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明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(690)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・3

2013年06月14日 08時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130614 08:00)

『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の著者、アレクセイ・ヤブロコフ博士の京都講演の3をお届けします。ノートテークはこれで完結です。

*****

チェルノブイリから学ぶ
アレクセイ・ヤブロコフ講演・・・3
2013年5月22日 京都

チェルノブイリの後で何が起きたかということでありますが、当局は危険なことは何もない、ガンにかかる人が増えることも起きないですよと言ったわけです。
しかし何年か経って、「確かに影響はありました。ガンに罹る人が増えました」ということは認めたわけです。
日本でも現時点では、恐ろしいことはおきませんと当局は言っていると思います。しかし何年か後に必ずそれは打ち消されるであろうと私は思います。

ヨーロッパの幾つの国では、事故後の2~3年間において、乳児死亡率が上がったことを幾つかの例で説明しました。
日本ではどうであるのか。2011年の日本の公式の乳児の死亡率の統計があります。それまでに比べて上がっています。なぜかという理由、それまで年々下がっていた乳児の死亡率がなぜ2011年に上がったのでしょうか。
福島の事故の影響以外、私には原因が考えられません。これは日本政府がとっている公的な統計数字に表れていることです。このことは福島の事故において危険は発生していないという当局の発表がウソであることを証明しています。

さきほどは日本全体の数字でしたが、こちらは福島県の数字とウクライナの首都のキエフ市の数字の比較です。キエフに関してはチェルノブイリの9ヵ月後に、出産数が急激に減っています。
日本の福島県でも、事故から9ヶ月後に出生数が急激に減っています。チェルノブイリの結果を踏まえると、ここから日本はどうなるか、何が待っているのかを予想することができます。

はっきり言えることですが、染色体の突然変異が増えます。また先天性の異常というものの確率も増えていきます。そして新生児の死亡率、とくに周産期の死亡率が上がります。
そして甲状腺のがんが増えます。来年から高くなると思いますが、とくに増えたということが見えてくるのは2015年です。男性における精子の数の減少がすでに始まっていて、これから何年間か続くはずです。

チェルノブイリの事故の後、世界全体でみられた現象ですが、生まれる子どもの性別の比率が変わります。もともと男の子の生まれる比率の方が高いわけですが、チェルノブイリの事故後は男の子の比率が減りました。
ホルモン関係も変わります。性的成熟度、何年何歳でそうなるのか、その構造も変わります。これはチェルノブイリの事故の後に見られたものです。更年期の状況に関しても変わってきます。糖尿病などの罹病率も高くなります。

チェルノブイリのもうひとつの教訓についてお話します。
事故によって放出された放射性核種による汚染は、年々下がると思われていました。実際に、事故後5~7年ごろまでは、汚染は減少していったわけですけれども、その後、急に汚染度があがったということがありました。
これはどうしてかというと、放射性核種が土壌の深いところに降りていって、植物の根が集中しているところまで到達してしまいます。そうすると植物の根が放射性核種を吸い上げて、地表に再び出してしまうことが起こったわけです。それで実際に放射性物質による汚染度が高くなりました。

被曝をしてしまった、あるいは汚染されてしまったというところに住んでいる人々ですけれども、対策をとることは可能です。どういう方法があるかという点ではすでに幾つかのものが使われていますので、おそらく質疑応答の中でお答えすることになるかと思います。
ただ前提条件として申し上げたいのは、線量がいくらかということを、ミリシーベルトでは基準にならないということです。まあ20ミリシーベルトであれば、状況は大変良くないと私は思います。1ミリシーベルトというのも、私自身は良くない数字だと思っています。
しかしいずれにせよミリシーベルトで表示される線量は、相当ルーズに、平均的な状況をただ表しているだけであって、個人個人についての条件はどうなのかということは、一切、語ってくれないのです。
このミリシーベルトで測られる線量が意味を持つのは、企業の中で、あらゆる条件がきちんと確立されている中でのみです。核爆弾を作る工場、電力を作るための原子力発電所といった屋内であり、放射線核種の数も少なく、その量もコントロールされている、しかも定期的にチェックがされているところです。あくまでも企業のための条件であります。
一方でチェルノブイリの事故や福島の事故では、何百種類の放射性核種が、どれだけのものがどれだけ散ってしまったのかわからない状況で、ばら撒かれてしまっているのです。

私がみなさんに呼びかけたいのは平均的な数値、どこどこの地域の平均的な数値というものを基準にして欲しくないということです。一人ひとりがどれだけ現実に放射性核種によって、負担を受けてしまったのか、それを判断する必要があります。
ではどういうものをサンプルにして計測ができるかというと、歯のエナメル質をサンプルにすることで、どれだけの放射性物質が体内を通過していったのかということが分かります。また血液、骨髄の染色体を調べてもらう、眼の水晶体のチェックもできます。
またホールボディーカウンターで、どれだけ体内に取り込んでいるかを、ガンマ線のチェックで調べます。
ということで、「この病院の平均気温は何度ですよ」ということで、全般の人々に当てはめる数字で安心をしないで、ひとりひとりの数値を調べるということをしてもらいたいと思います。

そしてベクレル/キログラムということになりますと、子どもに関しては体重1kgあたり20ベクレル、成人では50ベクレルが対策をとる必要がある値です。
今申し上げた子ども1kgあたり20ベクレル、大人50ベクレルというのは、あくまでもγ線に対してだけの数値です。

事故から1年経った時点での福島県の子どもたちについては、体重1kgあたり20ベクレルのγ線が出ているのは、調査された子どもの1%未満であると聞いています。
しかしながらチェックされたのはγ線だけであり、β線やα線がどうなっているのかということは、ボディカウンターでは示してもらえないわけです。ですからより詳しい検査を、髪の毛、つめ、染色体といったもので行うことできちんと把握して、必要であれば対策をとっていくことが重要です。
とにかくあくまでも慎重に、必要な情報やデータを集めていくことが大切です。

チェルノブイリ事故のあとのベラルーシの実際の経験が証明しているわけですが、季節によっても体内に取り込む量がちがう、体内被曝の状態が変わるということが証明されています。とくに子どもに関してはそれが顕著です。季節によって食べ物の種類が変わるということもあるのでしょう。日本で言えば、タケノコを食べるとか、魚を食べるとかがあると思います。
こうした季節のものの中に、急に放射性物質が含まれるということもあるでしょうし、キイチゴやキノコなど、季節によって変わるものもあります。ですから子どもに関しては変化が激しくて、一回測定すれば済むということはなくて、定期的に測ることが大切です。
福島の事故の影響ですけれども、すでにそれが出ていることを認めなければいけないと思います。これから何年も影響が出てくることも、きちんと認識する必要があります。

チェルノブイリと福島の両方の事故の一番の教訓ですが、原子力産業というものが人類と地球に与える危険性の度合いは、核兵器にもけして劣らないとういのが私が引き出した結論です。

どうもありがとうございました。

(講演収録終わり)

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明日に向けて(689)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・2

2013年06月13日 14時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130613 14:30)

前号で『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の著者、アレクセイ・ヤブロコフ博士の京都講演の1をお伝えしました。今回はその続きをお送りします。
なお講演録は全3回でお届けしています。

*****

チェルノブイリから学ぶ
アレクセイ・ヤブロコフ講演・・・2
2013年5月22日 京都

さてチェルノブイリの事故に由来する放射線による障害ですが、ほとんど身体のあらゆる器官に起こります。これがいろいろと書かれているわけですが、ひとつだけ分かりやすい例を挙げてみたいと思います。
チェルノブイリから2000キロの距離にあるスウェーデンですけれども、汚染はマダラ状でして、汚染の強いところとないところとあります。ちょうど福島県の郡山市と同じ程度の汚染がある町で、学校の成績の調査が行われました。
スウェーデンでは学校の成績は市町村レベルできちんと保管がされています。その結果、分かったのは、郡山レベルの汚染地域と、汚染がないところの子どもを比較してみると、汚染と成績の悪さが完全に比例していることでした。
とくに数学において、汚染度が高ければ高いほど、成績が芳しくないという結果が出ています。

これまでは病気について話をしてきましたけれども、これからは死亡率についてお話をしたいと思います。
事故から2~4年たって、ヨーロッパ各国において死亡率があがったわけであります。これはロシアやウクライナに限られたことではなくて、各国で起こったことです。
岩波の本の171ページの図7の13~15などですが、生まれてから1年以内の乳児の死亡率です。このグラフは、ドイツとポーランドで乳児死亡率が事故後に急激に増えたことを研究書としてまとめたものでした。
さらに172ページにある図も加えて、ノルウェー、スイス、スウェーデン、フィンランド、4カ国の数字が出ていますが、これはそれぞれの政府がとっている統計をそのままグラフ化したものです。
これを見てみますと、チェルノブイリ以降の数年間の乳児の死亡率は、年々下がってはいますが、予想された数値よりもはるかに高いことが分かります。

次に死亡率全般を表したものを見ていきます。岩波の本では179ページの図7.22です。
ロシアの中でも汚染が最も著しかった6つの州と、そうではないところを比べてみたものです。汚染が著しいというのは、1キロ平米あたり1キューリーを越えているということですが、これらの地域では事故後の15年間で、そうでない地域よりも死亡率が4%高かったという統計が出ています。
もちろん一つ一つの死亡例に対して、これはチェルノブイリ事故によるものだと証明することはできないわけですけれども、しかしまとまった数値を見ると、チェルノブイリ事故以外に理由を見つけることができない高い死亡率だといえます。

汚染の著しい地域とそうでない地域との死亡率の差は、統計的な誤差と考えることはできない値です。したがって統計的に立証できる数字だと私は思っていますので、これを世界の人口全体に投影してみました。
まずこの汚染の著しい6つの地域でありますが、23万人が汚染がなかったときに比べて余計に亡くなったということが分かりました。これを世界全体に拡大すると、チェルノブイリの事故が理由で、100万人の方が亡くなったという計算を私はしたわけです。

原子力賛成派の人たちでありますが、汚染が著しい地域においては、罹病率が高いという事実自体は認めるようになりました。ただその理由は人々が放射線を恐るからだ、いわゆる「放射線恐怖症」がファクターであって、人が放射線を怖がることで、自らを病に追い込んでいると言いました。
しかしながら、例えばカエルやツルやツバメといった、汚染された地域に生息している動物にも、人間に起きているのと同じような異常が生じているわけです。例えば染色体の異常や突然変異が起きています。
また繁殖にしましても、それまでに見られなかったような異常が起こっているということが事実としてあるわけです。人間以外の動物に放射線恐怖症があるとはとても言えません。

これまでは人間に起きた変化についてお話してきましたが、チェルノブイリの事故の影響があった地域の動物、植物の調査もかなり行われていまして、調査の対象になった全てのものにおいて何らかの異常が挙げられています。そして同じようなことが福島においても、また福島の事故の影響が及んでいる地域においても起きています。

それではチェルノブイリの教訓に話を移したいと思います。
その1 放射能の影響は安全ですという、当局の公の宣言を信用してはいけません。
その2 政府から独立した放射線モニタリングを、水、空気、食品において確立しなければいけません。
その3 独立したモニタリングシステムで、体内にどれだけの核種を取り込んだのか、個人レベルで調べる体制を確立する必要があります。

私たち、現場の医者、健康を調査している研究者が集めてくる数字と、公的筋、例えばWHOが発表している数値がかけ離れているのはなぜなのかの理由ですが、WHOとIAEA,世界保健機関と国際原子力機構ですが、1959年に協定を結びました。
どういう内容かと言うと、WHOは原子力の事故の影響を発表する前に、必ずIAEAと協議をすることになっています。WHOが医師の誓い、ヒポクラテスの誓いを破るという内容になっているわけです。

私たちは何度もWHOに対して、IAEAとの協定を取り消してくださいと訴えたわけですけれども、WHOはそれをやめる気はありません。
それで6年前から、WHOの本部がジュネーブにあるわけですが、この本部前でウイークデーあれば毎日、ピケをはっています。ピケの内容は、ヒポクラテスの誓い、医師の誓いを思い出してください。チェルノブイリについて真実を語ってくれというものです。
この行動のアドレスを見ればピケの参加者にアクセスできます。またジュネーブを訪れる方もいると思いますので、1時間でも2時間でもかまいませんので、このピケの一員になってくださるととても助かります。
私がこのピケを訪問したときは、チェルノブイリだけでなく、福島についても真実を語ってくださいとWHOに訴えてまいりました。

続く

 

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明日に向けて(688)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・1

2013年06月11日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

明日に向けて(688)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・1

守田です。(20130611 23:30)

2013年4月26日に、岩波書店から画期的な書物の翻訳が出版されました。『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』です。アレクセイ・ヤブロコフ、ヴァシリー・ネステレンコ、アレクセイ・ネステレンコ、ナタリヤ・プレオブラジェンスカヤの4名によるものです。
翻訳したのは星川淳さんを中心とする「チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム」。僕の友人も参加しており、監訳がまたれていましたが、ようやく出版が実現されました。定価5000円ですが、これでも岩波書店が努力を重ねて安くしてくださったとのこと。ぜひ各地で参照していただきたい書物です。

