明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1149)【再掲】東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より)-1

2015年09月12日 11時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150912 11:30)

この記事はちょうど一年前、2014年9月11日に僕が「明日に向けて」に書いたものです。この中で僕は以下のように主張しています。

「世界一危険な都市での東京オリンピックの開催などはやめて、東京の安全や東北・関東の安全を、水害からも原子力災害からも放射能からも守っていくことに全力を集中させるべきだし、同じ発想で全国で安全確保の取り組みを強化すべきです。
さしあたっての原発の再稼働を止める取り組みも、こうした総体としての社会方向の転換の中に位置づけていくことが問われています。」

今回の常総市での洪水についても、事前から今回決壊した地点付近での破堤の可能性や、破堤した場合のこの地域の水没の深刻化もかなり的確に予想されていたことが報道されています。
しかし対処がまったく間に合わなかったのです。いやその上にどうもソーラーパネル会社が堤防を勝手に掘削してしまったというひどいことまでが重なっていたようですが、それも含めて、この災害は国による水害対策の遅れこそが原因です。
私たちがつかまなければならないのは、もっとたくさんの地点、広範囲の地域が水害の危機の瀬戸際に立っているということです。中でも東京は世界一、危険な都市とスイスの保険会社から名指しされています。

多くのみなさんにこの点をしっかりとつかんでいただきたいと思い、1年前に投稿した記事をそのままに再掲します。(ただし長いので2回に分けます)

ぜひお読み下さい!

*****

明日に向けて(933)東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/974f310ea1faae553cb23b4ad71496a8

守田です。(20140911 16:30)

東京は世界一危ない都市・・・。僕がこのタイトルで語ると東京の放射能汚染のことを指摘していると思われる方もおられると思いますが、このタイトルは2014年9月7日の東京新聞の記事につけられたもの。東京における水害の絶大な危険性を訴えたものです。
実はこのことは、川の専門家の間では「常識」に類することでもあります。利根川の巨大な連続堤防が大変な量の水を溜めこんでしまったおり、一度、防波堤が決壊した場合に、壊滅的な被害がでることが指摘され続けているからです。

記事で取り上げられているのは元東京都職員の土木専門家の土屋信行(64)さん。
土屋さんはスイスの保険会社がまとめた「自然災害リスクが高い都市ランキング」を引用し、首都圏が「洪水、嵐、高潮、地震、津波で、五千七百万人が影響を受ける」と想定されていることを紹介して警鐘を鳴らしています。
つまりここで取り上げられている危険性は、放射能汚染以外のものだということです。現実にはこれに深刻な汚染が加わります。
もう少し記事を見てみましょう。そこには次のような指摘があります。

***

関東平野は山に囲まれ、北西の山裾から南東方向に緩く傾斜し、東京湾に向かっている。「つまり、洪水が起きたら水が集まる場所に首都東京がある」。
最大の危険地域は海抜ゼロメートル地帯。明治以降、工業用水の確保と地下の天然ガス採取のため、大量の地下水が汲み上げられ、猛烈な勢いで地盤が沈下。
干潮時のゼロメートル地帯は江戸川区、葛飾区、江東区、墨田区、満潮時は足立、北区、荒川区、台東区にまで及ぶ。

***

僕がこの記事を取り上げようと思ったのは、東京だけの危険性を指摘したいからではありません。なぜかと言えばスイスの保険会社がまとめたランキングには、なんと東京・横浜の他、大阪・神戸、名古屋という日本の五大都市が入っているのです。
以下にランキングを示します。(東京・横浜、大阪・神戸は同率ではなく、一つの都市圏として捉えらえている)

1位 東京・横浜(日本)
2位 マニラ(フィリピン)
3位 珠江デルタ(中国)
4位 大阪・神戸(日本)
5位 ジャカルタ(インドネシア)
6位 名古屋(日本)
7位 コルカタ(インド)
8位 上海・黄浦江(中国)
9位 ロサンゼルス(アメリカ)
10位 テヘラン(イラン)

http://news.livedoor.com/article/detail/8709053/
http://media.swissre.com/documents/Swiss_Re_Mind_the_risk.pdf

どうしてこうなってしまうのか。また何を捉え返すべきか。僕は日本の近代化の中での安全性を無視した無理な都市化の矛盾が大きく表れていることをこそ、捉え返すべきだと思います。
しかもそれがこの間の異常気象の中で、何度も表面化してきている。広島土砂災害もそうです。この構造をまずはしっかりと把握しておく必要があります。

東京について再度、考察して行きましょう。紹介した記事の抜粋の中に、東京が「洪水が起きたら水が集まる場所にある」ことが書かれていましたが、実はここに東京ができたことには歴史的背景があります。
というのは記事にあるように、東京はもともと洪水の巣とでも言えるような場所で、巨大都市の構築には向かないところでした。では誰がここに巨大都市を築いたのかと言えば、徳川家による江戸の整備が始まりです。

ご存知のように、徳川家を開いた徳川家康は、豊臣秀吉の一番のライバルでした。戦国時代末期に秀吉と和睦し戦国の終焉を目指しました。この時、秀吉は、愛知県岡崎市や静岡県浜松市にいたる遠江を拠点としていた家康を国替えさせ、関八州に封じました。
実は戦国武将の多くは治水・利水にたけており、中でも秀吉は治水・利水の天才とも言うべき人物でした。織田信長が本能寺で討たれたときには、中国地方で毛利勢と相対しており、敵方の城を水攻めにしていました。
そもそも治水は領土を安定させ、軍事力のベースになる石高をあげることに寄与すると共に、攻城戦にも適用できる当代最新のテクノロジーでした。秀吉はこの知恵を使い、家康が治水に翻弄され秀吉への対抗力が落ちるようにと関八州与えたのでした。

以降、徳川家は、この洪水の巣を度重なる土木工事によって人の住める地に変えていったのですが、最も大規模なものは家臣の伊奈家による何代にも及んだ利根川の大改修工事でした。
というのはそれまでの利根川は、江戸湾に注ぎこんでいたのでした。それを大改修を行って東に方向を変え、銚子岬まで川をひっぱっていったのです。その際、かつての利根川の残りとなったのが荒川でした。

これには幾つもの目的がありました。最も大きいことは江戸を洪水から守ることでした。二つ目に治水とともに利水を発達させ、大規模に新田を開発することでした。
さらに新しくできた川の水路としての活用が目指されました。日本は日本海側が米どころで江戸時代には菱垣廻船で流通させていましたが、銚子岬から利根川に入り、西に遡ったのちに荒川を経て大消費地の江戸に至る安定的なルートが確保されたのです。
その上、江戸時代に大きな勢力を保っていた伊達藩を仮想敵とした江戸城防衛のための大外堀としての位置をも持っていました。

このように利根川の大改修工事は、江戸の町の長きに渡る発展の大きな礎となるものでした。ところがこの利根川の位置性が明治維新以降に大きく変わっていきます。
もっともインパクトが強かったのは西洋近代技術の導入であり、その中での鉄道の発達であり、このために河川管理は二つの点で大変容を被っていきます。

一つには江戸時代まで主流であった自然と調和し、共存していく技術体系が批判され、西洋式の自然を支配する技術体系に置き換えられていったこと。
川についていえば、江戸時代までは川は洪水を起こすものであり、いかに洪水の影響を和らげるのかが目的とされました。そのため防波堤の決壊という最悪の事態を招く前に、あらかじめ決めていた場所から越流させ、威力を削ぐ管理方法がとられていました。
洪水の際、恐ろしいのは水の勢いと泥だと言われます。そのためあらかじめ設けられた越流地点には防水林が設けられ、水の勢いを減じると同時に、林の中に泥が落ちる仕組みが設けられていました。

画期的だったのは、これらの管理が多くの場合、地域に任されていたことでした。地域では庄屋を中心とした寄り合いで、あらかじめ決めた越流地点から生じる被害を、いかに補てんしていくのかの話し合いなども行われていました。
結論が出るまで、寝ずに討論し続けるなどのユニークな仕組みを設けることで、全員一致まで討論が行われているところが多くあり、その結果、河川の地域による管理が可能となっていました。
越流した後にさらにまた防波堤が幾重にも出てきたり、越流した水が上流方向に誘われるようになっているなど、水を溢れさせた上で、徐々に力を削いでいく方法がとられていました。

続く

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明日に向けて(1147)洪水から命を守るために-能動的対処が問われている!

2015年09月10日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150910 23:30)

栃木県、茨城県に豪雨が降り、大洪水や土砂災害が発生しています。とくに茨城県常総市で鬼怒川が決壊し、およそ7000世帯に被害が及んでいると見積もられています。9月10日22時30分現在で行方不明10人、意識不明1人と報告されています。
両県には大雨特別警報が発令されています。数十年に一度の洪水が起こる可能性があり「ただちに命を守る行動にうつる」ことを求めるものですが、実際、鬼怒川の破堤による大規模氾濫は77年前、1938年の台風による豪雨以来だそうです。
この他、東北の福島県、山形県、宮城県、岩手県と甲信越の長野県に土砂災害警戒情報が発令されており、東京都、神奈川県、千葉県、静岡県、長野県に警報が発令されています。いずれも22時30分の情報です。

とくに福島県をはじめとした東北地方はこれからさらに雨が強まるとされていますので、河川の氾濫や土砂災害の発生に対しての十分な警戒が必要です。
すでに夜半に入っていますが、災害対策の基本は「とっとと逃げる」こと。該当地域の方は事態が深刻化する前に万が一の避難を行っていただきたいと思います。
すでに水が町を覆ってからの避難は危険です。ましてや夜間では視界も悪い。それでも山や崖に近い方は、いつもと違う音、匂いなどがする場合は、土砂災害の危険性が迫っていると考えて、身を守る行動をとってください。
避難所に行くことが危険だと判断した場合は、2階以上にあがるとともに、山側、崖側とは反対側に居るようにすることが大切です。

最新のNHKニュースを貼り付けておきます。

 各地で河川氾濫や浸水 最大級の警戒を
 NHK 9月10日 22時49分
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150910/k10010226621000.html

