守田です。(20141220 12:00)
選挙の捉え返しの最終回です。
前回は今回の選挙で安倍政権が民意を得たわけではないことを親安倍派、反安倍派のオピニオンから紹介しましたが、今回はもう少し細かい分析を試みたいと思います。
すでに繰り返し述べているように今回の議席は民意を反映したものではありませんが、しかしその議席の上でも安倍首相の主張の後退を見ることができます。
この点を分析しているのは東京新聞です。以下、記事のアドレスを紹介し、少し引用してみます。
首相は「公約支持」というが 議席数 「改憲」減 「脱原発」増
2014年12月16日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014121602000122.html
「九条改憲に積極的な自民党と次世代の党を合わせた議席は、公示前は衆院での改憲発議に必要な定数の三分の二に迫る三百十四あったが、二百九十二に減った。
九条改憲を公約には入れなかったが道州制導入など統治機構改革の改憲を位置づけた維新の党も含め、改憲に前向きな勢力は総じて後退した。
「原発再稼働をめぐっても、前回衆院選では超党派議員でつくる「原発ゼロの会」などに属した脱原発派の約百二十人の七割が落選・引退したが、今回は民主党などから九人が返り咲いて議席を得た。
脱原発を明確にする共産党も議席を八から二十一まで伸ばし、社民党も公示前を維持した。
再稼働で与党と歩調を合わせる次世代を除き、慎重・反対を唱える野党の勢力は公示前の百十九議席から百三十九議席に増えた。」
この記事において東京新聞は原発再稼働については改選前が慎重・反対派119対推進派345が、改選後は同139対327となったとしています。
慎重・反対派は「民主・維新・共産・生活・社民」、推進派が「自民・公明・次世代」です。ここでも極右政党「次世代」の没落が大きく影響していることが分かります。
9条改憲については改選前が慎重・反対派150対賛成派314が、改選後は同174対292となりました。
慎重・反対派は「公明・民主・維新・共産・生活・社民」、賛成派が「自民・次世代」です。
議席数で見ても安倍首相の野望が後退していることがはっきりと表れています。これだけ歪んだ選挙制度の中でもこうした成果を確認できることは喜ばしいことです。
安倍首相の極右政治を支える「次世代の党」が激減したことに対し、原発再稼働にも9条改憲にももっとも鮮明に反対を打ち出してきた共産党が8から21議席へと大幅に伸長したことがなんと言っても大きい。
東京新聞は共産党が比例区約600万票小選挙区約700万票と大幅な増加を実現したこと、小選挙区にいたっては230万票の増加だったことを記しています。低得票率を狙った安倍政権の劣悪な作戦に最も抗することができたのは共産党でした。他党はぜひ参考にすると良いと思います。
一方で東京新聞は触れていませんが、公明党もまた大きく票を伸ばし、議員数を微増させました。これは与党に投票している人々の内部で安倍政権の暴走に不安を感じる人々の票が公明党の比例票を押し上げたためと思われます。
今回の選挙では多くの方が「戦略的投票」を呼びかけ、自分が直接に支持しない政党でも、より悪い方向性を断ち切るための投票をしようと呼びかけましたが、そんな説得がここにも影響を与えたのかもしれません。
そうしたことの総体を含めて、私たちはこれら選挙の中でもみられる成果を、今回の選挙で安倍首相の暴走を止めようとして積極的に活動したすべての人のものとして確認してよいのではないでしょうか。
もう一つ、特筆すべきこととしてあるのは、安倍政権に沖縄の人々が最も強烈な反対の意志表明を突きつけたことです。
知事選につぐオール沖縄での勝利。これだけゆがんだ小選挙区ですべての反基地派候補が保革を越えた団結のもとに勝利したのですから本当に素晴らしいです。もちろんこれは本土から何度も沖縄に通って、身体をはって基地と対決し続けている全国の方の努力の結晶でもあります。
私たち本土の民衆勢力は沖縄のこの成果に大いに学ぶ必要があります。なんと言っても米日両政府による長年の分断支配を打ち破ったのが凄い。
さてこうなってくると今後の9条を守り、脱原発をめざす人々の本土での団結がより問われてくるわけですが、その際、政党と私たち民衆の関係性を捉え返しておく必要があります。
福島原発事故まで多くの人々が、政党や政治家が「政治のプロ」だと思っていたのではないでしょうか?いや官僚や科学者たちを含めて、その道のプロがたくさんいてこの国を公明正大に動かしてくれていると思っていた人が多かったと思います。
しかし事故後に、政治家も官僚も科学者も、その多くが特定利害集団の代弁者でしかなくて民衆の側には立っていないことが大きく露見してしまいました。だからこそ事故以降、民衆が一挙にものすごく行動的になったのでした。
デモや署名運動などの街頭行動だけではありません。何より民衆自身が科学を始めた。原発の構造的欠陥や放射能の危険性、自然エネルギーの可能性など、全国津々浦々で猛然たる学習が開始されました。僕もそこで学び、成長してきた一人です。
そうするとたちまち政治家たちのほとんどが実際には原発のことも放射能のこともよく分かってないことが見えてきました。いや学者ですら少しきちんと学べば論破できるようなひどい知識しか持っていないものすら多いことが見えてきた。御用学者ほどそうです。
「こんな人たちに政治を、行政を、科学を任せてきてしまったのか」という大いなる反省で人々が動き出しました。
実は僕はこのことは現代日本の「政党政治」の大きな限界を打ち破る大きなモメントになっていると思います。
