守田です。(20121123 18:00)
明日に向けて(582)で紹介したグアテマラ・マヤ女性によるスピーキングツアーはまだ続けられています!
直前のお知らせになってしまって恐縮ですが、今日は午後6時半より、福岡市の「ふくふくプラザ502号室」で行われます。さらに25日午後1時より、久留米市男女平等推進センターで最後の会が行われます。
お近くの方、ぜひお越しください。情報を記しておきます。
■11月23日(金) ふくふくプラザ502号室(福岡)18:30~
足立(080-5259-1558)
■11月25日(日) 久留米市男女平等推進センター(久留米)13:00~
浅野(090-8666-8857)
http://recomblog.blog92.fc2.com/
さて、(582)で京都での講演内容を文字起こししてお送りしましたが、今日はこのときの講演に関するコメントと、質疑応答の内容をお伝えします。
まず今回、アリシアさんのお話を聞いて非常に強く感じたことは、グアテマラ・マヤの被害女性たちと、僕が出会ってきた日本軍性奴隷問題の被害女性たちの語ることが驚くほど、似ていることでした。
どう似ているのかというと、一つには性暴力を加えられたことが心の中の深い傷になっており、その傷が癒えるのに長い過程が必要であること。それらが被害を受けたことをカムアウトすることから始まっていることです。
この点でぜひ多くの方に知ってほしいのは性暴力は、けして直接にそれを振るった男性だけによって振るわれているのではなく、社会化された構造の中で振るわれているということです。これは暴力の多くにつながることだと思います。
そのため、グアテマラだけのことではなく、被害を受けた女性たちは、被害を受けたこと事態が、その女性たちの落ち度であると捉えられたり、より酷い場合には、被害を受けたのではなく、金銭が目的で、自ら売春をしたのだろうなどという悪罵を受けることすらあります。
これらを社会による二度目のレイプ=セカンドレイプと呼びますが、こうした社会の仕打ちが女性たちの心を本当に深く傷つけます。直接的な暴力によってひどく傷つけられた心身が、さらに社会によって痛めつけられるのです。
こうした場合に特徴的なことは、社会が被害者ばかりを責めて、肝心の加害者の暴力を責めず、積極的に裁こうとしないことです。つまり性暴力が社会によって容認され続けるのです。
実は「売春」に関してもそうです。売春は必ず買春とセットでしか成立しないのに、買春をする側(=多くの場合は男性)は裁かれもしなければ批判もされません。それなのに売春した女性には法的罰が加えられたり、酷い「蔑み」の言葉が投げかけられたりします。これも社会の容認によって構造化された性暴力の一つです。
被害女性の多くは、被害体験の記憶とともに、こうした社会の仕打ちが心の中に入り込んでしまい、自らを責めたり、あるいは自らがが汚れているように感じたりして、さらに苦しみ続けます。アリシアさんのお話の中にも、被害女性が「悪夢を見る」というくだりがありましたが、本当に地獄のような苦しみだと思います。
ではどうやってその苦しみから解き放たれることができるのか。まず大事なのは、女性たちの周りから「あなたは何も悪くない。悪いのは加害者だ」という力強いサポートを与え、傷んだ心を包むことです。そしてその中で、被害女性が自らの体験を語り、押し込めてきたエネルギーを表出できたとき、心の癒しが始まります。
グアテマラではそのために、アートセラピーを行ってきたことが報告されていましたが、台湾でも似たようなセラピーが重ねられてきました。被害女性たちが絵を描いたり、物を作ったりする中で、自分の中に溜め込んできたものを表現していく。その過程で、心が解き放たれていくのです。それで自分への愛を取り戻していく。自分が汚れてなどいないことに気がついていきます。
こうした過程には時間がかかるし、けして被害女性のすべてが、解放にいたっていけるわけではありません。何よりも社会の壁が厚く存在しており、それに再度、傷つけられるてしまうことがたびたびあります。そうして繰り返し手ひどく叩き潰されてきて、もう自分の可能性を感じれない女性もいる。
日本軍性奴隷問題で言えば、数十万人はいると見積もられた被害女性の中で、カムアウトにまで漕ぎ着けたのはわずかに数百人、つまり0.1%かそれにも満たない数なのです。ほとんどの女性は、心身の苦しみを抱いたまま生き続けてきました。その多くがすでに亡くなられていると思いますが、今なお、苦しみを抱えたままの女性もたくさんいるはずです。
そのために、社会が変わらない中で、自らが変わっていける女性たち、沈黙を破って、前に歩めるのは、勇気ある女性たちばかりです。いや、沈黙を破る過程で、勇気をつかみとった女性たちであるとも言える。だからそういう女性たちは共通の輝きを持っています。
アリシアさんも、被害女性たちに寄り添いながら、繰り返し被害女性たちに勇気をもらったと語っていますが、それは本当によく分かります。苦しみを突き破って、語り出した女性たち、己を解放した女性たちのエネルギーは本当に凄いし素晴らしい。僕も繰り返しそれを感じ、励まされてきました。
とくにそこから問題の社会的解決へと立ちがある女性たちは、己の恨み(抱いて当然のものですが)を突き抜け、人間愛に基づいて行動している場合がほとんどです。そして共通に出てくるのは、「二度と若い人達がこういう経験をしてはいけない」という言葉です。若者のために、未来のために彼女たちは歩みを強めていく。
