守田です。(20160822 23:30)
8月17日から19日まで琵琶湖の周辺で行われている二つの保養キャンプに参加し、福島をはじめ東北・関東から訪れている子どもたち、親御さんたち、スタッフのみなさんと濃密な時間を過ごしてきました。さらに20日には宇治市で講演を行ってきました。
この数日間で実にたくさんのことを得てきましたが、それはおいおいご報告するとして、今回は「8000ベクレル問題」の続きを書きたいと思います。
8000ベクレル問題を考察する上で、次に私たちは「放射性物質汚染対処特措法」においてなぜ8000Bq/kg以下の放射能汚染物を一般廃棄物として埋め立ててよいとされたのか、8000Bq/kgという数字がどこから出てきたのかを探っていきましょう。
といっても、これまで僕が文献を調べた限りにおいて、8000Bq/kgとする明示的な根拠が示されたものは見つけられませんでした。ですからここからは推論になります。
まず重要なことはこの国にはある濃度以上の放射性同位体の管理についての「放射線障害防止法」があり、そこで管理を必要とする「放射性同位元素」の定義が行われていることです。
原子力規制委員会のホームページにある説明をご紹介しておきます。
https://www.nsr.go.jp/activity/ri_kisei/kiseihou/
「放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染されたものの廃棄などを規制することによって、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的に制定された法律です。なお、放射性物質の規制は、同法のほか、原子炉等規制法、医療法、薬事法、獣医療法等においても行われています。」
引用はここまで
放射性物質ごとに管理対象となる総量と濃度の双方が規定されており、その値を越えると管理すべき放射線同位元素とするとされています。
具体的なことは「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」で規定されており、セシウム134と137に関しては10000Bq/kgベクレル以下のものは「放射線同位元素」とみなされないとなっています。
放射線を放出する同位元素の数量等を定める件 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/04/02/1261331_15_1.pdf
セシウムだけでなく他の多くの放射性物質についても、かなり緩い設定が行われており、この基準自身、非常に問題の多いものですが今はその内容には立ち入りません。
重要なのは、ここから推論できることとして、この放射性同位体の取り扱いを規制している法律が「放射性廃棄物特別措置法」の足かせになったことがあることです。
なぜならこの「放射線障害防止法」との整合性を採らねばならず、放射能汚染物を一般廃棄物とみなすラインを「自由に」設定できず、最大でも10000Bq/kg以下にする必要があったと思われるということです。
その上で再度、おさえておきたいのですが、この国の政府、ないしお役人たちは、膨大な放射能が出てしまったことに事後的に対処せざるをえなくなってしまいました。それは下水汚泥への放射性物質の極端な濃縮の中で強いられてきました。
このため2011年6月には一定の指針を出さざるを得なくなったわけですが、おそらくこの時点では、まだ福島原発から漏れ出した放射性物質の総量が見通せていなかったのではなかったのではないかと思われます。
そのためあるいは8000Bq/kgで問題を収められるとの見通しを持ったのかもしれません。
もっともこの時点でも、将来的に問題になることが焼却場の灰であることを彼らは熟知していたはずです。汚泥もまた焼却され、濃縮されて問題が浮上していたからです。
しかし重大なポイントなのですが、例えば東京都がすでに問題を把握し始めていた3月の段階で東北・関東の焼却場で日々作りだされている焼却灰の放射線値を測ったら恐ろしい数字が出てしまう可能性がありました。
端的に言って、ヨウ素131をはじめ、半減期の短い核種が廃棄物の中に大量に存在していたからです。この時点できちんとした調査を行えば、焼却そのものが続けられなくなるようなデータが各地から出てきてしまったでしょう。
このため環境省はすぐに都道府県に焼却灰の放射線値を測ることを指導せず、放射性ヨウ素131が1000分の1に減衰した事故から80日以上が過ぎた6月になってはじめてこうした指示を発しています。
そして8月24日までに16都県にデータを提出させたのですが、この事実からすると政府は焼却灰のリアルな計測をすることなしに8000ベクレルを決めざるを得なかったのではないかと思われます。
ところが8月24日に出そろったデータを見てみると、各地で8000ベクレルを大きく超えてしまう焼却灰が出てきてしまいました。以下にデータを示しておきます。
16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果一覧
https://www.env.go.jp/jishin/attach/waste-radioCs-16pref-result20110829.pdf
これをみるとセシウムだけでもものすごい値が各地の焼却場から出ていたことが分かります。
なおこのデータを僕は翌年4月ごろからつかみはじめ、分析して発表しました。当時の記事をご紹介しておきます。簡略ですが16都県について分析したので今でも参考になると思います。
明日に向けて(443)岩手県における放射能汚染の実態(がれき問題によせて) 2012年4月3日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8bfff14a348072520dd72985df1ab067
明日に向けて(462)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その1 2012年5月2日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/fb16143656f0bffe1a9ebaf9b29f4bc2
明日に向けて(463)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その2 2012年5月3日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/a4aa815200b30684344631f712080879
明日に向けて(464)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その3 2012年5月4日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1ddac9569cdc4dd9758b9a93f935a744
ご覧になると分かるように、とくに福島県ではのきなみ1万ベクレルを軽く越えてしまい、福島市ではあぶくまクリーンセンターで95300Bq/kg、郡山市では富久山クリーンセンターで88300Bq/kgという値が出てしまいました。
この他各地で数万Bq/kgの値が出てしまい、これらの焼却灰は一般廃棄物として処理できず、行き場がないので焼却場内にため込まれるようになりました。
ここに政府にとっては、8000Bq/kgのものを廃棄物として捨てられるようにするだけでは処理できない放射性廃棄物問題が登場することになってしまったわけですが、ここでおさえておきたいのは、本来政府が対応すべき問題が大きくずれていたことです。
繰り返し述べてきたようにこの問題はいわば二次的な放射能被曝問題です。それを「廃棄物問題」と捉える方が間違っているのです。ここで政府が取り組むべきことは、福島原発事故で出てきた放射能による二次被曝、三次被曝を食い止めることにあったのです。
事故はすでに起こってしまったものであっても、焼却による濃縮された放射能による二次被曝は避けようがあったし、避けなければならなかった。しかし政府は、それでは廃棄物問題が処理できないからと、追加被曝を野放しにしたのです。
こう考えるとその後にがれきを広域処理しようとしたのも、すでに起こしてしまった焼却による二次被曝、三次被曝をうやむやにしてしまう目的があったようにも思えてきます。
私たちはこの点をしっかりと踏まえなくてはいけません。福島原発事故だけでなく、その後に放射性廃棄物の広範な焼却を何らの防護措置もないままに認めてしまい、広範囲な追加被曝を人々にもたらしてしまった犯罪があったのです。
今回の8000Bq/kg以下の汚染された土を公共事業で使ってしまえ、いや、公共事業の場を最終処分場に代替してしまえという方針も、この延長線上に生まれてきたものであるように僕には思えてならないのです。
続く
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守田敏也 MORITA Toshiya
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
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[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4