僕は翻訳チームに友人がいたこともあって、早くからこの書物に注目してきて、幾度か紹介を行ってきました。以下に記事を列挙します。

明日に向けて(264)必読!チェルノブイリ被害実態レポート(前書きがアップされました)-20110918
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b9d72063aa5a264631f0f6ea82dd1456

明日に向けて(538)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(上)-20120903
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/38e19aeb35ab80584e2c3bdc656db68f

明日に向けて(540)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(下)-20120909
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/73cc6881392949c1f5d960ace2504cba

とくにこの(540)では、この書への寄稿者のひとりであるジャネット・シェルマン博士に対して、カール・グロスマンというキャスターがインタビューしたビデオの紹介と、全文の起こしも行っています。

チェルノブイリ100万人の犠牲者
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/info/chernobyl-a-million-casualties/

これらをご覧いただけると、この書の位置が浮かび上がってくると思います。非常に重要な位置がありますので、ぜひご覧ください。

さらに今日は、この書の著者の一人、アレクセイ・ヤブロコフ博士の講演について触れたいと思います。同書の刊行記念として、翻訳チームの努力により、日本各地で行われましたが、僕は5月22日の京都会場の講演に駆けつけることができました。
主催されたのは京都精華大学人文学部細川研究室。協賛が使い捨て時代を考える会/安全農産供給センターでした。

この講演でヤブロコフ博士は1時間にわたって熱弁を振るって下さり、その後、同じく1時間強、質疑応答に答えて下さいました。東京に戻る最終の新幹線の時間ぎりぎりまで話して下さいました。
当日、現場でノートテーくしたものを、録画などをみつつ補強したものを3回にわたってみなさんにお伝えしますのでぜひお読みください。
ただし、音声が聞き取りにくい面があったので、正確さにかける面もあるかと思います。また話された内容と、書物の内容に微妙な食い違いがあるところもあり、その場合は、書物に準じてまとめてあります。
その点も含めて、文責は守田にあることを踏まえてお読みください。

******

チェルノブイリから学ぶ
アレクセイ・ヤブロコフ講演・・・1

2013年5月22日 京都

こんにちは。この場にともにいられることを嬉しく思います。ここで何が起きたのか、今後何が起きるかともに考えていきたいと思います。
それではまず、岩波から日本語訳が出来た本ですが、この本ができた経緯について話します。
2005年、チェルノブイリの事故から20年が経とうとしているときに、WHOとIAEAが報告書を出しました。恐ろしいことは何もないという趣旨でした。私がチェルノブイリで見てきたこと、何千という学術論文とあまりにも違いました。
それで私とヴァシリー・ネステレンコという物理学者とともに、これまで公表されている事実を、一冊の本にまとめることを決めたわけです。

そしてこの『チェルノブイリ被害の全貌』という本でありますけれども、この本は最初は、ロシアの科学アカデミーから出版され、その後、アメリカのニューヨーク科学アカデミーから英語版がでました。そして2011年にウクライナの首都のキエフでロシア語版がでました。
今回、日本語版がでましたが、これが最も素晴らしいできになっていると思います。内容がより完全なものになっています。翻訳も素晴らしくできました。句読点にいたるまで私を質問攻めにして苦しめるほど素晴らしい仕事をしてくれました。

この本では何万点と発表されている研究の中から5000点に書かれている事実を抜書きしてまとめた本です。もっとも鮮やかに事故の影響を表しているものから抜書きしたものです。私たちが一から書き表したのではなくて、すでに先行していた調査をまとめたものです。
今日の限られた時間で、全容は話せないので、この本の中でもあざやかに状況を示した例をみなさんにお話したいと思います。

これからお見せするグラフは、岩波の本の140ページに書かれたものです。固形ガンの罹患率です。汚染の高いところではガンの罹患率が高いことを示しています。
一つの折れ線はロシアの州の一つで汚染の高いブリャンスク州を示しています。真ん中の折れ線は、もう一つのロシアの州で、前の州ほどには汚染が高くはないカルーガ州、福島県では郡山市に該当するところです。一番下の折れ線はロシア全体です。
これを見ますとロシア全体のがんの罹患率も年々、上がっているわけですけれども、汚染土がより高いところほど、がんの罹患率がより高いことが分かります。

次に甲状腺がんなどを見ていきます。これは岩波の本では139ページから145ページに書かれています。 
まず139ページの図の6.1ですが、ベラルーシにおける1975年から2005年のがんの初回登録症例数です。まっすぐに左肩上がりに書かれている線は、がんの推移の予測値でしたが、それより上に伸びている線が実際の件数でした。明らかに予想よりも高くなっていました。

甲状腺のがんというものは、チェルノブイリの事故のあと、4年経って罹病率が高まっていきました。日本でいいますと来年後半からということになります。
今見ていただいているのは、乳がんの罹病率です。158ページのもので、これはベラルーシのゴメリ州のものですが、事故後10年経って急激に高くなりました。同じことが、同じ感覚をおいて日本でもおきると予測しています。

事故の後遺症、影響として、流産率が高まるということがあります。これは97ページの図の5.9、ロシアのリュザン州における1987年から1994年の流産発生率です。上の黒い線はリクビダートルと呼ばれる事故処理にあたった人々、その家庭における流産の発生率、下の線が州全体の発生率です。リクビダートルはロシア全体で60万人いて、かなり綿密な健康の追跡調査が行われ、データが残っています。
これを見ていくと、リクビダートルの家族は事故後の最初の1年間は、半分の妊娠が流産に終わっています。その後、6年経つまで、そうでない家庭に比べてかなり高かい状態でした。そのことをこの数字が示しています。

次にお見せするのは、先天性の発生異常の実数の変化です。ウクライナのジトミール州ルギヌイ地区のものです。183ページ図1です。
チェルノブイリの事故は1986年4月でした。事故以前と翌年は同じ数でしたが、事故の2年後から上がりだし、6年後に非常に高い年がありました。その後も高い年がありました。日本でもこういった状況が起きると予想しています。

放射線による汚染の影響によって、染色体の異常によるダウン症候群の発生率もあがっています。65ページの図5.2と3に示されています。上がベラルーシにおける発症率、下がベルリンのものですが、両方共、チェルノブイリの事故後、9ヶ月たって急激にあがったことが統計として反映しています。
これらはチェルノブイリの事故以降、統計学的にかなり高い水準のまま維持されています。同じ数値が日本でも出ているはずです。統計学的数字としてあるはずですが、まだ誰もそれを発表していません。そうした作業が必要です。

被曝のもうひとつの影響として目の水晶体の混濁があります。それも両眼性のものです。112ページ、図5.11です。ベラルーシの子どもの両眼性の水晶体混濁と、体内に取り込んだセシウムの量の関係を表したものです。この混濁はのちのち、白内障に転ずる可能性があるものです。
体重1kgあたり20ベクレル以上の放射性物質があると、こうした混濁が起こるという数値が出ています。私の意見に反対する原子力推進派の人たちは、水晶体の混濁は恐れるに足りない、視力が落ちるわけではないと反論するわけですけれども、私はその意見は違うと思います。あくまでも甚大な健康被害の一つです。

続く

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明日に向けて(685)国連人権理事会が日本政府に勧告!・・・(1)公衆の被ばくを年間1mSv以下に!

2013年06月01日 22時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130601 22:00)

日本時間の5月24日未明、国連人権理事会のアナンド・グローバー氏による、日本政府に放射線防護の厳格化を求める勧告が発せられました。
グローバ氏は、2012年11月15日から26日かけて日本を訪問、政府関係者をはじめ多岐にわたる人々に面談・聞き取りを行うとともに、福島県の各都市を訪問、この他、東京と仙台も訪れ、福島原発事故と、その後の政府の対応に関する入念な調査を行いました。

今回発せられたのは、その調査報告で、75の報告文と7つの勧告より成り立っていますが、全体として、非常によく問題の本質・・・日本政府の事故対応の問題点や限界をつかみとったものとなっています。
同時に、氏の報告は、確かな科学的見識とともにヒューマニズムに溢れており、通読していて何度も深く胸を打たれました。この文章が、ヒューマンライツナウのHPに掲載されています。ありがたいことに全文の仮訳もつけてくださっています。ぜひ以下からお読みください。

国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏・日本への調査 ( 2012年11月15日から26日) に関する調査報告書
http://hrn.or.jp/activity/srag.pdf

事故の全体を網羅したこの報告は、私たちにとって、この問題をトータルに振り返り、私たちが今後、何を目指していくことが必要になるのかの現時点での格好のまとめにもなりうると感じています。
その点から、数回に分けて、この報告内容を紹介しつつ、いかに捉えるのかを論じていきたいと思います。

初めとして今回は、グローバ氏が報告書の結論として導き出している「勧告」の内容を検討していきたいと思います。(ヒューマンライツナウによって訳された「勧告」全文(日本語のみ)を末尾に貼り付けておきます)

報告は先にも指摘したように、実に見事に書かれていて、どの部分も重要な内容を含むものとなっていますが、その中でも、最も重要なポイントを抜き出すとしたら、やはり78(a)の以下の内容だと思います。
「避難地域・公衆の被ばく限度に関する国としての計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権に基礎をおいて策定し、公衆の被ばくを年間1mSv以下に低減するようにすること」というものです。
またこうした内容に列なうものとして、77(b)でも「1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること」という勧告がなされています。

ここでのグローバ氏の指摘の的確さは、日本政府が依拠しているICRP(国際放射線防護委員会)の勧告=事故後の居住基準値が、「人権に基礎をおいて策定」したものではなく、「リスク対経済効果の立場」から策定したものであることをきちんと指摘している点に現れています。
というのはICRPは2007年勧告において、平常時は被曝線量を、年間1ミリシーベルト以下にしなければならないけれども、事故時には100ミリ~20ミリ、事故後の復旧時には20ミリ~1ミリと設定し、長期的には1ミリを目指すのでよいとしており、日本政府はこれに従って現在、20ミリシーベルト以下の地域は居住可能としています。
これは同じくICRP1990年勧告で「経済的・社会的要因を考慮して合理的に達成できる限り、放射能を防護する」と主張されたことに基づいた考えです。科学的安全基準によるのではなく「リスク対経済効果」の立場から、人間の安全値を決めているのです。
もちろん人間の放射能への忍耐力が、事故時に急に100~20倍になることなどないのであって、これは社会的・経済的理由により安全性を著しく切り縮めてよいとした、原子力を推進する側にまったく都合のよい考えでしかありません。

実は日本政府内部(民主党政権時)でも、こうした考え方に基づく論議を行っていたことが、5月25日の朝日新聞に発表されました。というのは現在も政府が採用している「年20ミリmSv以下」の帰還基準について、「年5mSv以下」に強化する案が検討されたものの、避難者が増えることを懸念して見送っていたというのです。
この点はまた詳しく論じたいと思いますが、要するに民主党政権は人体にとって安全かどうかではなく、避難者の数を問題にして、20mSv以下というラインが引いていたことが、会議の議事録から明らかになったというのです。
にもかかわらず安倍政権にいたっては、この20mSv以下にある「警戒区域」をすべて解除し、人々の帰還を促しています。「社会的・経済的」理由で設定された、科学的根拠に基づかない「安全基準」のもと、人々に高線量地域での居住を強制しようとしているのです。
クローバー氏の勧告は、こうした日本政府の非人道的な姿勢をまっこうから批判したものです。年間1mSv以下という被曝量とて、けして安全な値ではないですが、せめても「公衆の被ばくを1mSv以下」にせよという国連勧告を日本政府は受け入れるべきです。

同時に、同じ考えに基づき、クローバー氏は「1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること」を勧告しました。この点も非常に重要です。すでにさまざまな健康被害が出ているからでもありますが、しかし政府はこの点も無視し続けています。
クローバー氏はさらに「子どもの健康調査は甲状腺検査に限らず実施し、血液・尿検査を含むすべての健康影響に関する調査に拡大すること」とも指摘しています。これも日本政府が、チェルノブイリ事故調査に関する非常に限定的で精度の低い調査に基づき、子どもの甲状腺がんの発生のみを、事故の被害として認定していることを批判したものです。
実際にはもっとたくさんの疾病の発生が記録されています。最も新しい報告書では、2004年までになんと100万に近い人々の事故の影響による死亡が報告されていますが、日本政府は、チェルノブイリ事故での死亡者はたったの60名であるという世界の中でも最も少ない推計を首相官邸ホームページに掲げ続けてすらいます。

これらから考えるときに、クローバー氏の報告は、非常に貴重なもの、私たちに日本に住む人々にとってとてもありがたいものであると言えます。政府はこのこのヒューマニティーに溢れた勧告をぜひとも受け入れるべきです。
同時に私たちは、現在、私たちの人権が政府によってさんざんに踏みにじられていることを自覚し、怒りをもって立ち上がらなければならない。このことを強く訴えたいと思います。
僕はこれまで折にふれて、旧日本軍性奴隷問題、そしてその背景をなした兵士たちへの虐待など、かつての私たちの国の中にあった人権蹂躙が正されてきていないことが、福島原発事故以降の政府の対応に根底でつながっていると指摘してきました。

クローバー氏の勧告はこのことを鮮明化させたものでもあると思います。だからそれは日本政府に突きつけられたものでありながら、同時に、私たち日本に住まう民衆の人権意識にも向けられているものであることを私たちは自覚しなくてはいけないと思います。
私たちの人権は、私たちの力で守り、育まなければなりません。その意味で私たちは、最低でも被曝の限界値、がまん値を、1mSv以下にすべきだとしてきた事故以前の「社会的合意」を政府に守らせる必要があります。
私たちは今、危険な原子力行政を強行してきた政府や原子力村、電力資本によって、虐待を受けているのです。私たちのうち、本当にたくさんの人々が、年間1mSv以上の被曝を強いられています。構造的暴力が民衆に対して振るわれているのです。
これを払いのけなくてはなりません。人権を守らなくてはいけない。それを少しでも美しい環境とともに、未来世代につないでいかなくてはいけません。ともに奮闘しましょう!