このニュースによると栃木県では7日に降り始めてからの雨量が多いところで600ミリを越えているとのこと、平年の9月一月の雨量の倍の量が3日間で降ったことになります。
茨城県でもおよそ300ミリの記録的な雨だそうです。また福島県会津地方でも48時間の雨量が300ミリを超え、50年に一度の記録的な大雨になっているとのこと。
雨はこれから東北の多いところで200ミリ、北海道で150ミリ、関東で100ミリ降ると予測されています。まだまだ危険が続きます。
また23時のNHKニュースによると福島県北部や宮城県南部の筆甫でも400ミリを越えているとのこと。雨雲は大きく宮城県に移動していますが、関東や福島でもまだ雨が続く可能性があります。

今回の災害で特徴的なのは、鬼怒川の堤防が大きく決壊し、常総市に大きな被害が出ていることです。140メートルぐらい破堤していると見られています。
同じ氾濫でも堤防の上を水が越えていく「越流」の場合と、堤防が壊れてしまった場合では水流、水量が圧倒的に違います。決壊は河川災害における最悪の事態です。
このため今後、万が一他の川で破堤が生じた場合は、ハザードマップには水没地帯と記されていないところまでも水がやってくることもありえます。ともあれ土砂災害警戒情報の出ている地域の方は十二分な警戒態勢が必要です。

鬼怒川の決壊の最大の要因は何か。またそこから何を学ぶ必要があるのか。一つに南北の伸びる鬼怒川の上に長く雨雲がかかり、流域全体に激しい雨が降り続いたため、水量がかつてないほどに大きくなったことがあげられます。
その点では自然の猛威が原因です。しかし他方で人間がこれらにどう対処してきたのか。またそこから今後、いかに対処することが必要なのかという点で学ぶべき点があります。

この点を、僕が常に災害対策面でその見解に学んできた群馬大学の片田敏孝さんが10日18時の毎日テレビのニュース番組に出演して解説されたのでご紹介しておきたいと思います。片田さんは次のように語りました。
「堤防の整備が国として進めてきているがまだまだおいついてない。国が管理する河川の場合、100年に1回の洪水が来ても防げる堤防作ることになっている。しかし今の投資水準では国が管理する大きな河川だけでむこう1000年ぐらいかかってしまう。
「ここ最近の気象災害は荒々しさを増している。そして仮に堤防が全部できていたとして、例えば100年に1回の洪水なら守られると言うのは、初めからそれ以上のものは守ろうとしていないことだ。
ここ最近の雨はすごい降り方なので堤防がどれだけできてもそれに委ねるのは限界がある。また最近の雨の降り方は局所的だが、市町村の方は合併などして大きくなっている。市役所でその状況が十分につかめていないということもある。
避難指示や避難勧告が適時に出されているという状況でもない。」

「情報に委ねてばかりいると危ういのだということも自覚しておかなくてはならない。状況がまずいとなったり、今夜これからひどくなるぞと把握されたら早目早目に行動をとって欲しい。
また避難勧告などはあるエリアにでる。その中には水位が低いところもあれば高いところもある。木造平屋建てもあれ鉄筋コンクリートの4階に住んでいる方もいる。個人個人にとって最適な行動はみんな違う。
これに対して避難勧告一本で自らの最適な行動になっているかというと必ずしもそうではない。最近、避難勧告が出たけれどもすでに水につかっていれば逆にとどまるという選択もありだということも伝えている。
自分にとっての最適行動は必ずしも避難勧告によって体育館に避難するばかりではない。それぞれにとっての最適行動を自分で考えなくてはいけない。そういう主体性が求められている。」

非常に重要な点です。僕もこの間、原子力災害対策についての講演を行う時、原子力災害に先立って、災害全般への備えを強くすることを提案し続けていますが、その際の最も大事なポイントがこの主体性の問題なのです。
この国の防災システムは行政から避難勧告が出たら避難するとなっています。しかしこの間繰り返している大雨は、地球的規模の気候変動を受けていると思われ、これまでの想定を突破してしまうものが多い。
とても的確に避難勧告や指示が出せる状況ではないのです。また人々の住いの場所やあり方によっても最適行動は違ってくるので、その点でも勧告や指示だけを待っていてはいけない。自主的に判断して行動することが問われているのです。

その点で注意を要するのは「特別警報」の捉え方です。特別警報は数十年に一度の大雨などの水害が予想されるときに出され、「ただちに命を守る行動をとる」ことを求めるものです。
しかしこの「特別警報」が出ていなくても、命が危機に瀕することはあります。昨年8月に起こった広島土砂災害もそうでしたし、その前の年に起こった伊豆大島での土砂災害でもそうでした。
大事なのは特別警報が出なければ「ただちに命を守る行動」をとらなくてよいとはけして考えてはいけないということです。あくまでも特別警報を一つの目安と考え、事態が深刻化しないうちに万が一に備えるのが災害対策としてはベストなのです。
そのためにさまざまな災害を想定してシミュレーションをしておくことこそが重要です。これを基礎に災害に対して能動的に行動することが大事なのです。

同時に今回の災害を見ても、気候変動が生じている中で、この国がいかに水害に弱いのかが浮き彫りになっていることを私たちはしっかりと把握しておく必要があります。
これもこの間指摘してきたことですが、スイスの保険会社(スイスリー)がまとめた危険都市ランキングでは、なんと東京・横浜が1位、大阪・神戸が4位、名古屋が6位に入っています。
「洪水、嵐、高潮、地震、津波」から算出されたものですが、スイスリーは、ワースト10の都市には「移住してはならない」とまで言っています。

洪水や水害の被害は自然災害としてだけ起こるのではないのです。都市の防災体制との兼ね合いで決まるのです。その点でスイスリーはその点で日本の諸都市の防災体制が脆弱であることをこそ指摘しているのです。
実際、国土交通省は、今、この国の中に土砂災害が発生しやすい家屋がなんと53万戸もあるとも発表しています。多くの人々が大雨が起こった際に極めて危険な地域で暮らしているのです。
それだけではありません。この国には関東大震災、南海トラフ地震などが発生する恐れや、桜島や富士山をはじめとした火山の大噴火に見舞われる可能性すらあります。にもかかわらずそれへの備えがまだまだ脆弱なのです。

火山など世界のなんと1割もが日本列島にひしめいているのに、この国の火山学者の数は40数人。ちなみにイタリアは600人だそうです。
このことひとつとってみても、この国が本当の意味での国防=民を守ることをいかにないがしろにしているのかが分かります。私たちはこの国のこの自然災害に対して脆弱なあり方をこそ克服の対象にしなければなりません。

つまり自然災害に対して能動的になるとは、自主的な判断力を養い、災害を想定したシミュレーションを行っておくことだけではなく、この国を、あるいはそれぞれが住まう地域全体を災害に強いもの変えていく努力を発揮していくことでもあります。
その最も有効な手段としてあるのは僕は自衛隊を災害救助隊に変えることだと思います。それが実現不可能だと言うのなら災害救助隊を新たに創設するのでも良い。なにせ水害に弱い国のトップテンの中に主要都市が入っているのですから絶対に必要です。

実際、今回も自衛隊のヘリコプターが救助で活躍してくれましたが、人命救助の合理性から考えれば迷彩塗装などマイナスなのです。救助隊は要救助者に見えなくてはいけないからです。自衛隊は敵に見えないように迷彩塗装しているのです。
それにも顕著なように、人を助ける論理と人と殺し合う論理はまったく違うのです。だから自衛隊のままで災害救助を行うのは合理的ではないのです。もっと人命救助に特化し、もっぱらその装備ばかりを揃え、その訓練ばかりを積んだ部隊を作った方がいい。
そして、これまで一度も使ったことのない戦車や戦闘機をどんどんハイテクの消防車や救急車などに変えてしまえば良いのです。さらにトヨタや日産に粋をつぎ込んでもらって世界中が驚き、歓迎するような災害対策機器を作りだしたらいい。
実際、自衛官の多くが災害救助活動に惹かれて入隊しているとも聞いています。自衛隊自身、積極的にそのような募集も行っています。だから変えてしまえばいいのです。繰り返しますが、水害の世界のワーストテンに主要都市が入っているのですから。

もちろんそこまではすぐには到達できないかもしれません。だとしたらまずはぜひそれぞれの地元で、行政に災害対策の強化を訴え、そこへの市民参加を求めて欲しいと思います。
そのことで市民側の防災意識、命を守り、町を守ることへの参加意識を高めていく必要があります。
そうした本当の意味での能動性の発揮を見据えつつ、たった今は、ともあれこの豪雨をしのぎ、命を守ることに力を注ぎたいです。
関東・東北地方の方々に再度、早目の避難を行うこと、「とっとと逃げる」ことを訴えます。すべての方の安全を心の底から祈っています。


 

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明日に向けて(1146)「とっとと逃げる」ことを軸に対策を構築(原子力災害対策への取組を振り返って-2)

2015年09月08日 06時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150908 06:30)

原子力災害対策への取組を振り返る記事の2回目です。

実は僕にも福島原発事故の直後、事故が進展して大変な破局が起こる可能性があると考えるのは受け入れがたい面もありました。
そんなときたまたま高木仁三郎さんの本を読み返し、目の前で起こっている事態が完全に指摘されていたことを再認識し、刹那に「高木さんごめんなさい」という思いが込み上げてきて、思わず嗚咽してしまいました。駅のプラットフォームでのことでした。
今、思い返せば、そのときに原発事故が起こった直後から、「壊滅的な破局だけは起きて欲しくない」と、何かにすがりついて拝みたくなるほどに思い詰めていた心的エネルギーが爆発し、涙とともに放出されたのだと思います。
そうして涙が止まるともに僕は「どんな破局が来たとしても受け入れよう。そこからできることを考えよう」と腹を決め、覚悟を固めました。それで書いたのが以下の記事でした。

 地震続報(19)最悪な事態になってもまだできることはある!
 2011年3月18日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/63c3639bb90f919a3a5cdba868d30713

このとき僕は次のように書いています。

 「みなさん。事態が最悪のシナリオをたどれば、炉心がメルトダウンして大気中に出てしまう可能性や、核爆発が起きる可能性があります。
 今、私たちの前にあるのは、4基の原発が深刻な危機の中にあり、さらに2基の原発もコントロールできず、このほかに、これらの使用済み燃料プールの1.4倍のプールがあって、水位も温度も把握できてない状態です。これが現にある事実です。
 ここから言えることは、最悪の場合は、チェルノブイリを上回る事態に発展するということです。それがどれほどのものになるかは全くわかりませんし、それはなったときに事実をとらえた方がよいことだと思います。

