守田です。(20140129 09:30)
福島4号機からの燃料棒(燃料集合体)取り出し問題の続きです。
前回は4号機プールがいかに危険な状態にあるかに焦点をあてましたが、今回は取り出し作業にまつわる困難性と、他の原子炉の燃料プールのことを論じたいと思います。
危険な4号機プールからの燃料集合体の取り出しが、なぜ2年以上も経って始められたのかですが、一番大きな要因は、もともと燃料交換に使うクレーンのあったオペレーションルームが爆発でなくなってしまったことです。
東電はそのため、4号機の壊れたプール上部を撤去したのち、その上に覆いかぶさるさらに巨大な建屋を作って、新たなクレーンを設置しました。その作業に昨年の秋までかかりました。
さらに燃料プールの中にも無数のがれきが落ち込んでしまっているため、その撤去にも時間がかかりました。がれきは燃料集合体を引き上げる際に、集合体とそれを収めてあるラックの隙間に入り込んでしまい、燃料集合体を引き抜けなくさせる可能性があるからため、細かいものの撤去も必要でした。
これらの作業を終えたのちに、ようやく引き抜き作業が始まりましたが、昨年11月18日から本年1月27日まで、行われたのはわずかに10回。ここまで71日かかっていますから、1回あたりの平均日数として7日かかっていることになります。
なぜゆっくりと作業が行われているのか。一番のポイントは、前にも述べたように燃料棒は空気中に出ると高線量の放射線を発して周辺の作業員を即死させてしまうため、万が一にも水から出ないように慎重に作業を進めないといけないからです。
またがれきもすべてを撤去できたとは言えず、細かく、隙間に入り込みやすいものほど取り除けていません。そのため引き上げ最中に燃料集合体がラックにひっかかってしまう可能性は今も残っており、このためにも作業をゆっくりと進める必要があります。
取り出しと移送そのものも、まずはキャスクと呼ばれる鋼鉄と鉛でできた容器をプールの中に沈め、水の中で燃料集合体をキ入れたのちにプールから取り出し、ふたを閉めて地上に降ろして専用トラクターに積載、地上の共用プールに運ぶという工程を経ています。
これらの一つ一つも慎重に行わなければならないため、1回あたりの取り出しと搬送に7日間がかかっているのです。
作業はこのまま順調に行くのでしょうか。心からそう願いたいですが、東電も燃料集合体にがれきがひっかかるリスクがなおあることを明らかにしています。
しかしリスクはもっとたくさんあります。そもそもがれきがたくさん落下したプール内の燃料集合体が破損したり変形していないかです。思った通りに抜けなかったり、キャスクの中に納まらない可能性が考えられます。
また作業時に繰り返される余震が重なった時もハイリスクです。地震の揺れによって燃料集合体がラックにひっかかったり破損してしまう可能性もある。
もっと危険視されているのが、燃料集合体で満杯になったキャスクを吊り上げて、トラクターに降ろす時に地震に見舞われること。東電はクレーンを二重にしてあるので大丈夫だと言っていますが、東電の「大丈夫」はまったく信用がおけません。
元東芝の格納容器設計士、後藤政志さんはキャスクがもっとも高い地点である30数メートルからの落下に耐えうる保障(実験データ)がないことを問題として指摘しています。
これまでの試験では10数メートルの落下に耐えうることしか確認されておらず、作業のあり方として問題だと言うのです。まずは落下に耐えうることを実証してから行うべきだということです。
万が一、キャスクが落下し、破損した場合はどうなるか。22体もの燃料集合体が大気中に飛び出してきてしまい、すぐに高熱を発しだして、現場に近寄れなくなってしまいます。最悪の場合、そのまま4号機への対応が不可能になる可能性があります。
燃料集合体は残りは1313体。22体ずつ入れていくとして、あと60回はこの作業が必要になります。その長い間、地震がまったくないとは考えられません。非常に危険な状態が続くのです。
ではこの1313体の燃料の取り出しが仮にうまくいけば、私たちの直面している危機は去るのでしょうか。そうではありません。続いて1号機から3号機のプールからも燃料を取り出さねばなりません。
4号機は1号機から3号機に比較すると放射線値が低く、被曝をしながらですが作業員がプールにまで近づくことができます。ところが炉心の核燃料がメルトダウンしている1号機から3号機は建屋の中に入ることすらできないのです。
この1号機のプールに392体、2号機プールに615体、3号機プールに566体の燃料集合体が収まったままです。合計では4号機のプールに当初あった1535体を超える1573体がまだ取り出しを待っている状態なのです。
1号機も3号機も大きな爆発を起こしています。とくに3号機は火花と黒煙をあげ、構造物を空高く舞い上がらせる、規模の大きな爆発を起こしました。即発臨界爆発の可能性が考えられていますが、建屋へのダメージは計り知れません。しかも放射線値が高すぎて、補強工事も容易にできない状態です。
問題はまだあります。実は震災前から1号機の中に70体もの破損した燃料体が沈められたままになっていたというのです。取り出しを開始した4号機にも3体、2号機に3体、3号機に4体、合計80体がもともと破損していたといいます。
1号機ではプール内にある使用済み燃料292体の4分の1に相当する量ですが、当然にもこれらの取り出しには相当な困難が予想されます。それをメルトダウンした核燃料の発するものすごい値の放射線に晒されながら行わなければなりません。当然にも遠隔操作になるでしょうが、果たしてそんな技術はあるのでしょうか。
さらにこれらの作業を終えて、プールからすべての燃料を取り出せても、取りあえず移す先はこれまた水をはった共用プールです。ここには震災以前から6375体もの燃料集合体が集められています。大変な数です。ここもけして安全と言える状態ではなく、いずれ水を必要としない封じ込めに移していく必要があります。
そしてこれらプールの問題をすべてクリアしても、なおかつ1号機から3号機の下部には、メルトダウンした核燃料が残っているのです。これの撤去、ないし完全な封じ込めまで、安全の確保はなされないのです。
本当にもの凄く長い時間、私たちは危険と向かい合い続けなくてはなりません。それが厳然たる事実です。技術的に未知な世界もたくさんあります。また、今、把握できていない問題もたくさんありえます。しかしこれらに「失敗を通じて学ぶ」という技術発展の常識の通用しない世界で、パーフェクトに対応していかなければならないのです。
これらをきちんと見据えるならば、どこかで失敗が起こる可能性を想定しない方が非常識であることは誰にも分かることだと思います。だからこそ、繰り返し述べてきているように、燃料抜き取り作業は、広域の避難態勢の確立と、避難訓練の実施と並行でなされなければならないのです。
こうした社会的ムーブメントを作るためにも、ぜひ個人レベルで避難準備を始めてください。また各地の行政に、避難態勢の整備と避難訓練の実施を呼びかけてください。そのことで危機に向き合う緊張感を作り出すことこそが何よりも大切であり、かつ今できる具体的なことです。
またこのような危機を前に東京オリンピックなど論外であることも、繰り返し訴え続ける必要があります。そんな資金は、当然にもすべて福島原発サイトと原発事故被災者への補償ないし支援に振り向けるべきです。
福島4号機プールからの燃料取り出しをめぐる情報も、このように私たちのなすべきことにつなげる形で読み解くべきだと僕は思います。以上を踏まえ、4号機のウォッチを続けます。
連載終わり