なお、たった今、「アナンド・グローバー氏の国連勧告を歓迎し、日本政府に勧告受け入れを求める署名」が始まったという報告が、知人から入りました!!
「避難の権利」ブログに掲載された署名フォームと「共同アピール文」が以下から見れます。ぜひご協力ください!
http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-3d9f.html

外務省、関係各省及び国連特別報告者アナンド・グローバー氏に送付予定とのこと。1次締切:6/3 22:00、2次締切:6/10 22:00、3次締切:6/24 22:00だそうです!!

以下、勧告内容も貼り付けておきます。

*****

勧告

76.特別報告者は、日本政府に対し、原発事故の初期対応の策定と実施について以下の勧告を実施するよう求める。
(a)原発事故の初期対応計画を確立し不断に見直すこと。対応に関する指揮命令系統を明確化し、避難地域と避難場所を特定し、脆弱な立場にある人を助けるガイドラインを策定すること
(b)原発事故の影響を受ける危険性のある地域の住民と、事故対応やとるべき措置を含む災害対応について協議すること
(c)原子力災害後可及的速やかに、関連する情報を公開すること
(d)原発事故前、および事故後後可及的速やかに、ヨウ素剤を配布すること
(e)影響を受ける地域に関する情報を集め、広めるために、Speediのような技術を早期にかつ効果的に提供すること

77.原発事故の影響を受けた人々に対する健康調査について、特別報告者は日本政府に対し以下の勧告を実施するよう求める。
(a)全般的・包括的な検査方法を長期間実施するとともに、必要な場合は適切な処置・治療を行うことを通じて、放射能の健康影響を継続的にモニタリングすること
(b)1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること
(c)すべての健康管理調査を多くの人が受け、調査の回答率を高めるようにすること
(d)「基本調査」には、個人の健康状態に関する情報と、被ばくの健康影響を悪化させる要素を含めて調査がされるようにすること
(e)子どもの健康調査は甲状腺検査に限らず実施し、血液・尿検査を含むすべての健康影響に関する調査に拡大すること
(f)甲状腺検査のフォローアップと二次検査を、親や子が希望するすべてのケースで実施すること
(g)個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを容易なものにすること
(h)ホールボディカウンターによる内部被ばく検査対象を限定することなく、住民、避難者、福島県外の住民等影響を受けるすべての人口に対して実施すること
(i)避難している住民、特に高齢者、子ども、女性に対して、心理的ケアを受けることのできる施設、避難先でのサービスや必要品の提供を確保すること
(j)原発労働者に対し、健康影響調査を実施し、必要な治療を行うこと

78.特別報告者は、日本政府に対し、放射線量に関連する政策・情報提供に関し、以下の勧告を実施するよう求める。
(a)避難地域・公衆の被ばく限度に関する国としての計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権に基礎をおいて策定し、公衆の被ばくを年間1mSv以下に低減するようにすること
(b)放射線の危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱な立場にある事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること
(c)放射線量のレベルについて、独立した有効性の高いデータを取り入れ、そのなかには住民による独自の測定結果も取り入れること

79.除染について特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう求める
(a)年間1mSv以下の放射線レベルに下げるよう、時間目標を明確に定めた計画を早急に策定すること
(b)汚染度等の貯蔵場所については、明確にマーキングをすること
(c)安全で適切な中間・最終処分施設の設置を住民参加の議論により決めること

80.特別報告者は規制の枠組みのなかでの透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう求める。
(a)原子力規制行政および原発の運営において、国際的に合意された基準やガイドラインに遵守するよう求めること
(b)原子力規制庁の委員と原子力産業の関連に関する情報を公開すること
(c)原子力規制庁が集めた、国内および国際的な安全基準・ガイドラインに基づく規制と原発運営側による遵守に関する、原子力規制庁が集めた情報について、独立したモニタリングが出来るように公開すること
(d)原発災害による損害について、東京電力等が責任をとることを確保し、かつその賠償・復興に関わる法的責任のつけを納税者が支払うことかないようにすること

81.補償や救済措置について、特別報告者は政府に対し以下の勧告を実施するよう求める
(a)「子ども被災者支援法」の基本計画を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること
(b)復興と人々の生活再建のためのコストを支援のパッケージに含めること
(c)原発事故と被ばくの影響により生じた可能性のある健康影響について、無料の健康診断と治療を提供すること
(d)さらなる遅延なく、東京電力に対する損害賠償請求が解決するようにすること

82.特別報告者は、原発の稼働、避難地域の指定、放射線量限界、健康調査、補償を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みら関するすべての側面の意思決定プロセスに、住民参加、特に脆弱な立場のグループが参加するよう、日本政府に求める。

http://hrn.or.jp/activity/srag.pdf

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明日に向けて(684)敦賀原発事故で、岐阜県民98万人(県民の約半分)が避難対象に!

2013年05月29日 21時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130529 21:00)

敦賀原発で福島第一原発と同規模の事故が発生した場合、年間20ミリシーベルト以上になる区域の人口が、最大75万人にものぼり、「20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば、避難対象は「約98万人」に膨れあがる」ことが分かりました。
明らかにしたのは、岐阜の市民グループの「さよなら原発・ぎふ」のみなさん。県への情報開示請求などで入手したデータをもとに、細かく各市町村の避難人口を割り出して明らかにされました。非常に重要な発表だと思います。

これを報じた毎日新聞は「敦賀原発:福島と同規模事故で最大98万人避難対象 岐阜」というタイトルをつけています。記事の中に上述した「20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば」とうい一文がどういうことを意味するのか、今ひとつ僕にはよくつかめていないのですが、ともあれ98万人というのは、岐阜県の人口215万人の半分近くにあたります。
記事によると、このように避難人口が最大になる「最悪のケースは、7月に梅雨前線が本州南側に停滞した場合」とされていますが、しかしこれはあくまでも事故が、福島第一原発事故と同程度にとどまった場合のこと。実際に起こる事故が、福島の場合と同程度でとどまる保証など何もありません。
またこの避難基準は、現在の政府が定めている年間20ミリシーベルトというラインに沿ったもの。これに対して国連から、避難ラインを年間1ミリシーベルトにすべきだという日本政府への批判が起こっており、そこからしてもかなり緩い、非人道的な避難基準です。それですら、岐阜県民の半分が避難しなければならないのです。
これは原発事故の深刻さを非常によく物語っているデータです。全国にあるそれぞれの原発から、岐阜県と同程度の距離にある地域で同じことが起きることが想定されます。岐阜県だけでなく多くの地域で、それほどの大規模な避難をしなければならないのです。

ここから私たちが引き出しておくべきことは何でしょうか。第一に、敦賀原発をはじめ、すべての原発の稼働は許してはならないということ、大飯原発もただちに止めなければならないということです。なぜなら原発事故は、当然にも運転しているときほど、起きる可能性が高く、なおかつ放射能量も甚大で、被害規模がより深刻になるからです。
グループ代表の石井伸弘さん(40)「100万人の避難は無理。敦賀半島のすべての原発を廃炉にすべきだ」と述べたそうですが、まったく同感です。そんな大変な避難の可能性を作る原発の運転などどうして認められるでしょうか。
もう一方で重要なのは、原発はたとえ止まっていても、原子炉の中に燃料棒が入っている限り、「シビアアクシデント」にいたる可能性があり、原発の廃炉と核燃料の撤去が完了するまで、事故は起きうるものと考えて災害対策を立て続けなければならないということです。
端的に言えば、無理な100万人の避難・・・を考えなくてはなりません。

ではその場合どうすればいいのか。僕は理想的な全員避難は無理だという現実を見据え、できるだけ災害を減らすこと、減災の精神にたち、できるだけのことをしておくことが大切だと思います。
具他的には何かと言うと、まずは最低限のものとして、ヨウ素剤の配布体制を確立しておくことです。いざとなったら県民の半分が避難しなければならないこと・・・ヨウ素との追いかけっこが生じうることを考えると、事前配布は絶対の条件です!この点、他の地域でも同じことが言えます。
第二には、実際に100万人の避難は無理なのですから、先に逃がすものを決めておくことです。子ども、妊婦、若い女性、障がい者、重い病にかかっている人々などなどです。

反対に言えば、こうした人々を逃がすために、自らは逃げ遅れるのが覚悟で、つまり被曝覚悟で、これらの処置に携わる人々も決めておかざるを得ません。例えば重病の患者さんの場合、無理に避難することの方が危険な場合も生じます。しかしその場合、医療者が残らねばならないことになります。それは誰がやるのか。どのように決めるのか。
これを決めるのは非人道的なことでしょうか。ある意味ではそうだと思います。僕自身、誰かが犠牲になって良いと思っているわけではまったくありません。しかしそのような非情な事態が生じる可能性のあるものが、現に作られてしまっているのです。私たちはそのリアリティに立たざるを得ないのです。
だとするならば、その立場に立つ人々が、逃げることができない状態で、少しでも被曝を軽減できる措置をあらかじめ講じておく必要があります。同時に、被害を受けた際の手厚い補償の体制もあらかじめ決めておく必要があります。

原子力規制委員会が出している、原子力災害対策指針を読むと、この肝心なリアリティが全く欠けています。というか意識的にこの点に触れないようにしているのです。実際に事故が起こったら、福島原発の例から考えても、とてもすべての人が完璧に逃げることなどできない。必ず犠牲者が出てしまう。
そのことを明らかにすると、当然にも人々の脱原発の意識が強まるのが必然と考え、この具体性を除外しているのでしょう。しかしその結果、規制委員会の打ち出した災害対策は、できもしない「安全対策」を美辞麗句のように並べているまったく実効性のないものになってしまっています。

例えば、原発の直近の人々を逃がすときに交通手段はどうするのか。仮にバスを使うとするなら、高線量地帯に誰がバスを運転して人々を迎えにいくのか。これらを決めないと避難体制が作れないのです。同じように、実際の事故を想定していろいろと考えてみると、どうしても危険な場にたたざるを得ない人々が出てくる。
ぜひとも進めたいのは、こうしたリアリティに立った災害対策の推進です。それを住民参加で進める必要があります。とくにこれまでの事故の実例から、警察官、自衛官、消防隊の方たちは、真っ先にもっとも危険な地域へ投入される可能性があります。その場合、放射線量が高い地域への派遣を拒否する権限を確立しておくことがまずは重要です。
けしてその地域への派遣が強制されてはならないのです。このことをはっきりとさせた上で、隊員それぞれへの被曝防護の基礎知識の伝授、線量計や防護服、ヨウ素剤などの必要な物資の部隊への配備がなされなければなりません。任務として危険地帯に派遣された人々が、帰還後にすぐさま検診を受けられる体制の確立も重要です。

繰り返しますが、これは危険を承知の上での原発の運転を認めるものでは断じてありません。原発を止めても、災害の可能性があるがゆえに、こうしたリアリティに立った対策を立てざるを得ないのだということです。

これらの緊張感を持つために、ぜひ原発周辺のそれぞれの地域で、「さよなら原発・ぎふ」のみなさんが行ってくださったような、事故時の避難人口の割り出しなどを進めたいただきたいと思います。非常に重要なポイントだと思います。
なお「さよなら原発・ぎふ」のみなさんは、このデータ発表を踏まえ、「敦賀・美浜原発を廃炉に! ぎふパレード」を呼びかけられています。6月8日(土)午前10時半集合、11時~12時デモ。JR岐阜駅そばの金公園で開催だそうです。
チラシには「75万人が避難?ムリでしょ!いつ止めるの?今でしょ!」と大きく書かれています。まったくそのとおりだと思います。残念ながら僕はいけませんが、お近くの方、ぜひご参加ください!
詳細は以下のURLをご覧下さい!ブログのあとに、毎日新聞の記事も貼り付けておきます!