 ただそれでも確実なのは、最悪の事態を迎えても、一瞬のうちに日本人が死に絶えてしまうわけでは全くないということです。近くでは強い放射線による急性症状が発生し、亡くなる方がたくさんでます。
 これに対して、放射能を体内に取り込んでの内部被曝では、何年かかかって、ガンになる可能性があり、実際に発症が多数おこるでしょう。
 でも、それもまた確率論的に起きることで、それぞれの人がどうなるかは分かりません。サバイブの可能性はたくさんあります。
 だからその場合でもまだまだできることは山ほどあるのです。けしてこの世が終わるわけではありません。最悪の場合でも、わたしたちには必死でもがくことができるし、道はたくさんある。僕はこれこそが今、確実に言える希望だと思います。」

実際には事態は最悪までは進まず途中で止まりました。干上がりつつあった4号機プールの隣にたまたま水が張ってあり、自重で仕切り版が壊れてプールに入ってくれた。行幸の産物で最悪の破局は回避されました。その後もプールはなんとか持ってくれました。
しかしこれは結果論です。あの事故直後の一週間の中では、最悪化するたくさんのシナリオが残されていました。だからこそそれに備える必要があったのでした。
にもかかわらず世の中には「正常性バイアス」が蔓延していました。それに政府が乗っかる形で安全論を流し続けていました。そのことでほとんどの人が破局に身構えることなく、無防備に過ごし続けていました。
いや破局に身構えなかっただけではありません。実際に原発から漏れ出した放射能に対してすら無防備な生活が続けられていました。そうしてものすごくたくさんの人々が避けられない被曝だけでなく避けられた被曝までしてしまいました。

これらのことから僕の中では、原子力災害対策の中での一番重要なものは「正常性バイアス」の心理的ロックに抗うこと、このバイアスを越えることだという強い信念が形作られました。
誰だって破局的事故なんか起こって欲しくないし、放射線被曝で重篤な病気になどなりたくない。
しかしだから原発を止めることや被曝を防ぐことに一生懸命になるよりも、「原発事故が起こっても深刻化しない、ましてや破局的事故なんて起こらない。放射能を浴びても大した被害はでない」と考えた方が楽なので、そちらに流れやすい面があるのです。
僕はそこから当時、「正常性バイアス」がこの先も働き続けるだろうと強く感じました。これに抗わなくてはいけない。これを崩さなければならない。そうでないと人は放射線防護に向かってくれないと思いました。

現在もそうです。実は「正常性バイアス」は今でも強く働いているのです。このため被曝基準が事故前よりも格段に緩和されてしまったにも関わらず、まだ多くの人がそれを受け入れてしまっています。
それは放射能の危険性を認知すると、防護を始めなければならず、場合によっては避難をしなければならなくなるので、心理的ハードルが高いからです。だからこそ正常性バイアスが働きやすいのです。
これに政府が全面的に乗っかり、たくさんの御用学者を動員して被曝影響は大したことがないと宣伝しています。その上で避難の権利をせばめ、避難指示地域を縮小し、嫌がる人々を強引に帰還させようとしています。
再稼働もそうです。過酷な原発事故が再び起こる可能性を考えて身構え続けることは心的エネルギーが必要なため、正常性バイアスがかかりやすい。そこに付け込む形で原発周辺へのとり込み工作などがなされて、再稼働が強行されています。

これらから僕は一番目に「放射線とは何か、いかに防護するのか」を持ってくるよりも、避難を妨げる心理として「正常性バイアス」があることを自覚し、いざとなったら「とっとと逃げる」心構えを作ることを第一とする原子力災害対策の雛形を作りました。
するとすぐにも見えてきたのは、もともとこの観点は自然災害への対策の中でつかまれてきたものですから、「とっとと逃げる」心構えを作ることがあらゆる災害への対策においてもとても有効なことでした。
「正常性バイアスにかからないようにすることを身につけると命を守る力が増す」のでした。このため冒頭に紹介した同志社大学の松蔭寮での講演でもこの点を強調しました。
当日は学生さんたちの多くが目を輝かして聞いてくれましたが、同時に当日招かれて防火指導をしてくださった京都市消防局のみなさんが非常に共感し、喜んで帰ってくださいました。それらの姿に「ああ、この内容はもっと広げられる」と確信を持ちました。

続く


 

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明日に向けて(1145)「正常性バイアス」を乗り越えるために(原子力災害対策への取組を振り返って-1)

2015年09月07日 21時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150907 21:00)

昨日9月6日午前中に、兵庫県篠山市に赴き、篠山市消防団350人に原子力災害対策についての講演を行ってきました。
神戸新聞に記事が掲載されたのでご紹介します。

 災害に備えを 防災研修会に消防団員340人 篠山市
 神戸新聞 2015/9/7 05:30
 http://www.kobe-np.co.jp/news/tanba/201509/0008372701.shtml

篠山市消防団は団員約1200人。これまで350人規模、500人規模、350人規模と3回の大きな講演を行ってきました。初回は班長級以上でしたが2回目、3回目は一般の隊員の方も参加いただき、団員の大半の方が一度は講演を聞いてくださったことになります。
印象的なのは毎回、参加者がとても熱心なことです。毎回、午前中の開催なのですが、広い会場を見回しても寝ている隊員は一人もいない。さすがに命を守る場に何度も立たれてきた方たちだなと思いました。話のしやすい場でした。

篠山市での取り組みへの参加はこの秋でまる3年になります。第1回篠山市原子力災害対策検討委員会が開かれたのは2012年10月24日のこと。以降、13回の会議を重ねるとともに、二つに分かれた避難計画作成の作業部会を何度も開いてきました。
会議の様子が篠山市ホームページに記載されています。(作業部会は割愛されているので、途中、開催が途切れているように見えますが、もっと多数の取組が維持されてきました。)

 篠山市原子力災害対策検討委員会
 http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/post-11.html

ここでこの3年間の取組を振り返ってみたいと思います。ぜひ多くの地域での参考にしていただきたいと思ってのことです。

僕自身が原子力災害対策に取り組み始めたのは、2011年の秋に同志社大学女子寮の松蔭寮の防災訓練に招かれたことがきっかでした。友人で寮母の蒔田直子さんから「原発事故が起きたらどうしたら良いか学生たちに教えて」と頼まれたのでした。
このとき僕は福島原発事故以降に学んできた知恵を総動員して原発事故が起こった時に一番必要な知恵とは何かを考え、伝えようとしました。

福島原発事故が起こった時、僕はすぐさま原発情報の発信を始めました。それはNHKディレクターの七沢潔さんが書かれた『原発事故を問う チェルノブイリからもんじゅへ』(岩波新書1996年)という本を読んで以来、決めてきたことでした。
七沢さんは同書の冒頭でこう書いています。「私にはもんじゅ事故の周辺に、チェルノブイリ事故が発していたものとよく似た『におい』が感じられてならないのである」(同書P5,6)
彼は旧ソ連が人々に事故の深刻さを伝えず、迅速な避難措置をとらなかったこと、それと似た体質を日本が持っていることを本書の中で詳述していました。「だとしたら日本でも原発事故の際、同様のことが起きる」と強く思いました。
そのため「大地震などがあったときは近くの原発の状態を確認する」「自分に近いならすぐに避難に移り、遠いなら避難の呼びかけをはじめる」ことを心に決めていたのでした。

このため福島原発事故後にすぐに情報発信を始めました。当初は「東北地方太平洋沖地震について」という題で11本、続いて「地震続報」の題で35本の記事を書き、3月26日からタイトルを「明日に向けて」に変更して発信を続けてきました。
政府や電力会社が的確な情報を出してくれないだろうことはまさに「想定内」でしたが、ところが僕にとって以外だったのは、マスコミをはじめ社会の多くの人々が「事態はそれほど深刻にならずに収まっていく」というトーンを打ちだしたことでした。
この中にはそれまで反原発を唱えて頑張ってきた方もいました。「事故はこれ以上拡大しない」「チェルノブイリと比較にならないほど軽い」というものから「事態が深刻化するという恫喝に屈するな!」などという激しいものまでありました。
新聞もわずか2週間ぐらいで深刻なトーンが薄まりだし、どんどん危機感がトーンダウンしていく。正直なところ驚きました。僕はこの事態を先々歴史家が「何とも奇妙な数週間」と呼ぶのではと考え、以下の記事を書きました。

 明日に向けて(10)「何とも奇妙な数週間」の中を生きる
 2011年3月30日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/cf1a7be79e64b001de6f0659f0ceed89

実際、このころはまだ福島原発4号機の燃料プールの状態が安定しておらず、大変な危機が起こる可能性が濃厚にあった時期でした。
内閣では3月25日に原子力安全委員会の近藤委員長から、「最悪の場合、福島原発から半径170キロ圏を強制避難にせざるをえず、希望者を含む避難ゾーンが東京を含む半径250キロ圏になる」(近藤シナリオ)という報告が出されたました。
にもかかわらず、マスコミのほとんどが危機を語ろうとせず、そればかりか「放射能が来る」というタイトルを載せた「アエラ」が猛烈なバッシングを受け、編集長が謝罪せざるをえないような事態すら発生していました。
「大変な危機なのに危機をみようとしない。むしろ危機を口にするものをバッシングする。この事態はなんなんだ」と憤りと嘆きの混在した感情に包まれたことをよく覚えています。

このため僕が発した「何とも奇妙な数週間を生きる」という発信に、友人が応えて送ってくれた情報の中に、今の状態は災害心理学に言う「正常性バイアス」に覆われた状態なのではないかという指摘がありました。
友人は2010年5月に中日新聞に載ったスマトラ地震に関する記事を紹介してくれました。迫りくる津波を前にある人々がそれを目撃しながら避難行動をとらずに飲み込まれてしまったことを解説したものでした。
記事には以下のように書かれていました。「現代人は今、危険の少ない社会で生活している。安全だから、危険を感じすぎると、日常生活に支障が出てしまう。だから、危険を感知する能力を下げようとする適応機能が働く。
これまでの経験から「大丈夫だ」と思ってしまいがちだ。これが「正常性バイアス」と呼ばれるものだ。」早速僕はそれを「明日に向けて」に載せました。

