは、厚さ80センチの氷の道「アイス・ロード」で、スピードが速過ぎればその衝撃で、遅過ぎれば重量で、氷が割れて水中に沈んでしまう。

 地下の酸素が尽きる30時間以内に装置を届けるべく、危険な氷の道を命がけでトラックを走らせる彼らだったが、爆発事故の裏にはある陰謀が隠されていた。

 『フライト・ゲーム』(14)では飛行機、『トレイン・ミッション』(18)では通勤電車を舞台に大活躍を見せたニーソンが、今度は巨大トラックで…、と聞いただけで面白くなりそうな予感がした。
 
 で、爆発事故の発生から、救出装置を運ぶトラックドライバーが集まり、アイス・ロードに向かうまでは快調で、期待が高まった。ところが、危険な氷上から鉱山までの行程をたっぷり見せてくれるのかと思いきや、残念ながら、途中から陰謀絡みの話に転化して失速する。

 監督・脚本のジョナサン・ヘンズリーは、危険な輸送を描いた『恐怖の報酬』(53・77)と障害者が出てくる『二十日鼠と人間』(39・92)を意識したらしいが、本来はB級映画のノリで作るべきものを、自身が脚本を書いた『ダイハード3』(95)『ザ・ロック』(96)『アルマゲドン』(98)などと同じような、大作のノリで作ってしてしまった点がまずかったのではないかと思う。ジャウマ・コレット=セラのように、もっとシンプルにすればよかったのだ。

 また、さすがにニーソンにも疲れが見えた気がしたが、ほとんどCGを使わずに撮られたという、氷上の景観は素晴らしかった。

『フライト・ゲーム』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/557f1afd12f18e2c892dbc3c4dbd416a

『トレイン・ミッション』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/59dc2cd81a7576341554166a64a460e3

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「BSシネマ」『わが谷は緑なりき』

2021-10-26 07:08:56 | ブラウン管の映画館

『わが谷は緑なりき』(41)

「どこを切ってもフォードの味がでている」(小津安二郎)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0f9b2c2ebf7ea85bbbf87da02892732b

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『梅切らぬバカ』

2021-10-25 08:47:49 | 新作映画を見てみた

『梅切らぬバカ』(2021.10.24.オンライン試写)

 山田珠子(加賀まりこ)は占い業を営みながら、自閉症の息子・忠男(チューさん=塚地武雅)と暮らしている。庭に生える梅の木は忠男にとって亡き父の象徴だが、その枝は私道にまで伸びていた。

 隣りに越してきた里村茂(渡辺いっけい)は、通行の妨げになる梅の木と予測不能な行動をとる忠男を疎ましく思うが、里村の妻子(森口瑤子、斎藤汰鷹)は珠子と交流するようになる。

 珠子は自分がいなくなった後のことを考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームに忠男を入居させる。ところが、環境の変化に戸惑う忠男はホームを抜け出し、ある事件に巻き込まれてしまう。

 年老いた母と自閉症の息子が地域の偏見や不和にさらされながら、自立の道を模索する姿を描く。タイトルは、対象に適切な処置をしないことを戒めることわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」に由来し、人間の教育においても、桜のように自由に枝を伸ばすことが必要な場合と、梅のように手を掛けて育てることが必要な場合があることを意味している。

 この手の映画によくありがちな、きれいごとで描いたり、安易なハッピーエンドにはしていないところがリアルだ。自分の甥にも知的障害があるので、近隣住民の反応や家族のやるせない気持ちはよく分かる。

 そして、この親子のような障害者のいる家族の日常は答えがでないまま続いていくのだし、奇跡のような劇的な変化も訪れはしないのだから…。まあ、それだけでは暗澹たる気持ちになるので、親子のユーモラスなやり取りや、隣の家の一家の変化で救いを持たせてバランスを取っている。

 里村の息子とチューさんの関係を見ながら、『アラバマ物語』(62)に出てきたブー(ロバート・デュバル)のことを思い出した。

 塚地が『レインマン』(88)のダスティン・ホフマンに負けず劣らずの演技を見せ、大ベテランとなった加賀が見事にこれを受け止めている。77分の小品だが、いろいろなことを考えさせられる映画。初対面の和島香太郎監督は元横綱北の富士の甥だという。

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『映画の森』「2021年 10月の映画」

2021-10-25 07:10:32 | 映画の森

 共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)10月25日号で、『映画の森』と題したコラムページに「2021年 10月の映画」として、5本の映画を紹介。独断と偏見による五つ星満点で評価した。

ダニエル・クレイグ版ボンドシリーズの完結編
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』☆☆☆☆

フランス人監督が描いた“最後の日本兵”の30年間
『ONODA 一万夜を越えて』☆☆☆☆

悪人が一人も登場しないところが心地いい
『かそけきサンカヨウ』☆☆☆☆

映画館で見ることが必須だと感じさせる
『DUNE/デューン 砂の惑星』☆☆☆☆

新解釈や新たな場面を加えて描く新選組
『燃えよ剣』☆☆☆

クリックで拡大↓

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『老後の資金がありません!』

2021-10-24 13:20:45 | 新作映画を見てみた

『老後の資金がありません!』(2021.10.23.東映試写室)

 垣谷美雨の同名小説を前田哲監督が映画化。2年前に撮影され、コロナ禍で公開が1年延期になったために、くしくも、この映画と『そして、バトンは渡された』という、家族を描いた前田監督の2本の映画が、同時に公開されることになった。

 後藤篤子(天海祐希)は、家計に無頓着な夫の章(松重豊)、フリーターの娘まゆみ(新川優愛)、大学生の息子・勇人(瀬戸利樹)と暮らす平凡な主婦。コツコツと老後の資金を貯めてきた。