さよなら原発・ぎふのブログ
http://ameblo.jp/611gifu/entry-11527633074.html

*****

敦賀原発:福島と同規模事故で最大98万人避難対象 岐阜
毎日新聞 2013年05月27日
http://mainichi.jp/select/news/20130528k0000m040098000c.html

日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)で東京電力福島第1原発事故と同規模の事故が発生した場合、岐阜県内で最大約98万人が避難対象になりかねないことが、市民グループ「さよなら原発・ぎふ」の県への情報開示請求などで分かった。グループ代表の石井伸弘さん(40)は27日に記者会見し「100万人の避難は無理。敦賀半島のすべての原発を廃炉にすべきだ」と訴えた。
開示された資料は、県の放射性物質拡散シミュレーションで年間放射線量20ミリシーベルト以上になる区域の人口。最大で県内19市町の「約75万人」に上り、13市町では9割以上の住民が避難対象になることがグループの調査で分かった。この数値のエリアは、福島原発事故では計画的避難区域に指定され全域避難を強いられた。
一方、一部が20ミリシーベルト区域に含まれる岐阜市は「最悪のケース」で全市民約41万人の避難を想定。市民グループによると、20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば、避難対象は「約98万人」に膨れあがる。県の人口(約205万人)の半数近い数字だ。
県は昨年9月、敦賀原発で事故が起きた場合の放射性物質の拡散シミュレーションをまとめた。「約75万人」の前提となる最悪のケースは、7月に梅雨前線が本州南側に停滞した場合で、北西の風に乗った放射性物質が滋賀県から岐阜県南西部に広範囲に拡散することを想定している。岐阜県は敦賀原発の南東に位置し、県北西部の揖斐川町が30キロ圏内に含まれる。
石井さんは「被害のリスクをゼロにする方向に国や県はかじを切ってほしい」と訴えた。【加藤沙波】

*****

なお、原発災害に関する過去記事の一覧も貼り付けておきます。ご参照ください。

明日に向けて(621)過酷事故を前提とした「原発災害対策指針(原子力規制委員会)」を批判する!(1)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1d2110ce6b55ad6624460c1ff2055b4b

明日に向けて(622)あまりに狭すぎる災害対策重点地域・・・「原子力災害対策指針(原子力規制委員会)」を批判する!(2)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4b5eb7a7feec6a59b17c541328445b02

明日に向けて(623)福島4号機の危機を見据えた現実的な災害対策指針の策定を!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/47cbaedf2025cabf86e21402dbc83d48

明日に向けて(624)自治体自らの判断に立った原子力災害対策を!(京都市への意見提出から)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0659e75d054e67ebce6d97ff86bfd334

明日に向けて(628)自治体の原発防災計画を丸投げさせてはならない!ぜひ積極的な市民参画を!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1d2b91727d49788db9197a7e8e3772d2

明日に向けて(629)原子力災害をリアルに想定した備えを!備えることが危機の可能性をも減らす!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/abc19bcca35e8327c84cde569b4839a8

明日に向けて(648)逃げる手段ない・・・避難計画の現実
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b8ac9ef1880eacc89abf24bb49002600

 

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明日に向けて(683)橋下氏の弁護士としての懲戒請求にご協力を!

2013年05月26日 12時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130526 12:30)

日本バプテスト四日市教会にいます。午前中の礼拝に参加し、午後の講演の準備をしているところですが、緊急にこの記事を書いています。

この間、僕は繰り返し橋下氏の性暴力発言に対する批判を行ってきました。同様の批判は国内外の実にたくさんの方から寄せられていますが、橋下氏は言い逃れのために論旨をずらしているものの、未だ、最初に言い放った「慰安婦が必要だったことは誰にもわかること」「米軍は風俗産業を活用すべき」などの暴言を撤回していません。このまま彼を公職にとどまらせてしまえば、私たちの国の人権は地に落ちてしまいます。

これに対して、来日中の韓国の被害女性・・・おばあさんたちは、繰り返し集会で橋下氏の暴言を批判してくださいました。にもかかわらず橋下氏が発言を撤回しないので、おばあさんたちは予定されていた会見を拒否されました。
正直なところ、僕はとても良かったなと思いました。橋下氏のもともとの暴言とともに、彼が言い逃れの中で強調している「強制はなかった」「性奴隷ではない」などの言葉こそが、おばあさんたちをより傷つけ続けているからです。
橋下氏の前におばあさんたちが立つと、再び三度、傷つけられてしまう・・・それが眼にみえるように思えて、胸が苦しい思いがしていました。

こうしたことはおばあさんたちも感じられたと思います。それでおばあさんたちはもはや会う価値がないと判断し、会見を拒否されました。このことそのものがおばあさんたちの毅然とした抗議の表れです。

さて、この場でも求めた橋下氏への抗議文は直接的に今回のおばあさんたちの行動を支援してくださっているみなさんによって、きちんと橋下氏に届けられました。ご協力をくださったみなさま、ありがとうございました。

今回、こうした抗議に続いて、弁護士としての橋下氏への懲戒を求める署名への協力がまわってきました。これも緊急のもので、署名、捺印した上で、明日(27日)には投函しなければいけませんが、ぜひぜひ、みなさんにご協力をお願いしたいと思います。

みなさま。どうかよろしくお願いします!
以下、まわってきた懲戒請求の呼びかけを貼り付けます!

*****

5月29日(水)午後必着 橋下徹 弁護士懲戒請求

懲戒請求の署名は、全国から提出できます。橋下氏の弁護士としての懲戒に賛同される方は、住所、氏名、そして、印鑑を忘れずに押して、月曜日までに投函し、水曜日の午後必着になるように下記住所に郵送してください。

 署名用紙 以下に必要事項を記入・押印して郵送して下さい。
https://docs.google.com/file/d/0B8RBIf5I1IceSS1SR2hkWS1wRWc/edit

 宛先
 〒530-0047
 大阪市北区西天満6-7-4 大阪弁護士ビル6F603
 弁護士法人 大手前ノーベル法律事務所大阪事務所

 封筒に「懲戒請求署名在中」と明記

 懲戒請求書(抜粋)
 「対象会員(橋下氏)の従軍慰安婦発言は、今なお国内外から批判、非難が続いている。それほど、深刻な女性蔑視、人権侵害の発言だったという証左でもある。しかも、対象会員(橋下氏)は発言を撤回しようとはせず、責任転換や論理のすり替えに奔走している。・・・

 対象会員(橋下氏)は、自分を批判する内容のマスコミや有識者の報道、発言には、自らのツイッターなどを駆使して口汚くののしることを常套手段にしている、その一方で、自分の犯したミスや道義的責任は一切ほうかむりし、部下職員や第三者に責任転換することがきわめて多い。・・・
対象会員(橋下氏)の発言は、大阪市長としての品位を著しく害する非行であり、ひるがえって弁護士としての品位を著しく害する非行が加重されるべきである。」

 懲戒請求書
https://docs.google.com/file/d/0B8RBIf5I1IceX192T2RuVmlRZjg/edit
 
twitter 拡散用文章↓
橋下徹懲戒請求呼び掛け5/29(水)午後必着【緊急】全国から提出可能/署名用紙に住所・氏名記入&捺印して郵送(宛先など詳細は用紙参照)→https://docs.google.com/file/d/0B8RBIf5I1IceSS1SR2hkWS1wRWc/edit @t_ishin #橋下イラネ #橋下リコール #維新 #維新の会

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明日に向けて(682)【再掲】原発は核開発の副産物(上)

2013年05月24日 09時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20135024 09:30)

前回もご案内しましたが、明日25日、25日と三重県四日市市のバプティスト教会の場をお借りして、連続講演を行います。この際、とくに二日目のお話で原発に関する基礎的なことを話して欲しいとご依頼を受けたのですが、僕はそこでそもそも原発が核開発の副産物としてできたことをお話しようと思います。
そのために過去に掲載した自分の記事などを調べていたのですが、2011年の初夏に何度か出させていただいた「清水ただしの派遣村テレビ」での説明が一番、わかりやすいかと思いましたので、再掲することにしました。
文字おこしもしています。番組と合わせてご覧下さい。(ただし文字おこしが上だけでとまっていたので、後に下の部分も掲載します)

なお、今回、派遣村テレビが放映を終了されたことを知りました。ちょっとさみしい気がしましたが、清水ただしさんがご活躍で忙しいためでしょう。今後の清水さんの活動のますますの発展を祈ってやみません。

*****

原発は核開発の副産物
 http://www.youtube.com/watch?v=GNEhFjWWOp8&feature=related

福島原発での被曝の現実
 
 ともこ 福島で子どもさんが鼻血をだされているそうですね。
 守田  大変、深刻ですね。内部被曝が進んでいるのだと思います。
 ただし 20ミリシーベルトと言ったり、1ミリと言ったり、文部科学省の態度もあいまいですよね。
 守田  子どもさんだけではなくて、大人の方もけっこう鼻血を出されていまして、私が聞いたのでは、東京から避難されてきた女性も鼻血を出されていました。
 ただし 東京から・・・
 守田  ええ、だから福島だけではないと思います。
 ただし もうちょっと政府が正確な情報を出して欲しいですよね。
 守田  まったく出さないですね。
 ともこ 鼻血っていうと、普通に出たりすることがありますけれど、放射能が原因で出ているってどういうふうな感じなんでしょうか。
 守田  内部被曝の初期症状としてあると言われています。他に下痢などがあります。
 ただし そういう症状が出たらすぐに病院に行くのが大事ですよね。
 守田  ええ、大事なのですけれども、現在の医療ではなかなか(内部被曝としては)診てもらえないのですよね。今日はそのことにも後で触れたいと思います。
 ともこ その前に今日はさっき、村長がタイトルを言いました。「原発は核開発の副産物である」。これ漢字が並んでいるんですが、ここをお願いします。
 

核エネルギーの仕組みとプルトニウム
 
 守田  それでは今日は、原発と核開発についてお話したいのですが、まずはおみせしたいのは、原子力開発、あるいは核エネルギーの仕組みです。ごく簡単にいいますと、まずウランという核分裂性の物資があります。 これは天然にある物質で、そのウランが中性子を取り込むと、プルトニウムになります。これは人工的にできる物質です。ここに(ウランかプルトニウム)に中性子が当たると、分裂するのですね。分裂をしたときにエネルギーが出る。これが原子力発電にも使われるし、核爆弾にも使われます。
 ただし 凄いエネルギーを多分、出すのですね。
 守田  そうです。大変なエネルギーが出ます。エネルギーが出ると同時に、またこの分裂のときに、中性子が飛び出すのですね。飛び出した中性子が次のウランやプルトニウムに当たって、いわゆる核分裂連鎖反応が起きる。一言で言えば、これが一瞬のうちに爆発的に起こるのが原爆。これを制御して、ゆっくり起すのが原子力発電です。
 ただし なるほど。つまり原子炉と核爆弾というのは、同じようなものだと言うことですね。
 守田  ある意味では連関しているものですね。それで分裂するとどうなるか。次の図をお見せしますが、ここにウラン235と書いてあります。235というのは質量、重さですね。それが分裂すると、だいたいこの質量を二つに割ったぐらい。ここには±95と±138と書いてありますけれど、その物質に分かれます。よくヨウ素131とか聞きますよね。ストロンチウム90とか。だいたいウラン235が割れるとその辺の値の物質になるのです。これが放射性物質、死の灰とも呼ばれるものです。それが飛び出してくる仕組みなのです。
 ただし それが一番人体や環境に影響を与えるものなのですね。
 守田  そうです。次のグラフを見て欲しいのですが、これは天然ウランの中に、核分裂するウランがどれぐらい入っているかを示したものです。核分裂するウランはウラン235と言いまして、天然ウランの中の0.7%しかないのです。
 ただし ほんのちょっとだけですよね。へえ。
 守田  あとの99.3%はウラン238といいまして、これは核分裂しないのです。
 ただし そうしたら無駄なものというか、必要のないものなのですね。逆に使っているのはほんの少し何ですね。
 守田  ところがこれは必要のないものでもないんですが、それはどういうことかといいますと、ウランだけで考えるならば、0.7%ではなかなか核分裂が進まないので、原爆を考えるなら、これを100%近くにもっていかないといけないのですね。これを濃縮といいます。原子力発電の場合は、そこまで高濃度に濃縮しなくていいので、だいたい3%から5%に濃縮して使っています。ただし これはなかなか技術的に難しいんですよね。ウランの濃縮に成功したとかよくいいますもんね。
 守田  そうなのです。難しいし実はこれにもの凄くエネルギーがかかるのですね。それで、もっとうまい方法はないかとなって、実は人類が発見したのが、このウラン238を原子炉の中に入れておくと、ここにも中性子が当たるわけですね。ウラン235の方は、中性子が当たると核分裂しますが、ウラン238はいわば中性子を食べてしまい、違う物質に変わるのです。それがプルトニウムなのです。
 ともこ それがあの噂のプルトニウムに。
 守田  順番としてはウラン238に中性子があたって、ウラン239になって、ネプツニウム239になって、だんだんに変わっていくのですが、最終的にプルトニウム239が生まれます。つまりこれは人類が人工的に作った核分裂性物質なのです。これが人類の大発見と言われました。ところがこれが発見されたのが、ちょうど戦争の最中だったのですね。1940年代のことでした。
 ただし 第二次世界大戦の最中ですね。
 