 明日に向けて(12)避難を遅らす「正常性バイアス」
 2011年3月31日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/47e99b860ac0c9fc53a78165a2aa6a2e

この点に気が付いたのはとても大きなことでした。目の前の霧が晴れた思いがしました。「何とも奇妙な」雰囲気の正体が「正常性バイアス」であることが分かったからです。
同時に自分自身が正常性バイアスを知らぬ間に越えて出ていたことも自覚しました。一つには事前に「原発で重大事故があったときに、政府は旧ソ連のように人々を逃がしてくれないだろう。その時は逃げろと叫ぼう」とシミュレーションしていたことでした。
もう一つは事故後に事態がチェルノブイリ事故をも上回るような破局にも発展しうることに対して腹がくくれたからでした。

続く

 

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明日に向けて(1144)川内原発の危険性をしっかりとおさえよう!(過去記事のご紹介)

2015年09月06日 14時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150905 14:00)

川内原発1号機の再稼働を強行した九電は2号機に11日から14日かけて核燃料を装填し、10月中旬に原子炉を起動、11月中旬に営業運転への移行を目指しています。
この安全思想を全く欠いた政府と九電の暴挙をなんとしても食い止めていく必要がありますが、そのためにこの間、矢継ぎ早に記事を出してきました。
今回はその記事をまとめて紹介しておきたいと思います。

原発問題に取り組んでいると、一定の専門的知識がないと的確な批判が行えないため、「良く分からないから」となかなか発言しにくくなってしまう点はないでしょうか。
福島原発事故の現状を追っていても、継続的にフォローしてないと、今、どこで何が起こっているのかが見えなくなってしまいます。
あるいは東電が意図的にそうしたことも狙って、情報を小出しにし続けているので、「汚染水漏れ」と言われても、俄かにどこからどこへどれだけの量が流れているのかなど見えなくなってきてしまいます。

その点を踏まえて、僕は継続的なウォッチと情報の発信を続けています。原発安全神話、放射能安全神話の垂れ流しによって、私たち市民サイドの批判的視点を曇らされてしまわないためです。
今回は短い発信の記事になりますが、この間、発信した記事を並べてみましたので、ぜひお読み下さい。

まず8月14日に東京で行った元東芝の格納容器設計者・後藤政志さんとの対談動画を掲載し、文字起こしも行いました。
ここでは原発の根本問題と言える安全思想を全く無視した稼働についての批判が行われています。

 明日に向けて(1123)福島原発事故からつかむべきこと(後藤政志&守田敏也対談から)-1
 8月18日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9b5b445e16ed2fa9cbaac7e336870bda

 明日に向けて(1124)川内原発再稼働の危険性と「過酷事故」の曖昧化の問題(後藤&守田対談よりー2)
 8月19日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6e90c7394a36315234d435aeb267da78

 明日に向けて(1125)ベント後付けの条件設定を無理強いされて(後藤&守田対談から-3)
 8月20日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b6723e704fd2df6cea3f4b429f55ec80

 明日に向けて(1126)安全についての考え方を身につけることが問われている(後藤&守田対談から-4)
 8月21日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0643e26193fcc0fd7471b3f25e51ee0f 


稼動直後に起こった復水器のトラブルに関してただちに分析した記事を二つ紹介します。

 明日に向けて(1127)再稼働した川内原発でさっそくトラブル発生!ただちに運転を中止すべきだ!【訂正記事】
 8月22日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/649eafab984d8f08dcb08954f246de2f

 明日に向けて(1128)4年以上停めて再稼働したのは世界で14例。その全てで稼働後にトラブルが起こっている!
 8月23日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/474f1254a9054ea9bbfa3757feb15566


川内原発再稼働の危険性を分析した過去記事をまとめて、ポイントを捉えやすくした記事です。

 明日に向けて(1132)九電が川内原発の危険な出力アップを強行!問題だらけの再稼動をただちにやめるべきだ!
 8月27日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/012c4d279f47dcf2ed78970cb9cb9f64


再稼働強行の背景としてある原子力産業-東芝の原発部門に端を発する経営危機について指摘したのが以下の記事です。

 明日に向けて(1140)沈みゆく原子力産業-東芝上場廃止か?(東芝不正会計問題を問う―2)
 9月2日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1f5f8b5a15ca9d5c209ffd515e1a3b7f

 明日に向けて(1117)東芝不正会計問題の背景にあるのは原子力産業の瓦解だ!-1
 8月2日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6aa800a3bbf14bc67022035818f98209


再稼働問題を前に後景化しがちな燃料プールの危険性を指摘したのが以下の記事です。

 明日に向けて(1106)再稼働よりも核燃料をプールから早く降ろすべきだ!
 7月11日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/57302547df308390c84bd3d273118558


なお次回には川内原発をはじめ再稼働が目されているすべての加圧水型原発の製造社である三菱重工が納入した蒸気発生器がアメリカの原発で事故を起こし、修理がおぼつかずに廃炉となったことについて取り上げます。
ここには三菱が製作した最新型の蒸気発生器に大きな欠陥があったこと、要するに三菱はいまだに安全な蒸気発生器の開発に成功していないことが表れています。
このため9300億円の損害賠償訴訟を起こされており、経営の危機にも直面しつつあります。東芝に続いて三菱も苦境に陥りつつあることを押さえたいと思います。

 

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明日に向けて(1143)原発事故の中で救助や避難誘導を行う際の注意は?(原発再稼働の危険性を見据えて-2)

2015年09月05日 00時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150905 00:30)

前回、原発からの命の守り方の基本を書きましたが、今回はこれに加えて、「とっとと逃げる」と言っても、人を抱えていて逃げられない場合、あるいは人々を逃がすための仕事につかなければならない場合について述べたいと思います。
この点は僕が篠山市消防団の方たちにお招きいただいて何回も講演する中で考えてきたことです。実は正直なところ常に僕には悩みがあります。誰にも「とっとと逃げる」ことをお勧めしたいからです。
しかし篠山市の防災訓練に招いていただき、その場で原子力災害対策の講演をしたときに、その日の訓練に参加していた自衛隊のみなさんをみて深々とこの方たちのことを考えなくてはいけないと痛感しました。警察官、消防隊もそうです。

防災訓練の場では自衛官の方お話を聴くこともできましたし、その後も各地の消防署の方などにもお話をうかがってきましたが、僕が見る限り、隊内できちんとした放射線防護教育を受けている方はほとんどいませんでした。
自衛隊には核戦争を想定した部隊もあるのでそれは別格だとは思いますが、ぜひこうした特殊な任務に疲れる方たちやそのご家族の方にも、放射能からの身の守り方を身に着けて欲しいと切実に思うのです。
篠山市を見ていても、火事や水害が起きたときに真っ先に現場に駆けつけるのは消防団の方たちです。そのあとに消防署がやってくる場合が多いですが、原子力災害は自然災害との複合として起こる可能性が高いのその状況でどうするかが問われます。

実は僕は明後日6日に、再び篠山市消防団に呼んでいただいて原発が事故を起きたときのことをお話するのですが、今回は、放射能事故の際の人命救助作業、避難の誘導を行う場合に必要な知恵を話して欲しいと依頼されています。
そこで僕が強調しようと思っているのは事故の初期こそ最も徹底した放射線防護が必要だということです。なぜかと言えば放射能には半減期があるので、事故で原子炉から放射能が飛び出してきた時ほど放射線値が高いからです。
もっとも福島原発事故の場合、だんだんに事故が進行し、後から後から放射能が出てきました。「原子炉から放射能が飛び出してきた」時が続いたわけで、そのように事故が推移することもあり得ますが、ともあれ事故直後ほど徹底した防御が必要なのです。

その上で今回は具体的に消防団での対応に即して以下の点を提案するつもりです。
①ヨウ素剤を飲んで出動。飲んだ時間をメモしておく。
②曇り止め用のゴーグルを着用する。
③精度の高いマスクを使う。(場合によっては上から安いマスクを重ね頻繁に交換する。)
④カッパなどを衣服の上から着用する。
⑤肌の露出を可能な限り抑える。
⑥作業中に水を飲むときは必ずうがいをする。
⑦使ったものは作業終了時に洗うか捨てる。
⑧靴やカッパを絶対に家に持ち込まない。
⑨汚染されたものは躊躇せずに捨てる。
⑩24時間毎にヨウ素剤を追加でのむ。

まずは安定ヨウ素剤を服用することです。安定ヨウ素剤は24時間持つので、人命救助や避難誘導などをされる場合は、とにかくすぐに飲んでしまい、出動することです。効果は24時間あるのでその度に連続で飲みます。
このため篠山市ではすでに市民分の安定ヨウ素剤の備蓄を終えていますが、今後、希望者への事前配布を行う予定です。とくに消防団には優先的に配るとともに消防団分室などにも備蓄することが必要だと考えています。
なお安定ヨウ素剤の効果、飲み方、副作用がほとんどないことなどについては、提言に詳しく書いてありますのでご参照ください。安定ヨウ素剤に関する知識を身につけて置くことは、ときに人に飲むのを進める側に立つ場合もあるのでより重要です。

続いてとにかく被曝防護のためには、放射性微粒子を身体の中にいれないことが大事であり、そのためにゴーグルやマスクなどが必須であることを強調したいと思います。
その際、ゴーグルは曇り止めをしてないと作業ができず、そうなると人は退去できずにゴーグルを外しがちなので、あらゆる天候条件の中で使えるものを用意しておいて欲しいです。ちなみに曇り止め用でもホームセンターで1000円ぐらいで買えます。
マスクもN100仕様などのものを着用した方が良い。これも1枚1000円ぐらいします。そのマスクを頻繁に交換して使うのが原則ですが、1000円のものを潤沢に持てない場合は安いものを上から併用し、その交換を繰り返すのも次善の手です。