その姿を見ると、人間とは、こんなに酷い仕打ちを人と社会から受けてもなお、こんなにも人を愛せるものなのかと驚嘆させられてしまいます。人間の勇気、可能性を強く感じさせてくれるのです。そしてそれがサポートしている側の心も洗ってくれます。サポートに関わって良かったと必ず思わされてしまいます。
そうした点で、グアテマラ・マヤの女性たちと、僕が見てきた日本軍性奴隷問題の被害女性たちは本当に似ていました。同じような深い人間愛を感じさせてくれました。僕が多くのみなさんにこの問題に関わって欲しいと思うのはこんなときです。もちろん第一には被害女性の救済のためなのですが、それは必ず私たちの中の何かをも救済してくれるのです。
アリシアさんの言葉から、ぜひそうしたグアテマラ・マヤの女性たちの誇り高き勇気をつかみとって欲しいと思います。
第二に非常に重要なのは、この問題を男性がどう捉えたら良いのかということです。僕が述べたい核心はよりこちらの方にありますが、すでに記事が長くなってしまったので、今回はこれぐらいできり、この点は次回に述べたいと思います。
最後に、京都集会での質疑応答を記しておきます。再度、アリシアさんの言葉を味わってください。
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京都集会におけるアリシアさんへの質疑応答より
20121115
問 被害女性にあうときに一番大切にされていることは何ですか?
どのように接するかが大事です。まず自分のことを話す。なんの目的でこういうことをしているのかをです。それで時間をかけて相手が話す気になるのを待ちます。大事なのはどんなに辛い話を聞いているときでもこちらが泣かないことです。これが鉄則です。そして相手が泣き終わるのを待ちます。
聞いた自分も辛い思いをするのですが、それを吐き出すのは他の場所でです。被害女性に一生懸命に聞いているのを分かってもらうこと。聞いている私にとっても非常に重要だということを感じてもらうことが肝心です。
問 長年、女性たちを支えてきて、マヤの知恵を感じたことはありますか。また一番感動したこと、くじけそうになったときのことを教えてください。
最初の数年の活動は、家族の遺体がどこにあるかもわからない遺族ががいるので、一緒に遺体を探し出して、発掘して、埋葬する手伝いをしていました。どこにあるか分かりますようにと、マヤの儀式をしました。創造主から力をもらうために祈りしました。そうした習慣はとても大事です。祖母が言っていたことですが、人は役割をもってうまれてくる。そのエネルギーを持っている。私もそう思います。
嬉しかったのは、勇気ある女性たちに寄り添ってこれたことです。いつも女性たちから力をもらってきました。苦しかったのは、同じ暴力の被害者でありながら、「何もできない、変わらない」という人もいることです。そういう人にかかわるとガッカリします。しかしこのプロジェクトに参加している人たちに接して、大きなエネルギーをもらい続けています。
問 新たな告発を行っているとのことですが、村の中に加害の男性が住む状況もあるのではないですか。そのような中で、どのように女性を守っているのでしょうか。村のリーダーや男性たちの反応はどうですか。
多くの村で加害者の人が近くに暮らしています。軍が作った自警団に男性が組み込まれて、人権侵害を犯しました。そういう人たちがまだ近隣にいます。だからこそ、安全のためのネットワークが非常に重要で、村のリーダーの協力が欠かせません。性暴力の問題だけでなく、人権問題全般に関わるネットワークを作ってきました。それが女性を守ることになります。
女性たちへの脅迫、家族への脅迫にすぐ対応できるように、何かあったときにどうするかを話し合っています。必要があれば、すぐにかくまえるようにしています。
内戦がおわってしばらくたち、状況は変わってきています。グアテマラはまだまだ暴力的な社会であり、この状況で裁判をするのは難しい面がありますが、国際社会の目もあり、国内での連携も広がってています。その中で女性たちを守っていけます。
女性たちももう怖くないといっています。自警団の中にも、強制されていた人たちのいることを女性たちは理解しています。この他、若者たちに意識をもってもらうことが非常に重要で、それを続けています。たくさんの仲間をつくってネットワークを広げて対応していきます。
男性の反応ですが、まだまだ男性中心社会で、性暴力に対してもひどい反応があります。加害者ではなく、被害女性が攻撃されます。女性たちも自分が汚れた存在だと感じてしまいます。社会は女性に強姦されないようにとはいいますが、男性に対して強姦をしないようにという教育は行っていません。
9月に女性たちが証言したときのマスメディアの対応は、支援と非難が半々でした。マスメディアでも取り上げられました。半分は彼女たちを支援していました。しかし残りの半分からは、女性たちが金のために性を売っただとか、誹謗中傷がなされました。
証言が終わった後に女性たちが住んでいるところに訪問しましたが、村の中ではうわさはありましたが、女性たちに脅迫とかはありません。しかし性暴力の被害者である女性が責められる状態を変えるのはまだまだ難しいです。
京都集会の報告はここまで
記事は続きます・・・。