原子爆弾と原子力発電
 
 守田  そうなんです。その過程の中で、ウランを濃縮するのには大変時間もエネルギーもかかる。だとしたらウラン238に中性子をあてれば、プルトニウムは幾らでもできてくる。だったらこのプルトニウムを使って原子爆弾を作ろうということになったのです。
 ただし プルトニウムもそういうエネルギーがあるのですね。
 守田  いやウランよりももっと核分裂しやすい。エネルギーもたくさん出します。それで次に見せる絵は、私は見せるのが嫌なものなのですが・・・。
 ただし あ、これは原爆じゃありませんか。
 守田  はい。原爆は私達の国は、みなさん御存じなように、広島と長崎に落とされたわけですが、実はアメリカには広島と長崎に二つ落とす理由があったのです。
 ともこ なんで、なんで?
 守田  それはですね。ウランで作った原爆と、プルトニウムで作った原爆を試したかったのです。
 ともこ 実験ですか・・・。
 守田  ええ。
 ただし 違うタイプの爆弾を落としたかったんや。
 ともこ どっちがウランでどっちがプルトニウムですか。
 守田  広島がウランで、長崎がプルトニウムです。これは先程も言った、ウランを濃縮して原爆を作るのが早いのか。プルトニウムを作って原爆を作るのが早いのか。当時、アメリカも戦争中ですから、実験をして確かめている余裕がなかったのですね。それでいっぺんに両方、計画を走らせたのです。
 ともこ それで6日と9日に・・・。
 守田  ええ。6日と9日の分ができてしまって、正確にはプルトニウム型原爆はもう一つ作って、それは7月に実験しているんです。
 ともこ どこでですか?
 守田  アメリカでです。それで簡単に構造を説明しますと、こんな話はしたくないのですが・・・
 ただし 一応、参考までに。
 守田  ウランもプルトニウムもそうなのですが、核分裂性物質というのは、ある量をいっぺんにぐちゃっともってくると、核分裂をわっと起すのですね。だから分けていたものをいっぺんにばんとぶつけるのが核爆弾の仕組みで、ウランの場合は、両側にウランをおいておいて、その外側に爆薬をおいておいて、その爆薬が破裂すると、ウランがひっつく。それで爆発させる仕組みなのです。
 ただし なるほど。一度、爆弾の中で爆発させて、その勢いやエネルギーでウランを爆発させるということですね。なるほど、なるほど。
 守田  ところがプルトニウムの方は、さきほどもいいましたように、ウランよりも核分裂しやすいので、ウランは大きく二つに分けましたけれども、プルトニウムは二つに分けただけで爆発してしまうのです。
 ともこ へえー。
 守田  なのでもう少し小分けにして、ボールの真中に小分けしてその周りに火薬を配置して、この火薬が爆発して、一気にがっと爆縮するのです。
 ただし でもたった一発の爆弾で、何万人という人の命や建物が奪われるわけじゃないですか。凄いエネルギーですよね。
 守田  もの凄いエネルギーであると同時に、本当に残酷です。それから何カ月もかけて、どんどん、手の施しようもなく、人が亡くなっていきました。核心問題は、このプルトニウムを作るためにどうしたらいいのかです。さっき、原子力発電と核爆弾の違いということを言いましたけれども、実は、ゆっくり核分裂反応をさせて、プルトニウムを作るというのが、もともとの原子炉の目的なのです。
     つまりプルトニウムを作るときに爆発したら大変ですよね。
 ともこ はい、はい、はい。
 守田  だからプルトニウムを作る過程では、ゆっくり核分裂をしないと、プルトニウムを取り出すこともできないわけです。それで作られたのがもともとの原子炉なのですよ。この場合の原子炉はプルトニウム生産炉と呼びます。ところがプルトニウムを作るときに、核分裂していますから、核分裂でエネルギーがたくさん出て、熱がたくさん出るわけですね。この熱をどうしようか。それで水とか、冷却材を回すわけですね。それでそれが熱をもって出て来る。これ何かに使えないか。タービンを回してしまおう。ということで出てきたのが原子力発電なのです。
 ただし ということは、もともとは爆弾というか、兵器を作る過程でそのエネルギーを何かに利用しようということでタービンを回したのですね。
 守田  そうです。
 ともこ だから副産物なんだ。
 守田  特に戦争が終わって、それが何か他のものに利用しないと、作ったものが無駄にもなってしまう。それで一つの説としてあるのが、原子力潜水艦に使おうではないかということで、エネルギーに使うということが出てきたという話です。
 ただし その当時から安全性は二の次、三の次という感じですよね。
 守田  そうですねえ、その場合、二の次、三の次と言っても、作っている側にとっても、爆発したら困るのですね。ですから制御はできなくてはいけない。ただ軍事用ですから、多少、放射能が出てもそんなことは関係ないと思うような人殺し兵器ですから。そのような形で作られたということを頭に入れておく必要があると思います。

下に続く

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明日に向けて(680)橋下氏に謝罪と辞任を求める抗議文に賛同を!!

2013年05月21日 15時02分13秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130521 15:00)

橋下維新の会共同代表の性暴力発言に関する続報です。ご存知のように、橋下氏は今もなお居直り発言を繰り返しています。いつも都合が悪くなると、自分の言葉を言い換え、主張をずらして言い逃れを図るのがこの方の常套手段ですが、今、執拗に繰り返しているのが、「慰安婦制度は日本だけがやったことではない」という主張です。
警戒すべきこととして、もともと安倍政権による「慰安所」への「強制性の否定」を強く支持してきた読売新聞、産経新聞が、同調を開始しています。こういう言い換えは率直に言ってとても「卑怯」で「卑劣」です。男性全体をどんどんみすぼらしく見せているようでうんざりします。性暴力の加害者によくある開き直りで、それを会社をあげて読売新聞と産経新聞が支援しはじめています。

これに対し、ちょうど来日中の、韓国の被害女性のおばあさん(ハルモニ)たちが、各地で証言を行いつつ、真っ向から橋下氏を批判し、5月24日に直接会って、抗議を行おうとしています。来られているのは金福童(キム・ポクトン)ハルモニ(88歳)と吉元玉(キル・ウォノク)ハルモニ(84歳)です。
彼女たちの行動を東京新聞と毎日新聞が報じていますので、ぜひご覧ください。

「自分の娘を送れるか」 元慰安婦 橋下氏に面会へ
東京新聞 2013年5月19日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013051902000107.html

橋下・日本維新の会共同代表:慰安婦発言 元慰安婦女性、橋下氏を批判 24日に面会予定
毎日新聞 2013年05月19日
http://mainichi.jp/select/news/20130519ddm041010063000c.html

吉元玉(キル・ウォノク)ハルモニとは、僕も韓国でお会いして、一緒にご飯を食べたことがあります。とても優しく素敵なハルモニですが、このハルモニたちの24日の抗議行動に向けて、日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークより、抗議文への賛同の要請が出されています。24日にハルモニたちの橋下氏への抗議のときに、一緒に提出するのだそうです。
ぜひたくさんの賛同人の名を連ねたいと思います。ぜひ以下から賛同をお願いします。友人、知人にもこのことを積極的にお知らせください。賛同署名は23日までにしてくださいとのことです。よろしくお願いします!(賛同要請と抗議文全文を末尾に集会案内とともに貼り付けておきます。)
http://chn.ge/18OEMtq

橋下氏は「慰安婦制度」が、世界のどこの国でも行ったことだとうそぶいています。そもそも自分が責められていることに対し、「誰それもやった」と答えるのは開き直りでしかありません。何ら己を正当化したことになどならない。にもかかわらず己の罪を認めない人に限って、このような居直りを行います。それだけでも橋下氏に真剣な反省の心などないことは明らかです。
どういい逃れようと、橋下氏は、性のはけ口に女性を利用することを全面的に肯定したことは明らかです。さすがに世界中から抗議を浴びて、そんな暴言が通用しないことを知ったので、「肯定していない」と言い換え、逃げをうっているだけですが、このように、性暴力を「誰もがやっていること」とうそぶいて反省しない姿こそが、性暴力の温床なのです。だからこうした発言は必ず社会的に罰せられなければなりません。

その上で、旧日本軍が行った性奴隷制度は「売買春一般」とは構造が違っていたことを強調したいと思います。非常に非人道的な強制性と暴力性に支えられていたからです。これまでも主張してきたように、それは旧日本軍の兵士に対する構造的虐待とセットのものでした。兵士がさんざんいたぶられていたが故に、日本軍兵士たちの暴力性は他国に例のない残虐なものになっていたのです。
彼らは、野に放たれると大変な暴力性をあらわにし、殺人、略奪、強姦を繰り返しました。そのことで日本軍に対する当地の民衆の怒りは高まるばかりでした。これを防止すること、同時に強姦によって兵士が性病にかかることを防ぐために、処女を集めて作ったのが日本軍の慰安所だったのです。そのために騙したり、さらったりして年若い女の子たちが集められたのでした。そこが売買春一般との大きな違いです。
また軍が上陸して戦闘を行っていたフィリピンなどでは、軍が直接に村を襲い、人々を殺害し、少女たちをさらって性奴隷にしたこともありました。

これらにはたくさんの証拠があります。犠牲女性たちの証言、兵士たちの証言、およびこれらを綿密に検証してきた研究者たちの論文などなどです。日本軍は終戦時に、膨大な書類を焼却処分して、さまざまな戦争犯罪を隠蔽しましたが、中には残ったものもあり、これらも研究者によって明かにされてきています。
もっと明快なものとしては、こうしたものの積み重ねが、被害者が日本政府を訴えた裁判に反映したことがあげられます。おばあさんたちが日本の裁判所に提訴した裁判の多くで、被害者の証言の信ぴょう性が認められ、強制性もまた完全に認定されています。いずれも日本の裁判所が出した判決です。
残念ながら、多くの裁判所が被害者の証言を全面的に認めながら、現在の政府に対する賠償請求権がないとの理由で、おばあさんたちの訴えを却下をしてしまいました。事実は完全に認定しながら、賠償を認めなかったのです。

これについては、次のサイトなどをご覧下さい。繰り返しますが日本の裁判所の司法判断として、繰り返し強制性、被害者の証言が事実に合致することがきちんと認定されてきたのです。
http://d.hatena.ne.jp/dj19/20120314/p1

これらをご覧になっただけでも、日本が他国にない強制性、暴力性を伴なった性奴隷制度を作り出していたことが分かります。そもそも自らの国の戦争犯罪に対しては、他国がどうであれ謝罪し被害者への補償を行うべきですが、それに加えて当時の日本の行ったことはあまりに特異で非人道的なのです。にもかかわらず、日本政府からの公的補償はまだ一度たりとてされていません。こんなにひどいことをしながら誤りもしない国であることが、私たちをも辱めています。
こうした歴史的事実を捉え返すことは、何ら「自虐」ではありません。自らの過ちを認め、真剣に克服する姿こそ、人間として尊いものであり、人はそういう姿にこそ共感するのです。

さらに僕は私たちの国は、こうしたこと真摯に進めながら、同時にアメリカに、広島・長崎への原爆投下、80以上の都市空襲、沖縄地上戦による島民の3分の1の殺害などの戦争犯罪の謝罪を求めなければいけないと強く思っています。
日本政府も、「右翼」も、橋下氏のような人たちも、このアメリカが行った、まごうことなき一番の戦争犯罪にはピタリと口を閉ざして批判もしません。自ら被った戦争犯罪を一言も批判できない姿こそ、僕は自虐的だと思います。
どうしてそうなってしまうのか。実は旧日本軍の兵士たちと同じことが言えるのです。彼らは軍隊の中で本当にひどい虐待を受け、めちゃめちゃな作戦指揮の下に死地に放り込まれました。本当に運の強い人々だけが帰って来れましたが、しかし彼らはこの虐待に対する告発をほとんどまったく行えませんでした。

なぜだったのでしょうか。兵士たちの多くが、自らが虐待される鬱憤を、殺人や略奪、強姦ではらしてしまったからです。あるいは軍によってシステマチックに「慰安所」に送り込まれて、解消させられてしまったからです。そのために自らの尊厳への侵害を告発できなかったのでした。
これは過去のことではありません。現在進行形のことです。今なお、大変な虐待を受けながら、それを一度も告発できずに生きているおじいさんたちはたくさんいるでしょう。わずかな軍人恩給を施されているだけで、自らを虐待した人間を裁くことができずに来たのです。
さらにそれが国家的構造になってしまっています。アジアへの侵略を行ったことを国家としてきちんと捉え返すことができず、「戦争だから仕方がない」とうやむやにしてきたが故に、アメリカによる原爆投下に対する国として批判、戦争犯罪の告発ができずに来たのです。

そうしたことを象徴しているのが、維新の会の現状だとも言えます。というのは、世界の世論に驚いてしまった橋下氏は、にわかに「日本の侵略は反省しなければならない」と言い出しました。ところがこれにもうひとりの共同代表の石原慎太郎氏が反発、あれは侵略戦争ではなかったと言い出しました。
それで二人の共同代表はどうしたのか。この問題を不問に付して、党としての見解は出さないことで妥協したのです。しかし橋下氏は「侵略の反省が必要だ」と言っているのではないのでしょうか。それならばなぜ石原氏に反省を求めないのでしょうか。党の他方の代表が「侵略だ」と言っていて、どうして反省が成り立つと言うのでしょうか。どうしてそんなに大事なことでこの人はこうしてポンポン妥協できるのでしょうか。はっきりしています。いつも本気になっていないからです。

しかしこうした人々が「国のため」だとか「国軍創設」だとか語っているから、国を守るためにはとかいいながら、日本国民・住民の命、財産が激しく侵害された原爆投下等々の戦争犯罪に、本当に何の抵抗もできないのです。
常々、思うことですが、こうした人々は、「どのツラ下げて」靖国に参拝してきたのでしょうか。あそこに強制的に祀られている方たちは「鬼畜米英撃滅」のためにと戦争に動員されたのです。若い兵士たちの中には、本当にアジアを米英から解放しようと銃を握ったものもたくさんいたことでしょう。
その「英霊」の前に、米英の戦争犯罪を一度も告発しないばかりか、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争と、常に「英米」の戦争犯罪に全面的に協力してきたのがこの国のリーダーたちでした。そうした人々に限って「英霊が」云々と叫び、靖国参拝を行ってきたのです。旧日本軍兵士たちは、魂になってまで、こうした人々に利用されてきたのです。あんまりな仕打ちです。

橋下氏は、ベトナム戦争のときに韓国軍が売買春を行っていた云々と叫んでいますが、それならどうしてその前に、アメリカの北爆など、ベトナム戦争そのものの侵略性、非人道性、暴力性を告発しないのでしょうか。そしてそのために日本政府が全面協力したことを捉え返さないのでしょうか。
そのことをまったく問うことなく、韓国軍のことだけを罵倒するあり方こそ、まったく不誠実であり、卑怯であり、暴力的なのです。本当はそこで犠牲になった女性たちのことなど何も考えてない。ただ自分の正当化と言い逃れのために、さまざまなことを利用しているにすぎないことが本当にあけすけに見えてしまっています。

以上、言っても言っても言い足りないですが、まったくもって暴力的かつ自虐的な態度をとり続け、日本人の国際的信用も、男性の品位も、本当にひどく貶めているのが、日本維新の会共同代表の橋下氏です。こんなことが許され続けて言い訳はありません。
みなさん、ぜひ謝罪と辞任を要求する署名にご協力ください。また可能な限りこれを広めてください。私たちの尊厳のために、未来世代に少しでもいい日本を渡すために、努力を重ねましょう!