 ところが、しゅうとの葬式代、パートの突然の解雇、娘の結婚、さらには夫の会社が倒産と、貯えた金を目減りさせる出来事が次々と降りかかる。そんな中、夫の母・芳乃(草笛光子)を引き取ることになるが、芳乃の奔放な金の使い方で予期せぬ出費がかさみ、篤子はさらなる窮地に追い込まれる。

 前田監督は、大人が見られるコメディ映画を目指して、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)同様、一つ間違えると単なるお涙頂戴話になりかねないような難しい題材を、あくまでもエンターテインメントとしてテンポよく描いている。だから、身につまされながらも、笑いながら見ていられるのだ。

 中でも、天海のコメディエンヌぶりと、草笛のお達者ぶりが際立つ。前田監督によれば、ラスト近くで芳乃が篤子に言う「人間わがままに生きた方が勝ちよ」というセリフがこの映画のテーマだという。山田洋次監督の「家族とはやっかいだけど愛おしい」という言葉が、この映画にも当てはまる。

『そして、バトンは渡された』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/00f7f5391395477ce9e81a4b3a5ed16e

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ビデオ通話で西部劇談議『黄色いリボン』

2021-10-23 19:54:07 | 駅馬車の会 西部劇Zoomミーティング

今回のお題は『黄色いリボン』(49)

 初めて見たのは、1975年3月14日のゴールデン洋画劇場。ジョン・フォードに限らず、騎兵隊ものは、西部劇というよりも戦争映画のような感じがしてちょっと苦手だと思った。

 ところが、いつの間にか、ジョン・ウェイン=デュークが演じるネイサン・ブリトリスと同年齢になり、若い頃とは別の感慨が湧いてきた。これは、デュークを父親的な役割にした、騎兵隊というコミュニティを舞台にしたホームドラマなのだと。

 フォードは「レミントンの絵の再現を狙った」と語っているが、とにかくウイントン・C・ホッチのカラー撮影が見事。特に雷のシーンは素晴らしい。

 老け役のデュークが、亡き妻の墓前に語りかけるシーンは、『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)でシルベスター・スタローン、『人生の特等席』(12)でクリント・イーストウッドもやっていた。

 脇役では少佐夫人のミルドレット・ナトウィックが目立つ。フリント中尉役のジョン・エイガーは『アパッチ砦』に出ていたシャーリー・テンプルの元夫。

 この映画は、『アパッチ砦』(48・1986年9月13日.ビデオ)『リオ・グランデの砦』(50・1975年10月25日.土曜映画劇場)と併せて、「騎兵隊三部作」といわれるが、3本は全く別の映画。

 これは、ジョン・スタージェスの決闘三部作(『OK牧場の決斗』(57)『ゴーストタウンの決斗』(58)『ガンヒルの決斗』(59))同様、日本で勝手に付けたものかと思ったら、アメリカでも「カバリー・トリロジー」と言われているらしい。

 デュークの役名は『アパッチ砦』と『リオ・グランデの砦』は、続き物ではないのにカービー・ヨーク。ビクター・マクラグレンとベン・ジョンソンは、この映画に続いて『リオ・グランデの砦』でもクインキャノンとタイリーだ。

 これは、小津安二郎が『晩春』(49)『麦秋』(51)『東京物語』(53)と、原節子の役名を紀子にした(「紀子三部作」)のと同じような感じなのか。フォードも小津も、単に面倒くさがり屋だったから、という説もあるらしいが…。

“騎兵隊三部作”上映会
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e04e18d31b1b4d1eebc93ebf147736be

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『決戦は日曜日』

2021-10-23 07:17:59 | 新作映画を見てみた

『決戦は日曜日』(2021.10.20.オンライン試写)

 地元に根強い支持層を持ち、当選を続ける衆議院議員・川島の秘書を務める谷村(窪田正孝)。ところが、ある日川島が病に倒れたことから、娘の有美(宮沢りえ)が地盤を引き継ぎ選挙に出ることに。政界に無知、自由奔放、お嬢様育ち…、けれども謎の熱意だけはある有美に振り回される日々。とはいえ、よほどのことがない限り当選は確実のはずだったが…。

 ことなかれ主義の議員秘書と熱意が空回りする新人候補者による選挙活動の様子をシニカルに描いたポリティカルコメディ。監督・脚本は『東京ウィンドオーケストラ』(17)『ピンカートンに会いにいく』(18)の坂下雄一郎。

 まず、全体のテンポがよく、個性的な選挙事務所の面々や、後援会、県議会や市議会といった有象無象の連中(渋い脇役たち)が、皆生き生きと描かれているのも高ポイント。

 坂下監督は、『赤ちゃん教育』(38)『ヒズ・ガール・フライデー』(40)といったスクリューボールコメディを意識し、冒頭にオーケストラ調の曲とともにクレジットが流れる構成を取ったと語っているが、利用されたことを知らずに立候補し、やがて変化し、目覚めていく新米候補者という構図は、むしろ、新人の田舎議員の活躍を描いたフランク・キャプラ監督の『スミス都へ行く』(39)や、大統領の影武者が政治を変えていくアイバン・ライトマン監督の『デーヴ』(93)をほうふつとさせるところもある。

 公開は年明けだが、選挙運動の裏側とハウトゥー、二世議員の実態などを描いたこの映画が、衆院選直前の今公開されていれば…と考えると惜しい気がする。

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【ほぼ週刊映画コラム】『燃えよ剣』

2021-10-22 08:45:29 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
新機軸の新選組映画
『燃えよ剣』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1298186

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