空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫) | |
池井戸 潤 | |
講談社 |
空飛ぶタイヤ上巻 を読んだ。
本当に面白い小説だ。
トラックの脱輪事故で始まる中小企業の運送会社、赤松運送社長の奮闘劇。
某M自動車のトラックタイヤ脱輪事故をモデルとしたノンフィクション
かと思ったが、そうではないようだ。
この小説は、冒頭のプロローグから心刺すものがある。
脱輪事故の被害者が亡き妻への思いと無事に助かった
幼い息子の描写が痛烈で心がかき立てられる。
財閥系大企業のホープ自動車から、整備不良という事故車
の分析結果から、赤松運送は警察から家宅捜索を受ける。
赤松運送の若い整備士の門田への疑義、解雇、そして嫌疑
を晴らし会社へ戻るよう懇願する中小企業の社長の姿は
ぐっとくる熱いものを感じ、被害者の葬儀で描写された
姿から一変する。
大企業ホープ自動車、同グループのメガバンクホープ銀行の
官僚的、偏見に満ちたプライドと対症的な赤松社長の真正面
からの誠意。この落差がこの小説の面白みにドライブをかけて
いる。
それにしても、赤松社長へのしかかる苦難はすさまじい。
事故被害者親子からの憎しみ。
警察からの容疑者扱い
大口取引先からの取引停止
メインバンクホープ銀行からの融資中止と資金繰り
社内の動揺と退職者
真実追求の為にぶち当たるホープ自動車との攻防
危機迫る中小企業が、倒産に近づくような危機感
事故が原因でいじめられるわが子
PTA会長でありながらクレーマーの保護者とのやりとり。
これだけの大きな困難につぶれそうになりながらも社員や家族
の励ましで乗り切ろうとする忍耐と前へ進むあきらめない気力。
そんなものがギュッとつまった小説だ。
赤松社長の耐える力と真実追い求める強さが光る。
ここまで強い人間にあこがれさえ感じる本である。