*****

日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークより、抗議文への賛同の要請

5月23日まで(!)に、橋下市長に対する抗議文にたくさんの人の賛同者を得て、橋下市長に面会する「慰安婦」被害者とともに、橋下市長に届けたいと思います。被害者が決して一人ではなく、日本に住むたくさんの人間が被害者を応援し、同じ気持ちにあるのだということを示してください!

5月13日、橋下市長は日本軍「慰安婦」被害者の尊厳を傷つける、ひどい発言を行いました。

「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、「慰安婦」制度は必要なのは誰だってわかる」――「慰安婦」被害者は、戦争遂行のためには必要だったと主張したのです。 
その後、日本中。世界中から批判を浴び、あれこれ言い訳や開き直りを繰り返していますが、しかし内容に関することは一貫して変えず主張し続けています。

昨年9月、金福童ハルモニは、「強制連行の証拠はない」と繰り返す橋下市長に抗議の面会を求めて市役所を訪れましたが、その時橋下市長は公務を休んで会おうとはしませんでした。今回は金福童ハルモニと吉元玉ハルモニが来阪することが決まり、被害者たっての希望もあって、私たちが市長への面会を申し入れていたさなかの、橋下市長のこの発言でした。
内外の批判を浴び、逃げることができないと判断したのか、橋下市長は「慰安婦」被害者と会うと記者会見で明言、面会期日は5月24日に決まりました。
しかし橋下市長はここに至ってもなお「強制連行の証拠はない」と主張し、被害者を「被害者」と認めず、ただ「おかわいそうな人」であるという態度を変えていません。
被害者たちを応援し、支えるため、あなたも賛同してください!
http://chn.ge/18OEMtq

*****

抗議文全文

橋下市長!

日本軍「慰安婦」問題へのたび重なる暴言に、断固抗議します
私たちは、昨年8月21日の橋下市長による「『慰安婦』という人たちが軍に暴行、脅迫を受けて連れてこられたという証拠はない」との発言に抗議したことに始まり、以後、繰り返し、発言の撤回と謝罪を求めてきました。しかし、橋下市長は私たちの声に一切耳を傾けることなく、暴言を吐き続けています。そして今回、さらに暴言の内容をエスカレートさせ、自ら、日本中、いえ、世界中からの非難と嘲笑をますます拡大させていることを自覚しておられますか。
橋下市長は5月13日の会見で、「事実と違うことで、わが国が不当に侮辱を受けていることに関してはしっかり主張しなければならない」と言いながら「慰安婦」問題に言及し、「慰安婦」制度は世界各国が持っていたと繰り返し、「なぜ日本だけが非難されるのか」と主張しました。これは昨秋から繰り返されている論理ですが、幼稚で、受け入れられるものではないということに、まだ気づいておられないようですね。国際社会からもこれほど関心を寄せられている問題について、自らの歴史認識も問わず、根拠もなく世界を巻き込もうとする姿勢に、いったい誰が共感すると思われているのでしょうか。

さらに、「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、『慰安婦』制度が必要なのは誰だってわかる」と発言されました。まったく、返す言葉を失う発言です。女性を人間として見ず、戦争遂行のための道具であり、戦時下で女性の性を活用するのは当然と言わんばかりの女性蔑視の発想は、かつて戦場に慰安所を生み出した日本軍の男たちと同じものです。さらに、「『慰安婦』制度じゃなくても、風俗業っていうものは必要だ。沖縄の海兵隊、普天間に行った時、米軍の司令官に『もっと風俗業を活用してほしい』『そういう所を活用してもらわないと、海兵隊の猛者の性的エネルギーをきちんとコントロールできない』と言った」とぬけぬけと語る厚顔無恥ぶりは、公職にある者の態度では決してありません。一自治体の長にとどまらず、政党の代表として、女性の人権に配慮した政治をめざすことは、日常的な務めであるはずですが、風俗業で働く女性たちに人権問題は存在しないとお考えなのでしょうか。
また、橋下市長は昨年来一貫して、「世界各国が一番問題視しているのは、日本が国を挙げて女性を暴行、脅迫、拉致をして無理やりそういう仕事に就かせていたこと」であり、「レイプ国家」と非難されるのは許せないと言い募りますが、果たしてそうでしょうか。この間、安倍首相の「河野談話」見直し発言に噴出した各国政府やメディアからの非難をご存知ないはずはないでしょう。国際社会の認識は、市長が持っている認識とは明らかに違います。女性たちが「意に反して」慰安所に捕らわれ、居住の自由、外出の自由、廃業の自由、拒否する自由もない中で兵隊の性処理の相手を強要されたこと、そのような非人間的な制度を軍が主導して、軍が管理統制していたこと、そしてその事実に対して未だに日本政府が、「官憲が暴力的に連行」してさえいないと弁明すれば国家の威信が守られると思い込んでいる、その人権感覚の無さ、お粗末さと歴史を直視して一歩踏み出す勇気や正義感の無さを非難しているのです。まさに橋下市長、あなたこそが国際社会の非難の的になっているのです!もちろん、安倍首相も同じです。

私たちは5月25、26日に、大阪と奈良での証言集会のために訪れるハルモニを迎えるにあたって、市長との面談を要求してきました。それは、金福童ハルモニにとっては二度目の市長訪問になります。昨年、市長は「証拠があるなら韓国側に出してほしい」と言いながら、9月に「私が証拠です」と市庁を訪れた被害者との面談に応じず、公務がないと休暇をとってツイッターで「慰安婦」否定発言をしていました。ハルモニは、「二度と私たちのような被害者を出さないでほしい。戦争は二度としないでほしい」と、いつも語っておられます。現在のこの国の状況を憂えて、「日本へ行って話したい」と言われ、今回の来日が実現したのです。このたび、ようやく被害者ハルモニたちが橋下市長に歴史の事実を語る機会が実現しそうですが、橋下市長、決して同情ではなく、この日本軍「慰安婦」問題を被害者の立場に立って解決することをめざして会ってください。そして、この間の暴言を被害者の前で撤回し、謝罪すべきです。
橋下市長、吉見義明さんにも誠意を見せなければいけないのではないですか。「吉見さんも強制の事実までは認められないと言っている」との市長の発言に、吉見さんは「事実無根」と、東京より抗議声明をもって面談に訪れられたにもかかわらず、市長は理由もなく面談を拒否、その日の夕方に記者会見で「戦争遂行の一つの手法の中で、女性にそういう性の仕事をしてもらうことは全世界的にあった」「なんで日本のことだけ国際社会が非難しているのか」と語りました。またしても、問題の本質がわかっていないことを自らさらけ出し、多くの人々の怒りを買ったのでした。

私たちは、橋下市長の日本軍「慰安婦」問題へのこのようなたび重なる暴言に、断固抗議します!
橋下市長がいくら否定したくても、戦時において日本軍が慰安所制度を創設、募集、管理にいたるまですべての責任を負っていたこと、朝鮮半島をはじめアジア各地で数万から十数万に及ぶと言われる女性たちを日本軍性奴隷としてすさまじい暴力と人間破壊の現場に追い込んだ事実は、誰も消せない歴史的事実です。

橋下市長に要求します。
一、たび重なる暴言で、日本軍「慰安婦」被害者をさらに傷つけ、癒しがたい傷を負わせたことに対し、謝罪すること
一、被害者との面談において、この間の発言を撤回し、謝罪すること。面談を政治利用しないこと
一、長年にわたり、重苦を押し付けている沖縄を貶めたことに対し、謝罪すること
一、すべての女性に謝罪すること
一、人権意識がみじんも無く繰り返される暴言の責任をとって、直ちに大阪市長を辞任すること

2013年5月24日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク


*****

岡山・証言集会のお知らせ

★2013日本軍「慰安婦」被害者証言キャンペーンinおかやま
 『ハルモニの声に耳を澄まそう!心傾けよう!
  ~二度と戦争を起こさないために、再び女性の人権が奪われないように~』

とき:5月23日(木)午後1時~3時半
ところ:さんかく岡山(岡山市北区表町3丁目)℡:086-803-3355
参加費:1000円(学生さんと避難者は無料)★受付で告げてください。
定員:100名

証言:金福童(キム・ポクトン)さん:88歳 ・ 吉元玉(キル・ウォノク)さん:84歳
講演:尹美香(ユン・ミヒャン)さん(韓国挺身隊問題対策協議会代表)
通訳:梁路子(ヤン・ノジャ)さん
ミニライブ:よしだよしこさん(シンガーソングライター/東京在住)

申し込み:T&F:086-277-7522  メール:kei3@po1.oninet.ne.jp
主催:「慰安婦」問題を考える女たちの会・岡山
共催:I女性会議岡山・アムネスティ岡山・岡山カトリック教会平和共生委員会・
   木々の緑、風そして人々の歌・ふぇみん岡山・メンズリブフォーラム岡山
協賛:日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

*****

大阪・奈良証言集会のお知らせ

●日本軍「慰安婦」被害者証言キャンペーン2013 inおおさか●
「何度でも語る 歴史の事実はこれです」
再び戦争への道を歩まないために
 日時:5月25日(土)12時半開場/13時開始
場所:ドーンセンターホール
講演:吉見義明さん「被害者の声に向きあって
           記録し、記憶し、未来へ語り継ぐ責任」
   尹美香さん
うた:李政美さん、安聖民さん
主催:日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク
協賛:日本軍「慰安婦問題解決全国行動
資料代:一般800円/学生400円

http://www.ianfu-kansai-net.org/

●日本軍「慰安婦」被害者証言キャンペーン2013 inなら●
「何度でも語る 歴史の事実はこれです」
?再び戦争への道を歩まないために?
日時:5月26日(土)12時半開場/13時開始
場所:奈良人権センター(旧 奈良県解放センター)
(奈良市大安寺1-23-1  TEL 0742-62-5501 
JRまたは近鉄奈良駅からバス「大安寺」下車、南に徒歩3分)
講演:吉見義明さん、尹美香さん
ゲスト:キム・ボットン ハルモニ
    キル・ウォノク ハルモニ
主催:日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク、アイ女性会議なら、
   多文化共生フォーラム奈良、解放同盟奈良県連合会女性部
協賛:日本軍「慰安婦問題解決全国行動
資料代:一般800円/学生400円

 

 

 

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明日に向けて(679)放射性トリチウムなどが大量に海洋投棄されつつある!

