守田です。(20180110 14:00)
年頭より、民衆の力を高めるための考察を続けています。前回はこの国の民衆の力で連綿と紡ぎだしてきた「平和力」について論じました。
これに対し、東京の星川まりさんが「憲法前文を思い出した」とコメントしてくれました。その通りです。あそこに書かれていることが日本の「平和力」の大元です。
そしてそれこそが安倍首相が壊そうとしているものです。
そんなことになったらどうなるのか。私たちがいま、失ってはいけないどんな力を持っているのかを論じたいと思います。
2015年9月14日未明のこと、千葉県松戸市で警察官3人が発砲する事件が発生しました。
撃たれたのは7歳のオスの紀州犬。前夜に飼い主のもとから逃げ出し、路上で人に噛みついたりして110番されました。
飼い主も駆けつけ、捕獲も試みましたが、噛まれるなどして失敗。警官たちも噛まれたため、やむなく飼い主の許可を得て射殺することに。
しかしなかなか弾が当たらないし当たっても致命傷にならない。結局13発目で倒れたのですが命中したのはそのうちの6発だったそうです。
産経新聞の記事をご紹介しておきます。
警察官が人襲った体長120センチ「紀州犬」に13発発砲し射殺 千葉県警「拳銃使用は適正」…住民「バンバンバンの銃声、テレビ番組かと…」 千葉・松戸
産経新聞2015.9.14 18:21更新
http://www.sankei.com/affairs/news/150914/afr1509140024-n1.html
このときたまたまニューヨークから友人が来ていてこの話をすると笑ってこう言いました。以下、彼と僕の会話です。
「ニューヨークの警官なら1発で仕留めただろうな」
「なぜ?」
「だって人を撃ってるもん」
彼はさらに最近ある警官が「趣味」で犬の射殺を繰り返し、年間200匹を殺していたことが発覚したことなども教えてくれました。
ちなみにアメリカの警官と日本の警官とでは持っている銃の殺傷力そのものも違います。
それでさらに好奇心が沸いて日本の警官たちが年間どれぐらいの発砲をしているのか調べてみました。
発射された玉の数までは分かりませんでしたが、産経新聞にこんな記事が載っていました。
「相手に向けて拳銃を撃つ件数は10件に満たない。警察庁によると、平成21年4件、22年1件、23年1件、24年5件、25年4件-といった具合だ。死者はこの5年間で1人だった。」
「スズメ撃つのに大砲使うな」苦悩する日本警察 発砲、制圧…どこまで「実力行使」許される
産経新聞2015.2.19 11:00更新
http://www.sankei.com/west/news/150219/wst1502190006-n2.html
「発砲数までわからないけれどこれなら多くたって年間100発にもいかないんじゃないかな」と僕が言うと、彼は大笑いして一言。
「それじゃあニューヨークでは一晩でも足りないよ!」
さらに彼はこんな話をしてくれました。彼には老齢のお母さんがいてケアしています。仕事を終えると職場からお母さんの家に向かい、一緒に食事をしてから自宅に帰っているのだとか。
ところがある晩、たまたま残業が多くてお母さんの家に寄ることができなかった。そのときギャングと警官隊がお母さんの家のそばで銃撃戦をしたのでした。
その弾丸がお母さんの家にも飛び込んできた。そしていつも彼が座っている椅子の背もたれに穴が空いていたのだそうです。
「あのときお母さんのところに行ってたら僕は死んでたよ」と彼。同時にこうも言いました。「守田さん。日本は本当に平和で良い国だよ。羨ましいよ」と。
彼の言葉が今もジーンと胸に響いています。
それでは実際にアメリカでは警官たちはどれぐらい発砲したり、「犯人」を射殺したりしているのでしょうか。
その後に調べてみると、なんと毎年1000人を前後する人が射殺されている。殺害にいたらなかったケースはもっとたくさんあるのでしょうから、発砲数に雲泥の差があります。記事をご紹介しておきます。
年間1000人が警官に殺される米国 「銃を持つ権利」と市民と警察の間の溝
THE PAGE 2016年07月18日 11:21
http://blogos.com/article/183840/
もちろん銃で死亡した総数はもっと多い。2013年の統計で自殺が21,175件。殺害は11,208件、暴発が505件だそうです。
人口規模が3分の1の日本では、同年の銃による死者は13件でした。
なぜアメリカではこれほどに銃犯罪が多いのか。よく語られる見解が、アメリカ社会が銃に対する規制があまりに弱く、大量の銃器が出回っているからというものです。
世界人口に占めるアメリカ人の比率は4.4%。しかし世界の銃の総数の42%をアメリカ人が所有しているといいます。これらが銃による殺人が世界の中でもダントツに多い根拠だと言うのです。
(なお銃で死亡した総数の数字もこの記事からとっています。)
アメリカで銃乱射事件が多いのはなぜ?