カッパなどを着るのも、家や自分の寝処に放射性物質を持ち込まないための処置です。本来はタイベックスーツなどを着るのが理想ですが、自然災害とのセットの状況では、ハードな動きにも強いカッパの方が合理的だとも思います。
行動中はこれを着ていて、終了時に水でできるだけ丁寧に付着物を洗い流し、なおかつそれを家や寝処に持ち込まず、外に干す形で使用することで、作業後に放射性物質と身体を切り離すことを狙います。
なおこのために篠山市消防団はすでにゴアテックス製の赤いカッパを全隊員分購入してあります。このことで少しでも放射性微粒子のとり込みを避けようということです。赤を使用するのは要救助者から見えやすいためです。

さらに肌の露出をできるだけ避けることです。首元などが出ないようにスカーフなどを使用します。手ぬぐいでも良いですが、暑いと外しがちなので、行動中でもつけていられるものを普段から選択しておきます。
また放射能が降る中で飲食をすることは危険ですが、水を飲まねばならないことは必ず生じるので、うがいをしてから飲むことを徹底します。
汚染されたものは可能な限り早く交換する。洗うことよりも躊躇せずに捨てることを選択するなどで、放射性微粒子をとりこまないように徹底します。なお、これらはインフルエンザ対策や花粉症対策などで行われていることをそのまま適用できます。

もちろんこれらでも放射能対策は十分ではありません。可能なら防毒マスクをした方が良いし、タイベックスーツを来て破れたら何度も変えた方が良いですが、これらは予算との相談になります。
またそれでも外部被曝はまったく避けられないので、ガラズバッチをつけて被曝量の管理もした方が良いですが、これも予算がつけられるのかの判断になります。原発事故対策は徹底度を深めればどこまでもお金がかかる終わりのないものです。
ですからどこまで対策を施しても十分にはならないのだけれども、少しでも対策をした方がその分有利と考えて、予算が確保できる最大の範囲での対策をとっていただきたいと思います。

さらに、それでも被曝は避けられないので、さらに身体を守るために以下の点もお話しようと思います。
①放射能下の活動を細かく記録することです。一つは自分の防護の点検のためです。同時に将来の医療保障を得るのに記録が残っていた方が少しでも有利だからです。場合によっては裁判を闘うことになる可能性もあります。
②被曝に対しては免疫力を上げるのがベストなので、抗酸化効果の強いビタミンCを積極的にとるようにするとよいです。また長崎の被爆時の秋月医師の提言「水(汚染水)を飲むな。味噌を食べろ。玄米を食べろ。白砂糖をとるな」を奨励したいです。
これらの点は現代医学では証明できていないことが多いのですが、有効な薬がない中で、マクロビオティクスなどの知恵の援用として行われ、効果をあげたと言われていることをおさえて欲しいと思います。
③さらにできるだけ良質の睡眠をとる、 困難を一人で抱え込まないなども重要です。

被爆医師である肥田舜太郎さんは、被爆者に次のように語り続けました。
「被曝したら治す医療はない。治す薬もない。どうするか。腹を決める。覚悟を固める。その上で開き直る。開き直って身体に良いことはなんでもやる。なんでもやって放射能が暴れ出すことを押さえこむ。これを実践せよ!」。
実際にそのことで被爆者に力と勇気を与え、たくさんの方が病を克服して生き延びていくことを支えられました。こうしたことも知っておくと良いと思います。

人命救助や避難誘導、事故対応などに当たる方はこれらのことを頭に入れつつ行動して欲しいです。
もちろん「こんな簡単なことではダメだ」という意見もあるかと思います。それならばどうすれば良いのかを考えだして教えてください。その際、実行可能なことを提言してください。
何度も言いますが、実際に原発は稼働してしまっています。稼動してなくても燃料プールやもんじゅなど、いつ危機に陥るかも分からない核施設がたくさんあります。だからこそ少しでも実のある事故対策を重ねておくことが大事なのです。

以上のことを今、本にもまとめている最中です。『原発からの命の守り方』のタイトルで近いうちに出版に漕ぎ着けたいと思っていますが、ともあれここに書いたことを参考にみなさんそれぞれで原発で事故が起こった際の対応を考えを抜いてください。
何があっても原発から命を守り抜き、生き延びるすべを考えましょう。そのためのリアリティをできるだけ大きくしていきましょう。実はその積み重ねの中では原発に賛成・反対を問わずに、原発事故の恐ろしさへの認識を広げることもできます。
繰り返しますが、リアルに備えることが大事です。またこうした備えを行うことは必ず他の災害への対応力も強化することに繋がります。命を守る術を私たち民衆の側から逞しく育てていきましょう!

連載終わり

 

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明日に向けて(1142)もしも原発事故が起きたらどう命を守るのか(川内原発再稼働の危険性を見据えて-1)

2015年09月04日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150904 23:30)

多くの反対の声を押し切って川内原発再稼働に踏み切った九州電力は8月31日に1号機をフル稼働状態にしました。この日の午前11時20分に原子炉の熱出力を100%に保つ「定格熱出力一定運転」への移行が行われました。
原子力規制委員会の最終検査を経たのちに10日に営業運転に移るとしています。これとともに2号機にも11日にも核燃料を装填し10月中旬に再稼働、11月中旬に営業運転に移るとしています。
この間、明らかにしてきたように、世界で4年以上停まっていた原発を再稼働させたのはわずかに14例。そのすべてで事故がこっています。川内原発1号機自身も再稼働後にすぐに復水器でトラブルが起きました。このまま稼働を続けるのは大変危険です。
私たちは無謀な川内原発の運転を止めること、いわんや2号機を絶対に動かさないことを声を大にして訴えていく必要があります。

同時に危険性をまったくかえりみず、誰が責任主体なのかもはっきりしないままに稼動が強行されている事態をしっかりと直視し、民衆の側から原発災害対策を練り上げていく必要があります。
むろんこれはけして再稼働に手を貸すものではありません。そうではなくて、とにかく再稼働が危険に満ちているために身構える必要があるのです。これ抜きに再稼働の危険性を主張しても、何かが足りない主張になってしまうと僕は思います。
繰り返しますが、川内原発の再稼働は危険です。すぐにもトラブルが発生する可能性があります。また復水器など冷却系統でおこるトラブルは、冷却材喪失⇒メルトダウン=過酷事故の発生にただちにつながる可能性があります。
もともと加圧水型原発は一次冷却水の熱を二次冷却水に伝える「蒸気発生器」に弱点があり、繰り返し深刻な事故が起こっています。日本の加圧水型原発の製造者は三菱工業ですが、同社の蒸気発生器は2012年にもアメリカで深刻な事故を起こしています。

これらから私たちは、再稼働を強行してしまった川内原発の事故への備えを進めていく必要がありますが、その際に、ぜひ参考にして欲しいのが、僕も参加する兵庫県篠山市原子力災害対策検討委員会が6月に市長と市民に対して発した提言です。

 原子力災害対策計画にむけての提言
 http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/assets/2015/06/teigensyo.pdf

 以下の記事により詳しく提言のことに触れましたのでこちらも参考にしてください。

 明日に向けて(1098)篠山市への「原子力災害対策計画にむけての提言」が公開されました!ぜひお読み下さい。
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f9fc4d8144b29e54944c1237c9bc3188

篠山市原子力災害対策委員会が市長と市民に求めたのは以下の4点です。主に市長に施策の実行を求めていますが、同時に市民にも原子力災害に対応する力を身につけることを求めています。
(1)市民が避難する計画の策定
(2)安定ヨウ素剤の事前配布
(3)事故の際の対策本部の設置による市民への情報提供や勧告
(4)日頃からの災害全般に対する備えの強化

これら提言の精神として私たちは以下のことを強調しました。
「原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは「とっとと逃げる」ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。」
「事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。」

原発事故に対する対策として一番、大事なのは、福島原発事故の例を見てもあきらかなように一度事故が始まってしまうと事故の進展具合を把握することはほとんど不可能に近いということです。
そのために最も合理的なのは「とっとと逃げる」ことです。この点が何よりも重要です。
事故の進展を確かめたりしていてはいけません。情報が隠される面もありますが、それ以上に政府も電力会社も何が起こっているか分からなくなっていたのが実情だったからです。

同時にみておかなければならないのは、事故はどこまで発展するか分からないということです。福島原発事故とても対応にあたった方たちの努力に大きな偶然も加わってあの段階でとまっているのであって、もっと厳しい状態になることも十分にあり得ました。
その点からするならば、最悪の場合を想定した避難対策は建てようがありません。最も恐ろしいのは格納容器が壊れてしまい、いっぺんに膨大な放射能が飛び出してくることですが、そうなったら近隣を中心にたくさんの急性死も出てしまいます。
その意味で万全な対策など建てようがないのが原発事故なのだということを肝に銘じておく必要があります。そのため被害は免れないかもしれないけれども、せめても少しでも被害を減らすという観点からのみ、よりリアルで有効な対策が建てられます。

原子力規制庁が各自治体に事実上採用を強制している「原子力災害対策指針」の根本的矛盾はこの点にあります。この指針は起こりうる事故を非常に軽く見積もってこの根本矛盾を無視しています。
災害対策としてそれではまったくだめなのです。規制庁の指針は「嘘と建前」が前提になっているからです。そんなものは現実によって消し飛んでしまい、たちまち役に立たなくなるどころか、かえって人を危険においやるので犯罪的ですらあります。
そのような「ウソ」の避難計画など作っても仕方がありません。そうではなくて、最悪の場合でもせめても少しでも被曝を減らす、生き延びる人を増やす、そのように考えたリアリティのある対策こそが必要なのです。

そのために提言で主張しているのは、災害対策に対する市民の能動性をアップすることです。これは原子力災害に対してだけでなく、他のあらゆる災害にも適用できることであり、町を強くする性格を持っています。
一番大事なのは、災害心理学、災害社会工学などに学び、いざというときの心構えと準備を行っておくこと、そのことで災害心理学に言う「正常性バイアス」「同調性バイアス」「パニック過大評価バイアス」に陥らないようにすることです。
「正常性バイアス」にかからないようにするとは、現代人は命が危機に瀕する経験が少ないために、実際に直面すると危機的状況を心が認めず「事態は正常になっていく」とバイアス(偏見)をかけてしまうことを知り、この心のロックを回避することです。