2013年05月18日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130518 23:30)

橋下発言の余波はまだまだ続いています。橋下氏はなんとしても辞任していただかなくてはなりませんし、さらに進んで安倍首相の歴史認識も正さなければなりません。そのため、まだまだこの問題を論じなければと思っています。
ただそうしてる間にも、東京電力がとんでもないことを推し進めつつあります。福島原発サイトにたまった汚染水の海洋投棄です!その場合、膨大な放射性トリチウムをはじめとした放射性核種多数が投棄されてしまいます。ただでさえ大変なダメージを受けている海がさらに壊滅的に汚染されてしまいます。
何よりも、この事態を未然に防ぐために、みなさんの注意を喚起すべく、この記事を書いています。

このところ東京電力が直接的に進めているのは、原子炉建屋に流れ込む前の地下水を井戸から組み上げ、海洋放出することでした。このために地元漁業関係者の説得を行っていますが、今のところ、東電をとても信用できない漁民の方たちから拒絶を受けています。
東電が問題にしているのは何かというと、原子炉が崩壊しているため、核燃料を冷やすために炉内に入れて汚染された水を回収する際に、周辺から流れてくる地下水がまじってしまい、結果的に汚染水の量が増えるので、地下水の流入量を減らしたいということです。
ただし、物理的に原子炉を直して、外から地下水が入らなくすることは不可能であるため、炉よりも山側に井戸を掘り、そこで地下水を汲み上げて直接、海に放流するというのです。

しかし本当にこの地下水は「周辺の河川と変わらないレベル」なのでしょうか。漁民の方たちが疑っているのも第一にはこの点です。何せこれまで繰り返し嘘をついてきた東電のことですから、とても信用などできない。
ちなみに、グリーンピースジャパンは、おしどりマコさんの取材から、この地下水の分析を行っているのが関西電力傘下の企業であることを突き止め、汚染がないなどとはまったく信用できないとして、汚染水放流反対の署名運動を開始しています。
僕もこれは正しい分析だと思います。東電の言う「安全」などいつも信用できるものではないですが、今回にいたっては、東電が「第三者機関に依頼している」といったその相手が、関電傘下の企業、身内なのです。その調査で、安全性が確保されるなど、到底信用できません。

その意味で、まずは地下水の投棄を含めた一切の汚染水の海への投げ捨てに反対しなければなりません。
以下、グリーンピースジャパンによる署名の呼びかけのページをご案内しますので、可能な方はぜひお願いします!僕もすでに署名しました!
http://www.greenpeace.org/japan/ja/Action/TepcoWater/

さて、僕が注目してきたのはその先です。東電は地下水の投棄だけを狙っているのかというと、まったくそうではなくて、新型の浄化設備「ALPS(アルプス)」を稼働させ、これまでよりも多くの放射性核種を取り除いたとした上で、処理後の汚染水の海洋投棄を目指すことをすでにこれまでにも公言しているからです。
アルプスはすでに3月30日から試験運転を始めています。東電は約4ヶ月の試運転で性能を確認し、本格稼働させるとうたってきました。となると8月後に本格稼働が始まることになります。つまりそれ以降に汚染水の海洋投棄を始めたいのです。
その点から考えると、今回の地下水の海洋投棄は、汚染水全体の海洋投棄に向けた地ならしの位置が大きいと思われます。

しかしアルプス稼動後の汚染水の海洋投棄という計画には非常に大きな問題があります。というのは東電はアルプスの稼働によって、これまで除去できなかった62の放射性核種が除去できるとうたっています。しかしそれならば現在の汚染水に含まれている62の核種の濃度を明らかにし、アルプス運転後に実際にどれだけ除去したかを明らかにすべきですが、東電はその点は公表しようとしません。
なぜか。この間、東電は意識的に汚染をセシウムだけであるかのように世論誘導してきましたが、アルプスの全性能を表にだしてしまうと、同時に、すべての汚染の実態も見える化してしまうからです。しかしこの点を明らかにしない限り、アルプスの性能は検証されたことにならない。結局、62の核種は本当に除去されたかどうか十分に検証されないまま投棄されてしまう可能性があります。

さらに大きな問題は、このアルプスによっても放射性トリチウムが除去できないことです。これは非常に重要です。トリチウムとは水素の同位体であり、化学的には水素とまったく同じように振舞う物質です。そのため扱いがとてもやっかいです。
酸素と結合すればすぐに水になってしまうし、他の有機化合物の中にも容易に入り込んでしまいます。そのため人体や生物の中に本当に容易に入り込んでしまいます。そしてそこでβ線を出して崩壊するのです。

しかもトリチウムは放射性物質としての危険性、放射線を出すこと以外の危険性も持っています。生物のDNAに特異な影響を与えるのです。DNAとはご存知のように遺伝子のことです。二重の鎖になっており、その中に4つの塩基、アデニン(A) , チミン(T),グアニン(G) ,シトシン(C)があって、組みを作って遺伝子情報を編み上げています。
重要なのは、この塩基のうち、A-T、G-Cという塩基の対が、水素結合という結びつきをしていることです。水素は例えば水などの有機化合物を作るときには、酸素と軌道上の電子を共有しあう形で結合を遂げます。これを共有結合といいます。ところがこうして共有結合した水素と、他の電子の間に引力のような力が働く結合方式があります。電気的に陽性の水素と、陰性の原子の間に働く静電気的な力で、これが水素結合と呼ばれます。DNAの塩基の対同士は、この力によって結合しています。
ところがここにトリチウムが入り込むと、β線を出して崩壊し、ヘリウムにかわってしまうので水素結合が働かなくなってしまうのです。そうするとDNAの塩基の結合が切れてしまうことになります。放射線があたることによってではなく、そこに水素として入り込んだトリチウムが、他の物質に変わってしまうことにより、切断が起こるのです。

このためトリチウムは、放射性物質として以外の大きな生物に対する危険性があることがわかります。ところがこの点が、まったく評価されておらず、トリチウムの危険性は、主に崩壊によって発生するβ線のエネルギーによって測られてしまっているのですが、エネルギーが非常に弱いため、危険性がとても小さく見積もられているのです。
それに基づいき膨大なトリチウムを「法令水準以下である」として海洋投棄しようとしているのが東電の作っているシナリオです。

なお新聞各紙を読んでいて、まるでこの東電の思惑を代弁するような、ある種、唖然とする社説が掲げられていることを知りました。掲載したのは読売新聞です。「福島第一原発 地下水の対策は焦眉の急だ(5月14日付・読売社説)」というタイトルの記事です。
ここでは東電が漁民の方たちの説得に失敗したことが述べられ、「地下水放出の安全性、重要性について、東電は粘り強く説明しなければならない」としています。これはいくらなんでもおかしい。東電が説得できない内容をどうして先に読売新聞が知っているのでしょうか。本当に安全かどうかを検証するのが「マスコミ」の役割だというのが建前なのではないのでしょうか。

また次のような主張も出てきます。「東電の検査では、地下水には放射性水素(トリチウム)などが少量含まれる。地表の汚染物質が雨水とともに浸透したらしい。ただ、1リットル当たり最大450ベクレルで、世界保健機関(WHO)が定める飲料水の水質ガイドラインの同1万ベクレルよりはるかに低い。」
この1リットルあたり最大450ベクレルという数字の出処が僕はまだよく把握できていないのですが、しかしそれだったら、東電の言う「周辺の河川と変わらない」という主張が早くも崩れることになってしまいます。この点もこの記事はかなりおかしい。

さらに極めつけは、結語が次のように結ばれていることです。「福島第一原発の長期的かつ総合的な汚染水対策も欠かせない。汚染水は、敷地内の貯蔵タンクに保管中だが、汚染されたままでは漏出事故などが心配だ。いずれ保管場所も足りなくなる。まずは、試運転中の汚染除去装置を完成させ、安全に「水」を保管できるようにしたい。さらに、安全なレベルにまで処理した水については、海洋に放出する必要性も生じよう。今後の重要な検討課題である。」
一読したときは目を疑いました。東電の広報のような主張だからです。なぜアルプスの稼働で「安全なレベルにまで処理できた」水ができると言うのでしょうか。この社説はそうした検証をまったくとばして、東電の主観的シナリオに沿った主張を展開しています。あまりのひどさに唖然とします。なお全文のアドレスを記しておきます。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130513-OYT1T01392.htm

この読売新聞の社説を読むと、アルプスによる「除去」の後の汚染水の海洋投棄は、東電だけでなく、政府や原子力村が狙っている既定の方針なのではないかという強い疑惑が持ち上がってきます。それでなければこのような社説が出てくるわけがないと思えるからです。
そもそも読売新聞が、かつてアメリカの強い意を受けた中曽根康弘氏と結合し、日本に原子力発電を持ち込むことに暗躍してきたことなどから考えても、この社説からは、東電だけでなく原子力推進勢力が、事故処理の大きな暗礁である汚染水問題のクリアを、もっとも安易な海洋投棄ですり抜けようとしている意志が見えてくるように思えます。

しかし先にも述べたように、このような体制のもとでの海洋投棄であれば、放射性核種のどれだけが除去されるのか、まったく保証が得られません。さらにトリチウムは、危険性が非常に低く見積もられたまま、膨大に捨てられてしまいます。
そうなれば海の死滅の度合いは今後、どんどん拡大することになります。なぜか。汚染水はこれから何年も何年も出続けるからです。炉内を冷やし続ける限りです。せっかく今はまだ、炉内ないし汚染水の中に残っている放射性物質の多くが海に投げ込まれてしまうことになります。ものすごい規模の汚染が、これからさらに重ねられようとしているのです。

しかもそうなった場合、汚染物質はさまざまな形で私たちのもとに帰ってきます。水分子の中に入り込んだ水素としてのトリチウムは、海上から蒸発した水蒸気の中に入り込み、雲になって流れてきて、雨になって地上に帰ってくるでしょう。そうなればトリチウムの雨が降ることになります。
また海の中のあらゆる生物の中にトリチウムは容易に入り込むので、海産物の中にどんどん混入していき、食べ物のとなって私たちのもとに帰ってくるでしょう。危険性を感じて食べない人も増えるかもしれませんが、圧倒的多数の人は海産物を食べ続けます。そうしてたくさんの人々が被曝してしまいます。その影響たるや本当に恐ろしいものがあります。

この汚染水の海洋投棄の危険性をどうか多くの人に伝えてください。そうして東電の一挙手一投足を監視し、危険な海洋投棄に反対していきましょう。
たとえすでにどれほど海が汚染されてしまっているのだとしても、これ以上の汚染を私たちは食い止めなければなりません。それは私たちの未来世代への義務だと僕は思うのです。

なお関連記事として以下をご参照ください。

明日に向けて(654)福島原発汚染水漏れを考察する・・・露顕したのは杜撰さとストロンチウム隠し?
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/c18da52e4f5ddcfccf7c6cade582d565

明日に向けて(655)福島原発汚染水漏れの考察(2)・・・問われるのは現場の杜撰さに主体的に向き合うこと
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4cad4aaaa9a0ffb8db24e05757d81e98

明日に向けて(656)福島原発汚染水漏れの考察(3)・・・隠されているトリチウムの危険性
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/c1ef074e7ca5e48e988bb5d3dbf3418e


 

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明日に向けて(678)「慰安婦と兵隊」に寄せて

2013年05月17日 22時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130517 22:00)

東京新聞のコラム「筆洗」に胸をうつ文章が掲載されました。陸軍衛生兵として、旧満州の慰安所に薬を配って歩いた河上政治さんの「慰安婦と兵隊」という詩に関するものです。まずは全文をご紹介します。

*****

筆洗
東京新聞 2013年5月16日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2013051602000135.html

<黒竜江に近い駐屯地に/遅い春が来たころ/毛虱(けじらみ)駆除の指導で慰安所に出向いた><オンドルにアンペラを敷いた部屋は/独房のように飾り気が無く/洗浄の洗面器とバニシングクリームが/辛(つら)い営みを語っていた>
▼陸軍の衛生兵として、旧満州の慰安所で薬を配って歩いた経験を基にした河上政治さん(92)の「慰安婦と兵隊」という詩である。十数年前に読み強く心に残った。続きを紹介したい
▼<いのちを産む聖なるからだに/ひとときの安らぎを求めた天皇の兵隊は/それから間もなく貨物船に詰め込まれ/家畜のように運ばれ/フィリッピンで飢えて死んだ>
▼<水銀軟膏(なんこう)を手渡して去るぼくの背に/娘の唄(うた)う歌が追いかけてきた>。女性の出身地は分からない。薬を届けて帰ろうとした河上さんの耳に、彼女が口ずさんでいる歌が飛び込んできたのだろう
▼<わたしのこころは べんじょのぞうり/きたないあしで ふんでゆく/おまえもおなじ おりぐらし/いきてかえれる あてもなく/どんなきもちで かようのか/おまえのこころは いたくはないか>
▼性の営みという最も私的な領域まで管理、利用されるのが戦争だ。「慰安婦制度は必要だった」と明快に言い切る政治家には、兵士を派遣する立場の視点しかない。自らが一兵士として列に並び、妻や娘が慰安婦になる姿など想像できないのだろう。

*****

この詩とコラムを読んで、僕の頭の中に、これまで会ったたくさんのおばあさんたちの顔が浮かんできました。薬を渡して去る河上さんの背中を追いかけた「娘の唄」は、あるいはあのおばあさんの唄だったのかもしれません。
このような証言がたくさんあり、何より被害者当人が、非常に大きな社会的制約をはねのけて繰り返し証言を行っているのに、「強制連行の証拠がない」などとうそぶく神経は、いったいぜんたい、人間の血が通ったものだと言えるでしょうか。

多くの女性たち、しかも処女だった幼い少女たちは、騙されたり、さらわれたりして慰安所に送り込まれました。何より当人のたくさんの証言があるのです。性暴力犯罪において、被害者当人の証言はもっとも有力な証拠です。
しかもそれを裏付けるこのような軍人の側の証言もたくさんあります。それでもなお「強制はなかった」と言い続け、しかも「何も日本だけがやったことではない!」と居直るあり方を本当にここで正したいです。

同時に、この詩の中にはとても大切な一節があります。
<いのちを産む聖なるからだに/ひとときの安らぎを求めた天皇の兵隊は/それから間もなく貨物船に詰め込まれ/家畜のように運ばれ/フィリッピンで飢えて死んだ>
というところです。みなさん、この意味がわかるでしょうか。ぜひ知っていただきたいです。

