守田です。(20160817 02:00)
「原発汚染土8000Bq/kg以下再利用問題」について解説していきたいと思います。
この問題は1キログラムあたり8000ベクレルの放射能を含む除染などで生じた「汚染土」を、全国の公共事業で使ってしまおうというものです。
毎日新聞の報道記事をご紹介しておきます。(全文を資料として保全するため末尾に添付します)
原発汚染土 「8000ベクレル以下」なら再利用を決定
毎日新聞2016年6月30日 20時30分(最終更新 6月30日 21時23分)
http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/063000c
記事の重要なポイントを抜粋します。
「福島県大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設に保管される除染廃棄物は最大2200万立方メートルになると見込まれる。国は2045年3月までに県外で最終処分する方針で、できるだけ再利用して処分量を減らしたい考え。 」
2200万立法メートルとは東京ドーム18個分だそうですが、国は福島県に30年後までに県外で最終処分する約束をしています。この実現が危ぶまれる中でとにかく処分量を減らそうというのが狙われているところです。
端的に本来、放射性物質の最終処分場に持っていくべきものを公共事業で使ってしまおうというものですから、公共事業の場を最終処分場に変えてしまう恐ろしい方針です。
さてこの問題をきちんとおさえるためには、前提となることがらを踏まえておく必要性があります。
最も重要なことは、福島原発事故が起こり、膨大な放射能が原子炉から環境中に飛び出してしまったとき、この国にはこの事態に対処する法的な枠組みがなかったことです。
なぜかと言えば、原発敷地外への重大な放射能漏れは「絶対におきない」と強弁してきたため、これに対応する法律も作られていなかったのです。
放射性物質以外のさまざまな汚染物質に対しては、環境保護の観点から幾つかの法律が作られ、規制が実行されてきたのですが、それらのどれも放射性物質を除外しています。
この「無法」状態の中で膨大な放射能が飛び出してきてしまったわけですが、当初政府は、主に放射能がたっぷり降ってしまった福島県内の災害廃棄物(=放射性廃棄物)をどう扱うのかに関心を寄せていました。
ところが先に顕在化したのは福島だけでなく各地の下水汚泥の問題でした。放射性物質が下水を通して集められ、汚泥に濃縮されてしまったからですが、深刻だったのはこれらの汚泥がそれまでセメントに混ぜるなど建築資材として利用されてきたことでした。
福島原発事故後も、この汚泥流通システムにストップがかけられなかったため、放射能に汚染された汚泥が建築資材にまわってしまったのです。
例えば共同通信は2011年5月13日に行った東京都への取材から、3月下旬に採取された汚泥焼却灰から1キロあたり17万ベクレルもの放射性物質が検出されたことを明らかにしています。
検出されたのは江東区の「東部スラッジプラント」でしたが、同時期に大田区と板橋区の下水処理場2か所でも汚泥焼却灰から10~14万Bq/kgの放射性物質が検出されています。
なお調査は1カ月後にも行われ、3施設ともに放射性物質の濃度が1万5千~2万4千Bq/kgまで下がったと報告されているのですが、これから当初の汚泥焼却灰に放射性ヨウ素131が多量に含まれていたことが想像できます。
この点については僕はリアルタイムで記事にしました。以下をご参照ください。
明日に向けて(112) 放射能汚染が各地に拡大中・・・ 2011年5月14日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/24da6e3ad75d730622dbab7916ff40d7
明日に向けて(153)汚泥から放射能が。北海道・大阪でも!・・・2011年6月15日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/43c6ee2e40d8dc763f98e04bc72314a6
いま、振り返ってみてもこの問題は大変深刻です。東京都で3月下旬に採取された汚泥焼却灰から17万Bq/kgもの放射性物質が検出されたことが意味していることは、この時期、焼却によってものすごい高濃度の放射能が再度、放出されてしまったことです。
特に焼却場の周辺地域に高濃度の放射性物質が再び降り、大変な被曝がもたらされていたと思われますが、これに対しては焼却の危険性に早くから気がつけば何らかの対処ができたはずでした。
しかも放射能にまみれた汚泥が、それまでなされていたように建築資材に回り、セメントと混ぜ合わされて各地に出荷されてしまったのです。ということは放射能まみれのコンクリートが各地で使われてしまったということです。
今後の原発事故対策には、放射性物質が漏れ出したあとの焼却場の稼働停止、あるいは汚泥対策など、福島原発事故で対処されなかった放射能の二次的拡散の防止が課題化されなければなりません。本質的にはこうしたことこそが立法者に問われたのでした。
しかしこうした中でなされたのは、膨大に出てきてしまった放射能の処理を可能にするための法律的な整備でしかありませんでした。
まず6月16日に、原子力災害対策本部から関連省に「放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取り扱いに関する考え方」が通知されました。環境省からでなく、原子力災害対策本部から出されたことが重要なポイントでした。
この通知ではじめて8000Bq/kg以下の「上下水処理等副次産物」を、通常の管理型処分場で埋め立て可能とする技術基準が示され、環境省を含む各関連省はそれに基づいてその後の方針を策定していったのでした。以下に同文章を示しておきます。
放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取り扱いに関する考え方
http://www.mlit.go.jp/common/000147621.pdf