この心理が働くと、避難すべき事実が認知できなくなって避難が遅れてしまいます。例えば火災報知器がなったときに「これは誤報ではないのか」などと思い、命を守る行動に移ることをためらってしまうなどです。
この点で恐ろしいのは、放射能は目に見えないし身体に感じない場合が多いので、危険性がより認知しずらいことです。さらに福島原発事故以降、政府が「放射能が怖くないキャンペーン」を繰り返しはってきているのでそれによっても危険が把握されずらい。
私たちがしっかりと見据えておかなくてはならないことは、実は福島原発事故以降、放射能被曝に対してはこの「正常性バイアス」が働き続け、政府によって強化すらされていることです。この呪縛をこそ断ちきらなくてはいけません。

「同調性バイアス」は危機に直面して能動性を失い周りに合わせてしまうことです。多くの場合、周りは「正常性バイアス」にかかっていますから、これに同調し、増幅してしまう結果をももたらします。
「パニック過大評価バイアス」は実際には現代人は危機を前に認知ができないことの方が多いにも関わらず、「危機に直面すると人はパニックになる」という言辞が実態を離れて一人歩きしてしまうため、危機の伝達を躊躇してしまうことです。
これら両者ともに正常性バイアスをより強めることに結果し、危機を前に退避行動をとらないうちに逃げる機会を逸してしまうことにつながります。これらは実際の災害でしばしば起こっていることです。

この心理的ロックを打ち破るために有効なのは何か。災害心理学ではあらかじめの「避難訓練」こそが正常性バイアスによる心理的ロックにかからない一番大事なことだと教えています。
ところが原発災害対策においてはよりリアルな避難訓練をすると、その分だけ住民が原発の危険性を知ってしまう構造にあります。だから政府も電力会社もこれまで避難訓練をサボタージュしてきたし、今回もまともな避難計画なしに再稼働しているのです。
これに対する最も有効な手段、政府の再稼働と放射能の安全神話を打ち破るものこそ避難訓練です。避難訓練は放射能の危険性を主に防護の観点から学ぶことと、事故時にどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねることを気軸としています。

どうか川内原発だけでなく燃料プールという大変危険な存在が日本中にあることをも踏まえて、それぞれで事故が起こったら自分はどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねて下さい。
その場合、家族や親しい友人と逃げ方、逃げ先を決めておくことが大切です。事故時は互いの連絡がとれなくなることを踏まえ、集合地点や避難で向かう先を決めておくのです。可能な限り遠くの知人、親戚などと防災協定を結んでおくことをお勧めします。
また放射線被曝のメカニズムを学びとくに避けるべきは内部被曝であること、そのためには放射性微粒子を体内に摂りこまないようにすること。そのためにマスク、うがい、手洗いを徹底し、衣服などへの付着を防ぎ、払うことなどを準備しておいてください。

続く

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明日に向けて(1140)沈みゆく原子力産業-東芝上場廃止か?(東芝不正会計問題を問う―2)

2015年09月02日 16時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(2015902 16:00)

昨日1日に東芝をめぐる大きなニュースが飛び込んできました。不正会計問題による混乱が続く中、東芝が8月31日に新たに調査が必要な問題が発覚したことを明らかにしたというのです。
このことでこの日に予定されていた2015年3月期の有価証券報告書の政府への提出期限が守れなくなりました。再提出期限は7日であり、これが守られなければなんと東芝は株式市場への上場廃止という決定的な危機を迎えます。
東芝はこれまで経団連会長などを輩出してきた日本のトップ企業です。原子力産業の中核でもあります。その東芝が商いの基本中の基本である決算発表ができないでおり、株式の取引の場から退場を求められる瀬戸際にあるのです。

以下、毎日新聞の以下の記事を軸に問題のアウトラインをトレースしておきたいと思います。なお情報をおさえておくために記事全文を末尾に貼り付けます。

 決算発表再延期 東芝、信頼回復遠く 修正、見通し甘さ露呈
 毎日新聞 2015年09月01日 東京朝刊
 http://mainichi.jp/shimen/news/20150901ddm003020031000c.html

原因は「複数の国内・海外子会社の会計処理の調査が必要となった」(室町会長兼社長)ためとされています。詳細が明らかにされていませんが、室町社長は「米国子会社での水力(発電所)案件のコスト見直し」などと説明しています。
関連工事の原価総額を低く見積もって、損失の先送りや売り上げの過大計上を行っていた疑いがあるのです。ただしこの「米国子会社」は原子力産業であるウェスティング・ハウス社ではないと東芝は言明しています。
原子力部門の低迷によりウェスチング・ハウス社が十分な収益を上げていないとして、東芝が会計上の価値を見直し、多額の損失を計上するのではとの懸念が広がっているがゆえの言及ですが、今回の事態でますますその疑念も深まらざるをえないしょう。

このことは東芝のみならず日本企業全体の危機であるとも言えます。おりしも中国経済減速への懸念から世界同時株安が進行していて、ものすごい幅の株の乱高下が続いていますが、東芝の信用の失墜もこれを加速させているのは間違いありません。
事実、東芝株は本年3月の最高値(535円)からどんどん下落を続けており、9月2日15時現在で349円まで落ちています。ちなみに東芝がウェスティング・ハウスを買収するなど原子力ルネッサンスに全面的に乗り出した時の最高値は1133円(2007年7月13日)。
しかし直後のリーマンショックで一時は230円まで下落。(2009年2月20日)その後の粉飾決算で浮上していたのでした。東芝は経団連会長などを出してきた会社ですから、大規模不正は、日本企業全体への不信を増幅せざるを得ない位置性を持っています。

僕はすでにこの東芝の大不正が原発部門の破産によって生み出されてきたことを指摘し、以下の記事を配信しました。
 明日に向けて(1117)東芝不正会計問題の背景にあるのは原子力産業の瓦解だ!-1
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6aa800a3bbf14bc67022035818f98209

主要部分をもう一度、ピックアップしておきます。
7月20日に行われた第三委員会の報告によると不正が行われたのは2008年度から2014年度第3四半期で、額は計1518億円に上るとされています。自主チェック分を合わせて利益のカサ上げは累計1562億円に上るとのこと。
この責任をとって田中久雄社長、元社長の佐々木則夫副会長、西田厚聰(あつとし)相談役の歴代3社長が辞任。さらに取締役16人中8人が辞任するという異例の事態になりました。

背景にあったのはアメリカ・ブッシュジュニア政権が2001年に「原子力ルネッサンス」を打ち出し、小泉政権がこれに飛びついたことでした。もんじゅやJCO事故によって生み出されていた原子力見直しの機運にふたをし、原子力推進に舵を切ったのでした。
これが原子力政策大綱とされ、2006年に綜合資源エネルギー調査会原子力部会によって「原子力立国計画」にまとめられました。そこで謳われたのが既存原発の60年間運転、2030年以後も原発依存を30~40%以上に維持、プルサーマル・再処理の推進。
さらにもんじゅの運転再開と高速増殖炉サイクル路線の推進、核廃棄物処分場対策の推進、原発輸出と「次世代原子炉」開発、ウラン資源の確保、原子力行政の再編と地元対策の強化などなどでした。原発輸出もこのときより国策とされたのでした。

 原子力政策大綱
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1.pdf

 原子力立国計画
 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/images/060901-keikaku.pdf

東芝はこの国策に全面的にコミットし、2006年に米原子力大手のウェスチング・ハウス社を当時2000億円規模、高値でも3000億円と言われたいたのに、なんと倍を越える6400億円強の価格をつけ、三菱、日立をおさえて買収に成功したのでした。
この買収は2005年6月に就任した西田社長のもとで行われましたが、実際の仕切りを行ったのは原子力部門を登りつめて、西田氏に次いで後に社長となった佐々木則夫専務(当時)だったと言われています。
しかし市場価値の倍の根を付けた購入によってたちまち経営に重圧がかかりだしたところにリーマンショックに襲われ業績が一気に悪化。株価も1133円から230円まで落ちてしまいました。東芝はこの時点で危機に陥り、不正による生き延びを始めたのでした。

もちろん東芝も不正で一時期を凌ぎ、健全経営に戻ろうと考えていたのだと思います。その切り札だったのが原子力部門でした。
もともと東芝はアメリカGE社と組んで沸騰水型原発を製造してきましたが、新たに加圧水型原発メーカーのウェスティング・ハウス社を傘下に収めることで、双方の市場への進出を可能とし、輸出にも大きく踏み出して、業績を大きく延ばそうとしたのでした。
ところが福島原発事故によって完全にその展望が崩れてしまいました。なぜか。そもそも事故を起こした福島2号機、3号機が東芝製だったからです。正確には2号機はGEとの共同制作、3号機は純然たる東芝製でした。

このためアメリカで進んでいた東芝製原発の建設が中止に追い込まれました。2009年2月25日に発注を発表した「サウス・テキサス・プロジェクト」でした。東芝にとっても日本にとっても初めての原発輸出でした。
さらに日本中の原発が停まってしまったために点検料が入らなくなってしまったことも大きな打撃となりました。
このことは世界の原子力産業全体にとっての大きなダメージとなり、東芝はそのことでもますます苦境に入っていきました。

象徴的なことは、原子力発電の燃料となる濃縮ウランを供給しているアメリカのユーゼック(USEC)が3月5日に経営破綻したことでした。日本の民事再生法に当たる連邦破産法の適用を申請しました。ちなみに同社はウラン燃料の世界4大メーカーの一つでした。
日本の原発が停止したことで濃縮ウラン燃料が売れずに経営に行き詰まってしまったのです。2010年に日本は濃縮ウランの輸入量約700トンのうち、約500トンをユーゼックに依存している状態だったので、当然の事態とも言えました。
実は「原子力ルネッサンス」に社運をかけていた東芝はこのユーゼックにも出資していたのでした。東芝はユーゼックの経営破綻当時、そこでの損益は少ないと発表しましたが、トータルとしての原子力産業の展望の崩壊が示され、東芝の苦境が深まったのは間違いありません。