日米戦争の末期、1944年秋に日本軍はフィリピンで米軍との最後の決戦を行いました。日本軍が当時、アメリカが植民地にしていたフィリピンを占領していました。これに対してマッカーサーの指揮のもと、「奪還」作戦が行われました。
これに対して日本軍は、陸軍の兵力の多くをフィリピンに集結。旧満州にいた兵士たちの多くを、急遽、この地に送り込んだのです。海軍も生き残っていた軍艦の多くをフィリピンへと集結させました。

かくして行われたのが、レイテ島をめぐる決戦でした。レイテ沖でも激しい戦いが繰り広げられていきました。1944年秋のことです。
それで決戦はどうなったのかというと、基本的にはアメリカの圧勝でした。なぜか。そもそも日本軍の作戦指揮がめちゃくちゃだったからです。

というのは日米両軍は、レイテ島決戦も直前に「台湾沖航空戦」と呼ばれる戦いを行っていました。日米両軍の航空勢力が洋上で激突した戦いです。このときも撃墜された日本軍の飛行機が312機だったことに対して、アメリカ軍は89機であり、アメリカの方がはるかに優勢でした。
しかし海上を偵察した日本軍機が、戦果をかなり誤って把握し、大本営に伝えてしまいます。なんと「空母19隻、戦艦4隻、巡洋艦7隻、(駆逐艦、巡洋艦を含む)艦種不明15隻撃沈・撃破」というものです。実際には、大破、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、小破、正規空母1隻という軽微なものでしかなかったにもかかわらずです。

この報告を大本営はまるまる信じてしまい、レイテ決戦の作戦を考案していきます。まずアメリカの太平洋艦隊における航空戦力が壊滅したと考えたために、レイテ島などでの陣地構築に、空襲への備えをしませんでした。
しかも刻々とアメリカ艦隊がフィリピンへと迫っていることに対しても、「アメリカは航空戦力を失って絶望し、やけのやんぱちで玉砕戦に打って出ている」などと分析していました。当時の日本軍はあまりに現実を冷徹に把握する精神にかけていたのです。やけのやんぱちで玉砕を行うなうなど日本軍だけだということも理解していませんでした。

この決戦に向けて、日本はここでアメリカに優位に立つのだとばかりに兵力の大増強を行い、中国大陸で展開していた部隊の多くを、急遽、南方へと送り込むことになったのですが、その際の移動もむちゃくちゃでした。
というのは旧満州は冬は極寒の地域であり、兵士たちは寒さに耐える軍装をしていました。ところが新たに軍装を整える余裕などなかった日本軍は、兵士たちをそのまま常夏のフィリピンへと送り込んだのです。

しかも現実には航空機や潜水艦などによって、フィリピン周辺の制海権も制空権もアメリカに握られているのに、日本軍は次々とその海域に兵員輸送船を送り込んでしまいました。そのため多くの船がフィリピンにつく前に撃沈され、海の藻屑となってしまいました。
そればかりか、兵員輸送船の後ろに続く武器・弾薬・食料を乗せた船が撃沈されてしまったため、ある師団などはおよそ1万人の兵士たちがそれぞれ持っている三八歩兵銃と弾丸だけでフィリピンの島に上陸。いきなり食料もない状態で投げ出されてしまったため、部隊はすぐさま強盗集団と化し、現地の人々を襲って食料を強奪しました。

・・・僕はフィリピンから性奴隷被害を受けたおばあさんを京都に呼んだときに、この地域の戦闘に加わった旧日本軍兵士のおじいさんにも聞き取りを行ったことがあります。レイテ島に派遣されましたが、決戦を前に近くのマスバテ島に大隊を離れて派遣されたために生き残った方です。
おじいさんは戦後、十数回もフィリピンを訪れ、戦友たちの部隊が「玉砕」した地域にいって遺骨収集をされました。そのとき地元の人たちが拾い集めていた日本軍の遺品の多くを、タバコなどと交換して持ち帰っていました。

それらを見せられたとき、僕は絶句するものがありました。中でも忘れられないのは、綿入りの防寒帽がフィリピンのジャングルから持ちかえられていたことでした。「これを被っていた兵士は、どんな思いでフィリピンのジャングルに立ったのだろう」・・・。そう思うと胸が痛くなりました。
まさに兵士たちは、この地域に「貨物船に詰め込まれ、家畜のように運ばれ」たのでした。この帽子はその苦しみを、僕に訴えかけているように思えました。

おじいさんからは、ジャングルの中での飢えの話もたくさん聞きました。死んだ兵士の肉を食べた話も。そのときおじいさんはこう言いました。「死んで3日経ったらな、食ったらあかんねん。腐るからな。それを知らんと腐った肉を食って、ようけい死んだやつがおったわ」・・・。
そうです。まさに日本軍兵士たちは、ジャングルの中で飢えて死んだのです。しかも仲間の死体からもぎ取った肉を食べ、その肉にあたったりしながら。熱いジャングルの中、綿入りの服を来て、苦しんで、苦しんで、挙句の果てに誰知ることもなく死んでいったのです。

フィリピンに派遣された全軍が悲惨でしたが、戦闘が始まるや否や、またたく間に壊滅したのは、レイテ島の上陸地点に布陣した京都第16師団でした。南京虐殺などにも加わり、大陸で散々、暴れまわってからフィリピンに送られた部隊です。
先にも述べたように、アメリカ軍に航空戦力がないととんでもない誤解をしていた部隊は、米軍の上陸地点の海岸にたくさんの「蛸壺」を掘り、その中に入って布陣していました。そこに集中的な空襲と艦砲射撃が行われました。ほとんど「戦闘」ではなく一方的なでした。

部隊は瞬時に壊滅し、遺された兵士たちが、海岸のすぐ裏手のジャングルに逃げ込んで行きましたが、そこはまさに生き地獄だったと言います。何せ食料など何もない。しかも負傷した上に空から追撃が加えられる。兵士たちはバタバタと倒れていきました。
その戦友の肉をもぎ取りながら逃げた兵士たちもその先でバタバタと倒れていきました。かくして他の地域から援軍にきた部隊によって、この山中は「白骨街道」と呼ばれることになりました。

僕はここに投入された兵士たちが気の毒でなりません。人間としてあまりにも悲しい死に方をしたのがこの方たちでした。僕は第16師団を構成した京都府や滋賀県が発している戦史をたくさん読み、できるだけ多くの兵士たちの名前に接しようとしました。
「兵士たち」ではなく、滋賀県どこそこ村の、誰それさんと認識することが、せめてもの弔いではないかと思ったからです。

しかし同時に、見つめておかねばならないのは、こうした兵士たちの多くが、旧満州で慰安所に通っていたことです。これまでも述べてきましたが、慰安所に通い、女性を虐待することで、彼らは自分たちが虐待されること、まったくむなしい死を強制されることに麻痺し、受け入れてしまった。それが多くの日本軍兵士の実情だったのです。
しかもフィリピンに行ってからの部隊はもっと酷いことをしました。フィリピンの村々を襲い、若い女性たちを強奪し、強姦を繰り返したのです。

僕たちがフィリピンからお呼びしたロラたち(フィリピンの言葉でおばあさん)も、そうして日本軍に捕まった方たちでした。彼女たちは目の前で親や兄弟を殺され、軍に連れ去られました。ロープで縛られ、数珠つなぎにされて、戦地を移動する部隊に連れまわされたのでした。
したがって、性奴隷となった女性たちは、日本軍が展開しているどんな最前線にもいました。そうして彼女たちの多くもまたアメリカ軍の猛攻撃によって、兵士たちと共にされてしまいました。

繰り返しますが、旧日本軍は、構造的な虐待組織でした。兵士たちは常にいたぶられ、弄ばれました。性的ないじめもたくさん行われました。しかし日本軍には「上官の命令は、天皇陛下の命令である」という鉄の掟を持っていたため、なおさら兵士たちは、抗うことができませんでした。
上官に抗弁することは天皇に逆らうことだとされ、殴り倒されたからです。いやそもそも上官の機嫌が悪いだけで、兵士たちは理由もなく殴られました。毎日、殴られて、殴られて、食料も満足に与えられず、戦闘指揮はむちゃくちゃ。そのような状態の中で、女性を心に澱のようにたまったストレスの、唯一のはけ口として「与えられた」のです。
こうした日本軍に特有の構造を、「軍隊と売春はつきもの」などと語ることは絶対に許されません。日本軍の作り出した「慰安婦制度」は、まさに日本軍の構造的虐待体質の中でこそ、もっとも野蛮で、非人間的なものとして成立したのです。

そのために、まさにそのために、戦後、生き残った兵士たちから、国を告発する運動が起きませんでした。あれほど酷い虐待にあったというのに、兵士たちのほとんどは沈黙してしまいました。
米軍に囚われたキャンプなどで、上官をリンチするなどのことはたくさんあったようですが、そうして私的に鬱憤をはらずだけで、公的に、日本軍による兵士への残虐な仕打ちを正す運動は起きなかったのです。それは兵士たちが、自ら侵略の尖兵となり、酷い虐殺に手を染めたことや、構造的なレイプに関わったことを、ほとんど捉え返すことができなかったからでした。

常々、僕は思うのですが、靖国神社を持ち上げ、「英霊が」などと口にする人々のどれだけが、本当に兵たちのことを考えているというのでしょうか。まったく考えてなどいないと思うのです。考えていたのなら、なぜ彼らへのこのひどい仕打ちを明らかにしようとしてこなかったのか。
兵士たちのあまりにかわいそうなあり方、むなしい死の現実を解き明かすものなど、靖国を顕揚する人々には皆無です。それよりよほど平和運動をしてきた人々の方が、兵士たちのことを考え、同情し、同時に彼らの罪を背負おうとしてきたと思うのです。「英霊」なんて嘘をつくな!彼らの死を弄んでいるだけではないかと僕は強く思います。

こうした姿の一旦に触れてみようと思われる方は、自ら南方に赴いて死地を脱してきた漫画家、水木しげるさんの『総員玉砕せよ』を読んでみてください。9割が事実と書かれたこの漫画から、当時の兵たちの姿が見えてきます。なおこの漫画の冒頭は慰安所のシーンで始まっています。
水木さんは、あとがきでこう記しています。「軍隊で兵隊と靴下は消耗品といわれ、兵隊は”猫”位にしか考えられていないのです」「将校、下士官、馬、兵隊といわれる順位の軍隊で兵隊というものは”人間”ではなく馬以下の生物と思われていてた」・・・。

そんな兵士たちに軍が「休ませてあげよう」などという配慮をしたでしょうか。兵士たちを休ませるのなら、まず何よりも虐待をやめればよかった。「猫」や「馬以下」として扱わず、人間として扱うべきでした。それだけでどれほど心がトゲトゲせずにすんだことでしょう。
水木さんはこうも書いています。「ぼくは戦記物をかくとわけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がない。多分戦死者の霊がそうさせるのではないかと思う」・・・。

ここまで書けば橋下維新の会共同代表が語った、「銃弾が雨・嵐のごとく飛びかう中で命かけてそこを走っていくときに、休息をさせてあげようと思うと慰安婦制度が必要なのは誰だってわかるわけです」という性暴力発言の非人道性もより明らかになってくると思います。
この発言は、第一に女性を男性の性のはけ口に使用すること、女性を蹂躙することを肯定するまったく許しがたいものです。第二に男性が命がけになると女性への性暴力を必要とすると考える男性の尊厳への冒涜です。そして第三に、当時の日本軍のことを何も知らず、調べたこともないくせに、「日本人は歴史を学ぶべきだ」などと語っている点でもあやまりであり、兵士たちの死を冒涜するものでしかないのです。

橋下氏は戦争の現実、兵士たちの現実を何も考えていない。その死を悼む気持ちもない。国を守るつもりで侵略戦争の尖兵にされてしまった悲しみへの追慕もない。ようするに兵士たちのことなど何も考えていやしないのです。
さらにそもそもアメリカの暴力性を批判する気があるのなら、どうしてまごうことなき戦争犯罪である原爆投下、都市空襲、沖縄地上戦をこそ批判してこなかったのでしょうか。南京虐殺や「慰安婦制度」と並ぶ最も許しがたい戦争犯罪には一切触れず、「自分たちと同じ悪さをお前もしたじゃないか」と叱られた子どもの居直りのような発言をする橋下氏には、アメリカ批判を貫く確信もないのです。

こういう橋下氏のような人たちが語る「国のため」だとか「国防」だとかは、戦前の軍部が語るそれと同じものでしかありません。ようするに自分たちの利益のためだけであって、「同朋」への愛情などまったくないのです。都合が悪ければすぐに投げ出すようなものでしかない。
その証拠が「鬼畜米英壊滅」と叫んでいたこの国の指導者の過半が、戦後にすぐさまアメリカべったりの立場に転換したことです。「米英からの亜細亜解放」などと叫びながら、戦後、朝鮮戦争やベトナム戦争など、アメリカのアジア侵略戦争に積極的に加担してきたのがこの国の支配的な人々でした。中曽根元首相などもその典型です。

彼らの大好きなはずの「祖国」に原爆が投下されたことを一切問わず、核兵器開発の申し子である原子力発電を受け入れてきた現実に象徴されるこの国の構造的暴力の歴史をこそ正さねばなりません。
「慰安所」を訪れた一軍医の書いた詩、「慰安所と兵隊」の中にこもる悲しさは、そうしたことを私たちに問うていると僕には思えるのです。

 

 

 

 

 

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