ワイルド・ソウル〈下〉 (幻冬舎文庫) | |
垣根 涼介 | |
幻冬舎 |
ワイルドソウル下巻
ブラジル移民の2世たちの日本政府、外務省に対する復讐劇。
復讐劇と書くと、小説であるがゆえに殺害などが表現されがち
であるが、この小説には、その描写が無い。
復讐劇といっても、ブラジルへの移住を野放しに斡旋していた
外務省とその関係したものたちへ、当時のブラジル移民と同じめに
合わせることで、その苦しみの実体験をさせることがその目的。
当時の貧しい日本からブラジルへ数十万人移住させることで
口減らしを行うなど、いったいそこに何の国策があったのか。
現実の政府も明確な指針などが全く不明確で信用に価しないが
この小説の外務省もそうである。
辛辣な復讐劇が主人公のケイと貴子の交わす言葉で、小説全体
にいい緩みを加えて、悲壮感ただようことなく物語が進み
事件が緊迫感をもって進むので面白い。
ケイから情報をもらい取材を進めていた貴子のスクープが
メディアや世間の人々に対し背徳行為であることが、この
本の節々ででてくる。ジャーナリストとして最低限やっては
ならないことではあるが、ケイたちへの世論の同情をもたらす
為、自身と葛藤する。
あまり派手さはないけど、確実に面白い小説だと思う。