こうした苦境を東芝は、社内において強引な販売促進を各部署に強いる「チャレンジ」を行って凌ごうとしていたと報道されています。経営難を現場での強引な販売促進によって補おうをしたのですが、このことが各部門での不正を促進したのでした。
達成不可能な営業目標を課せられた現場が、購入部品の請求次期をずらさせるなどして架空の営業利益を計上するなどの操作が常態化されてしまったのです。このとき現場で行われた上司によるハラスメントの実態の告発が日経ビジネス誌上などで公開されています。
原子力部門の展望が失われたことを素直に認め、損失をきちんと計上し、方向転換していたらこうはならなかったと思いますが、企業戦略の失敗を認めずに小手先で凌ごうとすることが、より同社を構造的な苦境に招いてきたと言えます。

それだけではありません。このような構造的な不正を行う会社が原発の製造メーカーであること自体が私たちにとっての脅威なのです。商いの基本である会計でこれだけの不正を犯す会社が原発製造の場でだけ誠実だなどと言えるわけがないからです。
株式の売買の相手としての信用が失われ、上場を廃止されようとしている東芝に、原子力などという危険の塊を委ねておくわけにはいきません。いやこうした構造的に粉飾決算を行う会社だからこそ、未完の技術である原子力に「チャレンジ」できたのです。
そもそも事故を起こした福島原発も東芝製であり、原発以外の製品であれば、当然にも製造者責任が問われていたのです。東芝の作った原発のせいでたくさんの人が被曝しているからです。そのことに謝罪の一つもしないことからも同社の不誠実性は明らかです。

いや重大なことはこのことは原子力産業全体に通底することだということです。産業の展望が失われているがゆえに東芝の経営に歪みが生じ、それを糊塗して進もうとして不正を重ねたのですから、同じことは十分に他社でも起こりえます。
実際、三菱重工も大変な経営難に突き当たりつつあります。2012年にアメリカのサンオノフレ原発2、3号機で三菱製の蒸気発生器でトラブルが発生し、2013年6月に廃炉が決まったからです。この蒸気発生器は2009年と2010年に交換されたばかりのものでした。
このため今年になって三菱重工はなんと9300億円もの巨額の損害賠償を行えとアメリカ側に提訴されてしまいました。三菱側が認めている過失は167億円であまりの開きがあります。裁判の行方次第では、三菱も一気に経営破綻に追い込まれる可能性があります。

私たちが見据えておかねばならないのは、川内原発の再稼働が、こうした原子力産業・原子力村の構造的行き詰まり、東芝の上場廃止という「一流企業」としての消滅の危機の中で強行されていることです。
とにもかくにも原発ゼロ状態を無くすことで、原子力産業の世界的衰退に歯止めをかけようとの意図が明確に働いているのだと思えますが、しかしそれは全く戦略的展望を欠いたものでしかなく、だからこそあまりに危険なものでしかないのです。
確かな展望もないままに既存産業の延命だけを求めて再稼働を行い、それを無理やり原発輸出につなげようとしているのであって、その強引な構造は、当然にも安全性の軽視に直結します。

いやすでに直結しているがゆえに、「重大事故」=過酷事故が起こる可能性があると開き直りつつ、避難対策などなんら施さないままに川内原発の再稼働が行われてしまったのです。
しかも誰も「安全性」を保障しない。規制委員会は繰り返し「新規制基準に通ったからと言って安全だとは言えない」と責任逃れをしており、政府は「規制委員会が安全だと言った原発から動かす」と意図的に規制委員会の発言を無視しています。
再び、三度、嘘のかたまりであり、だからこそ深刻な事故が起きる可能性があります。私たちはこの点をこそ、東芝の不正問題からしっかりとくみとっておく必要があります。

東芝不正問題のウォッチを続けます。

*****

決算発表再延期 東芝、信頼回復遠く 修正、見通し甘さ露呈
毎日新聞 2015年09月01日 東京朝刊

歴代3社長が辞任するなど不正会計問題の混乱が続く東芝は8月31日、新たに調査が必要な問題が発覚したことを明らかにした。
7月に発表した第三者委員会の調査結果で出し切ったはずの経営の「うみ」がまた表れた形で、調査そのものへの信頼がゆらぎかねない。
自ら31日に設定した2015年3月期の有価証券報告書の政府への提出期限を守れなかったことで、失った市場からの信頼回復は、更に難しくなった。
経団連会長など財界トップを輩出してきた名門、東芝は間違いなく「最大の危機」(室町正志会長兼社長)にある。

◇第三者委「うみ」出し切れず

8月31日に発表が予定されていた2015年3月期決算の発表再延期の直接の原因は、「複数の国内・海外子会社の会計処理の調査が必要となった」(室町会長兼社長)ためだ。
東芝は詳細を明らかにしていないが、室町氏は31日の記者会見で「米国子会社での水力(発電所)案件のコスト見直し」などと説明した。関連工事の原価総額を低く見積もって、損失の先送りや売り上げの過大計上を行っていた疑いがある。
こうした問題のある会計処理は、第三者委がすでに調査報告で指摘していた内容だ。室町氏によると、第三者委の調査報告書の発表以降、内部通報が増加し、新たな問題の発覚につながったという。
しかし、第三者委の2カ月間にわたる調査などでは、不正会計の「うみ」を出し切れなかったとも言え、同社の問題の根深さが改めて浮き彫りになった形だ。

また、市場では、東芝が06年に買収した米原子力大手ウェスチングハウスが十分な収益を上げていないとして、会計上の価値を見直し、多額の損失を計上するのではとの懸念があった。しかし、室町氏はその可能性を否定した。
東芝は当初、31日に経営監視体制の強化や事業の立て直しなどに注力する姿勢をアピールしたかっただけに、発表延期の釈明会見を余儀なくされた今回の事態は、同社の見通しの甘さを露呈した。信頼回復の道のりはますます遠のいたと言える。

また、これまでも同社の会見や資料の発表は、深夜に突然行われたり、予定時間より大幅に遅れたりするケースがあった。今回も、発表再延期を明らかにしたのは31日午後5時20分過ぎだった。
室町氏は会見で「前日の夜まで、何とか31日に(発表)できないかと(監査法人に)相談していたが、今朝の状況でやはり難しいと判断した」と説明した。
今回のドタバタ劇の背景には、決算発表を急いで信頼回復につなげたい東芝側と、正確性を最重視する監査法人との思惑の違いもありそうだ。
東芝の監査を担当してきた新日本監査法人は一連の不正会計の発覚で、監査内容に対する批判が出ていることもあり、より厳格に対処しているとみられる。【小倉祥徳、片平知宏】

◇金融当局、責任追及へ

有価証券報告書の提出期限の再延長や、新たな不正会計とみられる問題の発覚で、市場の東芝に対する見方が厳しさを増すのは確実だ。
金融当局や東京証券取引所も事態を重く見ており、東芝の会計監査を担当する新日本監査法人を含め、関係者の責任を厳しく追及する方針だ。

東京証券取引所によると、有価証券報告書の提出期限の再延長は、新興株市場であるジャスダック上場の企業が13年7月に1カ月あまり再延長した1件を除いて近年では例がない。
東芝が上場している東証1部では、異例中の異例だ。ある市場関係者は「有価証券報告書を提出後に再修正する事態を避けたかったのかもしれないが、あまりにもお粗末」と、東芝の対応にあきれていた。

東芝の株価は3月下旬につけた今年の最高値(535円)から、一連の騒動の発端となった決算内容を調査すると発表した4月以降、300円台と3割近く下落した。発表ごとに傷が広がることへの失望が広がっている。

今回の再延長は自ら市場に約束した延長期限さえ守れなかった形で、金融当局幹部は「明らかに投資家の信頼を裏切る行為」と責任の重さを指摘する。
東証は近く、東芝を社内管理体制に問題があるとして投資家に注意を促す「特設注意市場銘柄」に指定する方針だ。また、証券取引等監視委員会は、金融商品取引法に基づく課徴金を科すよう金融庁に勧告する見通し。
金融庁内には「監査の品質自体を厳しく問う必要がある」(幹部)との声が高まっており、東芝の監査を担当する新日本監査法人の責任も厳しく調べる構えだ。【和田憲二】

==============

◇東芝の不正会計問題を巡る主な動き

2月12日 証券取引等監視委員会から報告命令、開示検査を受ける
4月 3日 会長をトップに特別調査委員会を設置
5月 8日 2015年3月期決算発表の延期と第三者委員会の設置を表明
  15日 初めて社長が記者会見し、陳謝
6月25日 定時株主総会で社長が経緯を説明し、陳謝
7月20日 第三者委が調査報告書を提出。組織的関与を認定
  21日 歴代3社長らの引責辞任を発表
8月18日 室町会長兼社長が社長専任となり、社外取締役を増員する新たな経営体制などを発表
  31日 15年3月期決算の発表を再延期
9月 7日 15年3月期決算を発表? 延期していた有価証券報告書の新たな提出期限
9月下旬? 臨時株主総会開催。新経営体制を提案

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明日に向けて(1139)スコットランド啓蒙思想の何に学び、何を受け継ぐのか-連載最終回

2015年09月01日 15時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です(20150901 15:00)

8月30日に京都市のかぜのねで行った以下の企画に向けた論稿の5回目、最終回です。

 日本の社会活動のあり方を考えよう
 -スコットランド啓蒙思想の対話性と現実性に学ぶ-
 https://www.facebook.com/events/795032107261199/

5、スコットランド啓蒙思想の何に学び、何を受け継ぐのか

スコットランド啓蒙思想の成り立ちを追ってみると、私たちはそこに、現世肯定主義ゆえの人間の利己的な側面に対する理解と、それがもたらす寛容さを学ぶことができます。
そこではそれまでのキリスト教の教義によって一義的に否定されてきた、自分の欲求を満たしたいと言う意味での利己心が、社会発展の原動力であるとも捉え返されるとともに、それを大らかに容認すればこそ人間をつなげるシンパシイが重要視されたのです。
このことは次のことも意味します。近代的自我の発達とは、利害関係の当事者としての己の自覚とパラレルであったのであり、同時にそれは利害を異ならす他者の承認の義務を伴ったものであったということです。

要するに己の利己心の肯定は、他者の利己心の尊重でもあり、そこから互いに利己的な主体が、相互に尊重しあえる根拠の洞察が不可避的に生まれたのだということです。
それがヒュームにおいてはシンパシイの洞察として、アダム・スミスにおいては市場経済の研究として、さらに後年のベンサムにあっては法制度の改革として目指されたのでした。
そこで共通するのは利己心をもった人間に社会的サンクション(賞罰)を加え、利他性を引き出すことで、より高貴な存在へと導こうとする考察であり、そこにはぜひとも学んでいくべきものが横たわっていると思えます。