なぜか。既存の多くの政党や政治家が実はさまざまな利害団体によって押し上げられたものでしかないのに、何か自分たちを代弁してくれ、代わりになって何かを実現してくれるかのような幻想を振りまいてきたからです。実はそのことで政党の側が民衆の行動力を抑え込んできた面すらあります。
私たち日本の民衆はこの幻想・呪縛から目覚めて飛躍しなければならない。私たちが議会に送りこむ議員は私たちの代弁者に過ぎないのです。主権者は私たちであり、実権をにぎるべき存在も私たちなのです。
この点からすると「野党間の連携」なども、政治家たちの「ボス交渉」によって成り立っている限りは、時流によっていつでもフラフラと変わってしまうに過ぎないものであることも、この間はっきりとしてきたと言えるのではないでしょうか。
では本当の連携とはどうやって成り立つのか。それぞれの政党、政治家の支持者同士が大きく連携しあったときにこそ成り立つのです。というより政治家が軸で支持者がいるのではなく、ある特定の政治主張をもった私たちがその代弁者として政治家をたてているのですから、その私たちが連携すれば、当然にも政治家たちはフラフラとは動けなくなるのです。
だからここでも大事なのは私たちの大衆的な行動なのです。政治家たちに「連携」を期待し、お願いするのではなく、私たちが「連携」のために動き、説得し、ときに「強制」すらするのです。
実際に沖縄はそうして今の地平まで歩んできました。長く苦しい反基地の取り組みが革新共闘を維持しながら連綿と貫かれてきた。行動する大衆がいて、その力の上にたつ政党があった。
その取り組みをいつもいつも横目で見ていた保守の方たちが、知事や沖縄選出の国会議員たちが自民党に押し切られて基地容認へと崩れていったことを見たときに、反基地の民衆的流れへの合流を開始したのでした。
こんなダイナミックなことは政治家同士のかけひきでは絶対に実現しません。なぜってそこにこもる熱量が違いすぎるからです。
これに対して選挙直前になっての突然の「連携」では有権者の側も戸惑い、必ずしも支持票を集めることに結果しないことも今回の選挙で明らかになったのではないでしょうか。
反与党候補が一本化されても、それまでのプロセスが支持者に共有されていなければ、支持者間の合意が形成されず、本当の意味での一本化にはなりにくく結果的に表も集まりません。
だからこそ大事なのは日ごろの活動です。私たち政党の外にいる民衆こそが、さまざまに戦略も違えば思惑も違う人々の合流を作り出すために奮闘していきましょう。
このことを踏まえて、私たちはますます行動的になり、積極的に各党の議員とも対話し、説得も行いましょう。
もちろん議員だけでなく知事やそれぞれの首長などにもアプローチをしましょう。その場合、どうしたらより説得的な内容を持ちうるかを考えましょう。
相手の立場を落とし込めることのない関わり方、批判はすることはあっても人間的尊重をきちんと表わす度量が私たちに求められています。
考えてみればこれらすべては私たちが政党政治をみてうんざりしてきたことを一つ一つ逆にして行くことです。
互いに「説得力」「包容力」について研究し、研鑽を重ねましょう。意見の違いを乗り越える力を身につけましょう。
いつの時代も支配の要は「分断」です。反対に言えば分断を乗り越える力を持つことが一番大事。それこそが民衆的権力の礎です。
ただしそのために僕は今回の選挙で重大な課題が抜けていたことを最後に強調しておきたいと思います。
何よりも今回は福島原発事故で飛び出した放射能の被害にどう取り組むのか。被曝医療をどうするのか。被災者支援をいかに進めるのかなど、この国にとって最も重大な事項がまったく争点化されませんでした。
同時にまだまだ事故の真の収束の目途がつかない福島原発の大きな危険性をもっと正面から見据えるべきこと、関東、東北を中心とした広域の避難訓練が実施されねばならないこともまったく問題にされませんでした。
この点が選挙に出馬したほとんどの候補者の訴えの中に入っていなかったのではないでしょうか。
しかしウクライナや「ベラルーシの今を見ても、これからの数年、数十年の私たちの国のあり方をもっとも規定するのは、たった今、いかに放射線防護を推し進めるかなのです。
今ここで公的に避難をひろげ、放射線防護基準を引き上げるかどうかで、将来の被害をより少なくしてしまうのか増やしてしまうのかが決まってくる。だからこれは国家を左右する課題です。
にもかかわらずこの大切なことが何ら政治焦点化されなかったことには、まだまだ私たちの国が国際的な原子力推進派、とくに国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)国連科学委員会(UNSCER)の騙しの中にいることを意味します。
広島・長崎原爆投下以降、アメリカを中心にこれらの機関が流布してきた「放射線は思ったほど危なくない」という洗脳とこそ、私たちは闘い抜かなくてはならないのです。
そう考えて、僕はこの選挙中も、「明日に向けて」でICRP批判の連載を執念をもって続けました。ここから解放されて、真の脱原発の道をみんなで開きたいと思ってのことでした。
みなさんにもぜひこの活動に力をお貸しいただきたいと思います。そのために長いですがぜひICRP批判の連載に目をお通し下さい。
私たちの国の民衆のあり方が大きく変わりだしたのは福島原発事故が原因です。民衆の流れが変わったのは好ましいですが、放射能の影響そのものはますます深刻です。ここから目を離してはなりません。
長きにわたる放射線防護のたたかいにおいて、将来世代が少しでも有利になるために、私たちは今出来る限りのことをする必要があります。そのためにもますます民衆勢力の合流を目指していきましょう。
Power to the people!
連載終わり