これを踏まえて今度は環境省から6月23日に「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」が発表されました。
この通知において福島県内において「上下水処理等副次産物」と同じく8000Bq/kgまでの放射性廃棄物を管理型処分場で埋立て良いとする基準が示されることになりました。
福島県内の災害廃棄物の処理の方針
https://www.env.go.jp/jishin/attach/fukushima_hoshin110623.pdf
これらを踏まえて8月30日に「放射性物質に汚染された廃棄物の処理」と「土壌等の除染」の二本柱からなるいわゆる「放射性物質汚染対処特措法」が新たに公布され、一部施行を迎えました。
この法律の施行によって、それまで原子力災害対策本部からの通知や環境省からの方針の形で出されていた8000Bq/kg以下のものを一般の廃棄物と同じく、通常の管理型処分場で埋め立て可能にすることが合法化されてしまいました。
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」
http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/law_h23-110a.pdf
ここまでで整理すべきことは、そもそも問題の背後にあるのは、放射性物質の原発外への放出を想定せず、原発外での放射性物質の管理に関する法律すら作ってこなかった国のあやまり、政府の極めて大きな責任だと言うことです。
何よりもそのことで二重三重の被曝が生み出されてしまいました。これらは福島原発事故が起こってしまったから必然的にもたらされた被曝とは言えない、対処の遅れとあやまりによってもたらされた被曝でした。
端的に言って、この一点からだけでも本来、原子力発電は終わりにしなければなりません。「事故は絶対に起きない、起こさない」と公言し、だから法律も作ってこず、二重三重の被曝を作りだしてしまったのだからです。
しかもこの点に関しては実はいまだに誰も責任をとっていません。追及すらされていない。それでなぜ原発の延命などできるのでしょうか。原発の延命はまったく道義を欠いたあやまったものであることを強く指摘しておきたいと思います。
さらにひどいのは事故の責任者である東京電力が、このように原発敷地外での放射性物質を規制する法律がなかったことをよいことに、膨大な土地を汚染したことを開き直ってきたことです。
というのは東電は、放射能で汚染されたゴルフ場のオーナーが、東電を訴えた裁判において「原発から出て行った放射能はもう自分たちのものではない。無主物だ。だから責任はない」と傲慢にも言い放ちました。
こんなこと他の廃棄物では通用しません。あまりにひどい言い草です。道義的に許されるはずがない。しかしそれがまかり通ってしまったのも廃棄物に関する法律から放射性物質を除外してきたからです。この責任は極めて大きい。
その上政府は、特措法を作る段階で、規制する法律がないがために生じた問題には切り込まず、むしろ一挙に8000Bq/kgまでの放射能を含んだ廃棄物を普通の廃棄物と同じように通常の管理型処分場で埋め立て可能としてしまいました。
これは原発敷地内で守られてきた100Bq/kgを超えるものを放射性廃棄物ととらえ厳重管理してきた法律とも矛盾し、違反するものです。
そもそもより放射線値が高くなる可能性の高い原発敷地内で決められた基準が、敷地外でどうして80倍にも緩められてしまうのか。合理的な理由など一つも見いだすことはできません。
この点で「放射性物質汚染対処特措法」は、それまで原発からの敷地外への重大な放射能漏れを想定してこなかったこの国のあやまりを捉え返すどころか追認し、よりひどい方向に進めてしまったものに他なりません。
したがってこの悪法は、撤廃されるか徹底的に改正される必要があります。原発敷地外に敷地内よりも厳しいレベルの規制基準を施すのが当然の正しい道です。
今回の、除染などで生じた8000Bq/kg以下の放射能「汚染土」の公共事業での利用を可能とする方針は、この2011年の「放射性物質汚染対処特措法」に含まれた根本的矛盾を問題を前提としていること、ここから正さねばならないことをおさえておきましょう。
続く
*****
原発汚染土 「8000ベクレル以下」なら再利用を決定
毎日新聞2016年6月30日 20時30分(最終更新 6月30日 21時23分)
東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内の汚染土などの除染廃棄物について、環境省は30日、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下であれば、公共事業の盛り土などに限定して再利用する基本方針を正式決定した。
同省が非公式会合で盛り土の耐用年数をはるかに超える170年もの管理が必要になると試算していたことが発覚したが、基本方針では「今後、実証事業で安全性や具体的な管理方法を検証する」と表記するにとどまり、管理期間には言及しなかった。
福島県大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設に保管される除染廃棄物は最大2200万立方メートルになると見込まれる。国は2045年3月までに県外で最終処分する方針で、できるだけ再利用して処分量を減らしたい考え。
基本方針では、再利用は管理主体などが明確な公共事業に限定し、1メートル離れた場所での追加被ばく線量を年間0.01ミリシーベルト以下に抑えると明記。
同8000ベクレルの汚染土を使う場合、50センチ以上の覆土をし、さらに土砂やアスファルトで覆う対策を取るという。
ただし、原子炉等規制法では、制限なく再利用できるのは同100ベクレル以下。環境省の非公式会合で、同5000ベクレルの廃棄物が同100ベクレル以下まで低下するには170年かかる一方、盛り土の耐用年数は70年とする試算が出ていた。
基本方針では、再利用後の管理期間の設定や、管理体制の構築について触れられておらず、原子炉等規制法との整合性を疑問視する声も上がっている。
環境省側は「管理期間や方法については、モデル事業を通じ、今後検討を進める」(井上信治副環境相)との姿勢だ。【渡辺諒】