とくに重要なポイントは、カルヴァン主義的原理主義への対抗から、人間の本質は何であるのかと言う原理主義的な方向にではなく、具体的に目の前に存在する利己性をもった近代的人間に関しての考察に進んだことです。
その分だけ、そこでの発想には多分にリアリティを持つことが可能になったのではないかと思えます。
それは大陸合理論やドイツ観念論の系譜には欠けていたものであり、その影響を大きく受けている日本において、あるいはヘーゲル主義の止揚の上に開花したマルクス主義にも欠けているものとして学ぶことが必要であると思えます。

なぜならこうしたスコットランド啓蒙思想を継承し、「功利主義思想」に発展させていったジェレミー・ベンサムやJ・S・ミルらの思想が、私たちの国では「損得勘定論」というネガティブなイメージでしかとらえられてこなかったからです。
そのことを象徴するのが、功利主義の中心概念が「快楽・苦痛原則」と翻訳されてきたことです。僕はその点に注意をしていただきたくて「快楽(喜び)」と書いたのですが、この言葉のもともとの英語はpleasureです。
「喜び」「楽しさ」「愉快」「満足」などと翻訳されることの方が多い単語なのです。これに対して日本語の「快楽」には否定的ニュアンスもまとわりついています。「快楽」を貪るとはいいますが、「喜び」を貪るとは言わないようにです。

この「快楽主義」を戦前の軍国主義日本は強く否定しました。「滅私奉公」だとか「欲しがりません、勝つまでは」などというスローガンが叫ばれたわけですが、まさにそれはスコットランド啓蒙思想が肯定しようとした利己的な人間像の極端な否定でした。
「お国のために己を捨てる」ことが繰り返し強調され、その果てに若者を特攻機にのせて体当たりさせる自殺攻撃までもが繰り返されました。
今、イスラム圏で行われている同じような捨て身の攻撃を日本では「自爆テロ」などと報道していますが、もともと近代において大々的にこの自殺攻撃を行ったのは日本であったことを私たちは知っておく必要があります。

さらに戦後から連綿と続いてきた私たちの国の中での民衆運動も、こうした「大義主義」とでも言うものから自由ではなかったのではないでしょうか。
その時々の社会運動の意義が過度に強調されて「大義」となり、その大義に異を唱える者に粗暴な態度がとられてきたのではないか。また運動の中にあってすら、互いの意見の違いを尊重しあえない不毛さを私たちは経験してきたのではないでしょうか。
そのことが民衆運動の中の弾力性や意見の多様性による豊富化の芽を摘み取り、結局、権力者によって度々、民衆が分断されてしまうことに結果してきてもいるのではないか。こうした点から私たちはスコットランド啓蒙思想に学ぶものがあると思うのです。

ただしそうはいっても次のことを押さえておくことも同時に必要です。アダム・スミスが期待をかけた市場の現実は、彼の晩年の問題意識性に沿った発展をみないままに、やがて市場争奪戦へと世界史的に「発展」し二度の大戦すら生んだことです。
さらにそれを越え出た現代においては、マーケッティングによる欲望そのものの資本による組織化の場へと市場は拡張し、結局それは生産力の拡大をもたらし続けて、資源の浪費と環境破壊を生み出し続けてきました。
その意味で「快楽苦痛原則」に基づいた功利主義が、金儲け主義と結合し、快楽の量が金銭で測られる事態へと変貌してしまって、社会を危機に陥らせていることも歴史的事実です。功利主義に批判的見解が多いのはこの事実があるからでもあります。

その点で「功利主義のパラドックス」と呼ぶべきものが解き明かさなければならないし、いわんや日本の現実の矛盾をただ「功利主義思想が欠けていた」からであるとはまったく言えないことも強調しておきたいと思います。
功利主義には功利主義で捉え返されるべきものが大きくあります。しかしそれを踏まえて、再度、繰り返しますが、私たちの文脈に欠けているものとしてのスコットランド啓蒙思想が課題としたユニークな人間像の追及に学ぶことの意義を強調したいです。
カルヴァン主義が示した不寛容性と何ら変わらないような対立を繰り返してきた日本の民衆運動のあり方をこうした思想にも学びながら越えていきたいです。

おりしも8月30日には全国で戦争法案反対のたくさんのデモが起こりました。東京では12万人が集まったとされていますが、多くの人が改札をなかなか出られない状態で、実際にはのべで35万人はいたとも言われています。
これと同時に全国47都道府県で行動が取り組まれたと言われており、その数も300か所、370か所、1000か所とまだ数え切れていないほとです。
私たちには確かな「平和力」がある。ラディカルなデモクラシーが成長中です。それをさらに発展させるためにも、自由主義の核心問題である「寛容の精神」を互いに身に着けていきましょう。

以上を持って連載を閉じたいと思います。

終わり

・・・今回の連載を踏まえて、次には功利主義思想の祖であるジェレミー・ベンサムについての検討を行いたいと思います。次期をみて連載にチャレンジします。

 


 

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明日に向けて(1138)戦争法案反対で国会前12万人他、全国300~1000か所でデモ!

2015年08月31日 22時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150831 22:30)

戦争法案反対に向けて、29、30日、全国47都道府県でデモが行われました。
全国での取り組みの数は報道各社でまちまちです。全国行動の呼びかけ主催者の言葉としての「300か所」が紹介をしている場合が多いですが、「しんぶん赤旗」には1000か所と紹介されています。
また2日間で300か所とするもの、30日だけで300か所とするものもあり、完全に把握しきれていないのが実態ではないかと思われますが、ともあれ300か所ないしそれ以上であったことは間違いないようです。

ともあれベトナム戦争が行われて、在日米軍基地から出撃がなされていた1960年代以来の、戦争反対の大きなうねりが起こっています。
僕はここにわたしたち民衆が連綿と培ってきた「平和力」がはっきりと表れていると思います。この力をさらに発展させて、戦争法案を廃案に追い込みましょう。

30日の行動の意義の共有化を進めるために、各社の報道を紹介したいと思いますが、毎日新聞の写真特集でたくさんの都道府県の行動がとりあげられていましたのでまずはこれから紹介します。

 安保法案:反対の波 全国300カ所でデモ
 毎日新聞写真特集 2015年08月30日
 http://mainichi.jp/graph/2015/08/31/20150831k0000m040081000c/001.html


続いて動画が添付された記事をご紹介します。冒頭の朝日新聞のものでは国会前の他、名古屋、広島、高松、那覇、大阪のデモが紹介されています。

 安保法案反対、全国で一斉抗議 国会前でも廃案訴え
 朝日新聞 2015年8月30日19時59分
 http://www.asahi.com/articles/ASH8Z6HH6H8ZUTIL01W.html
 動画 国会前、名古屋、広島、高松、那覇、大阪の画像あり

 安保法案 国会周辺で最大規模の反対集会
 NHK 8月30日 18時43分
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150830/k10010209801000.html 
 国会前、名古屋、北九州、広島

 「法案反対!」国会前10万人のうねり 全国各地でも
 テレビ朝日系(ANN) 8月30日(日)16時36分配信
 http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20150830-00000022-ann-pol

 安保法案抗議集会:国会議事堂取り囲み「戦争法案反対!」
 毎日新聞 2015年08月30日 15時51分(最終更新 08月30日 16時42分)
 http://mainichi.jp/select/news/20150830k0000e040122000c.html

 安保関連法案めぐり政党、市民団体などが大規模な反対集会
 東京新聞動画ニュース8月30日
 http://link.brightcove.co.jp/services/player/bcpid27349919001?bctid=ref:mxnews_4651-307

 全国で安保法案に反対デモ、国会周辺には“12万人”
 TBS NEWSi 30日17:15
 http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2574435.html


動画が添付された記事という点ではBBCの英語ニュースでも大きくデモがとりあげられました。BBCだけでなくさまざまな国で取り上げられています。
NHK WORLDもデモを動画付で報道しています。なお内容はNHKの日本語放送とほぼ同じです。
なおこうした海外のメディアにデモが大きく紹介されていることそのものを東京新聞や毎日新聞が記事にしているのでそれも紹介しておきます。毎日新聞はBBSが「日本の若者は目覚めた」と報道していることを紹介しています。

 Japan military legislation changes draw protests
 30 August 2015
 http://www.bbc.com/news/world-asia-3410122

 Largest rally held against national security bills
 NHK WORLD Aug. 30, 2015
 http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/english/news/20150830_17.html

 8・30デモ 海外でも詳報 「大規模抗議は珍しい」
 東京新聞 2015年8月31日 夕刊
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2015083102000207.html?ref=rank
 
 安保デモ:海外が注視…BBC「日本の若者は目覚めた」
 毎日新聞 2015年08月31日 11時28分(最終更新 08月31日 14時33分)
 http://mainichi.jp/select/news/20150831k0000e040168000c.html


反対行動は全国で1000か所以上と報道した「しんぶん赤旗」の記事を紹介します。

 12万人 怒りの包囲 戦争法案ノー 全国1000カ所超
 しんぶん赤旗 2015年8月31日(月)
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-08-31/2015083101_01_1.html


ユニークなものとして、与党を形成する公明党の支持母体である創価学会の中から、次々と公明党離れが生じていることを報じる毎日新聞の記事をご紹介します。
 
 安保法案:公明離れの学会員次々 自民と協調に「失望した」
 毎日新聞 2015年07月28日 東京朝刊
 http://mainichi.jp/shimen/news/20150728ddm041010188000c.html

これらの記事からも非常に大きな行動が取り組まれたことが分かります。
しかもこうした大きな行動が、ここ数カ月の間に何度も繰り返されてきています。
このため民衆に力を持ってほしくない人々が「デモは無駄だ」とか「人数がもっと小さかったとか」などの言辞を繰り返すようになりましたが、それ自身、大きなパワーを感じて無視できなくなったことの表れでしょう。

みなさん。私たちの平和力をさらに発信しましょう。伸ばしましょう。
ラディカルなデモクラシーが今、逞しく成長中です!!

 

 

 

 

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