The New York Times 2017.11.24
https://www.cafeglobe.com/2017/11/065745nyt_mass_shootings.html
実際、銃の数を減らせば、銃による殺人は間違いなく減るでしょうから、これを根拠の一つに挙げるのは間違いではないでしょう。
しかし本当にそれが主因なのだろうか。何かもっと違う大きな理由があるのではないか。そう考えて映画『ボーリング・フォー・コロンバイン』を作り上げたのが映画監督のマイケル・ムーアでした。
1999年に起こったコロンバイン高校での銃乱射事件に取材し、銃犯罪の根源に迫ろうとした作品で2002年にリリースされています。
マイケル・ムーアが着目したのは銃の所有率ではアメリカを上回るカナダでの銃による殺人がアメリカよりも100分の1も少ないことでした。
銃がたくさんあるから銃による殺人が多いという図式はこの事実だけで覆されてしまいました。
これにかえて、マイケル・ムーアが導き出したのは、アメリカ白人が建国以来持っている強烈な被害者意識でした。
アメリカ白人は先住民族インディアンを迫害し、土地を奪い、さらに黒人を奴隷として働かせてきました。
このためアメリカの白人たちに、被害者たちからの復讐を強烈に恐れるメンタリティーが受け継がれており、それが銃社会容認と銃殺人の多発の根源を形作っているというのです。
非常に鋭い指摘だと思います。僕はおそらくこれに、もともとアメリカ白人がヨーロッパで迫害されて、海を渡り、アメリカ大陸を訪れた人々であること。
集団的無意識の中に常に自分たちは理不尽に迫害される。だから武装し身構えていなければならないという意識が強くあるのではないかと思えます。そしてその上に自らが繰り返してきた迫害に対する報復への恐怖が重なっているのではないか。
ただ、僕はそれだけでもこれだけの銃殺人の激発の根拠としては足りないと思えました。
やはりこれに加えて、第二次世界大戦以降、もっとも多くの戦争を行い、もっとも世界各地で殺人を犯し、もっとも多くの国民を戦場に送り出し続けてきたこと、このことに最大の根拠があるのではないでしょうか。
あるいはマイケル・ムーアが指摘したような被害者意識的な暴力性の発動も、戦争参加の中で肥大化されてきたのではないでしょうか。
そもそも戦争を繰り返せば、町の中に歩いている人殺し経験者の数がどんどん多くなります。当然、武器使用に長けたもの、しかも単なるテクニックだけでなく、人を撃ち殺せるメンタリティーを持ってしまったものの数も増えていきます。
幸いにも日本にはそういう経験者やメンタリティーの保持者が今は少ない。戦後72年間、戦争を経験してないからです。だから警官たちも犬もなかなか殺せない。これもまた「平和力」の実像だと思います。
これは宝です。この宝を守り抜きたいと思いますが、しかしそれでこの国だけが平和でいればいいわけではない。
この「平和力」を世界に広げることで、アメリカの人々をも殺人の連鎖から解放していきたいです。
だから「平和力」を守り、深化し、世界に輸出しましょう。世界を暴力の連鎖から救い出しましょう!
続く