守田です。(20150719 21:00)
すでに10回以上前になりますが「明日に向けて」の連載が1100回を越えました。それ以前の連載46回をあわせると現在1157回目の発信を行っていることになります。
連載1000回を超えたのがちょうど昨年末でしたから、この100回には半年以上かかってしまったことになります。これまでで一番遅いペースの更新でしたが、扱う領域が拡大したこともあって、それはそれでいいかなと思っています。
ただ今後はもっと内容的なレベルアップを図っていかなければならないと思っています。「明日に向けて」だけでなく活動全体についてです。そのためにもみなさんにカンパをお願いしたいです。
取り組まなければならないのは第一は、多くの方たちがまさにいま担っている平和運動と脱原発運動のつながりを鮮明にし、二つの運動が一つのものであることを明らかにしていくことです。
この間、書いたことをコンパクトにまとめることになりますが、そのために僕は今後、「戦争と原爆と原発と放射線被曝」のつながりを「内部被曝」から捉える視点をもっと大きく打ち出していこうと思っています。
とくにこの夏は各地で連続講演を行いますが、このことを強調していきたいです。
その際のキーワードこそが内部被曝です。なぜかと言えばもともと人間と放射線の関係を大規模に測られたのが広島・長崎原爆だったからです。
しかも調べたのは加害者であるアメリカ軍でした。目的は原爆の殺傷力を知りつつ、一方で被害事実を隠すためでした。原爆投下直後から、非人道的な核兵器を禁止せよと言う声が高まっていたからです。この時、徹底して隠されたのが内部被曝の影響でした。
こうしてまったく恣意的に被害を非常に小さく見積もったデータが「被爆者調査」の名のもとに作られ、その上に「放射線防護学」がアメリカ主導で作られました。人体への放射線被曝の影響を限りなく小さく見せる体系でした。
なぜそれが必要だったのか。その後に相次ぐ核実験を行うためでした。核実験で膨大な放射能が全世界に降り注ぎましたがそのためにも「放射線被爆の影響は大したことがない」と言う必要があったのです。
またそれでも高まる核兵器批判に対抗して出された戦略が原子力の平和利用=原子力発電でした。原子力発電は1950年代に確立したローテク体系です。定期点検の細かい作業など、人力でやらねばならずものすごい被曝労働を必然化します。
このため原発の運転そのもののためにも被曝影響の過小評価が必要でした。放射線の影響を正しく見積もったら、核実験も原発の運転もまったく不可能だったのです。
このため物理学者の矢ヶ崎克馬さんは、内部被曝隠しのことを「隠された核戦争」と呼んでいます。それが今も継続中なのです。
福島原発事故以降も、放射線被曝の影響の過小評価の大合唱が行われ、福島は20ミリシーベルトまで大丈夫だ、いや50ミリシーベルトまで拡大しようなどと言われています。
これは福島原発事故を契機に、人々が放射線の本当の恐ろしさに目覚めたら、核戦略と核産業全体が危機にさらされるが故の防衛的対処でもあります。「隠された核戦争」が福島の人々を、いや私たち全体を苦しめ続けているのです。
だから被爆70年のこの夏、戦争法案が強行可決されたこの夏にこそ、私たちは内部被曝をキーワードに「戦争と原爆と原発と放射線被曝」の太いつながりを自覚し、二つの運動を一つにして奮闘する必要があります。
そのためにも岩波ブックレット『内部被曝』で矢ヶ崎さんと一緒に明らかにした内容を一歩越える論稿の提出-書籍の作成も目指していきたいと思います。「隠された核戦争」の中軸にある国際放射線防護委員会(ICRP)体系のより深化した批判を行います。
第二にそのもとでこそ放射線防護活動を強化していくことです。
内部被曝の危険性について脱原発派の中でもより理解を深め、社会的にも隠されてきた被曝の本質を明らかにしてくことを進めながら、現在進行形で続いている被曝からのさまざまな防護策を強化していく必要があります。
これにはたくさんの課題があります。一つに避難の権利を守り、可能な限り拡大し、福島をはじめたとした被曝地への帰還の強制に抗していくことです。
同時に実質的には短期避難でもある保養事業を増やしていくことです。それぞれの取組への応援が必要ですが、トータルなものとしてはもっとも鮮明にこの問題を映像化した鎌仲ひとみさんの映画『小さき声のカノン』の各地での上映を広げることが大事です。
また困難なことですが、年間線量1ミリシーベルトを上回る被曝地で、繰り返し放射線防護の学習会を行い、一緒になって被曝防護意識を強化し、発展させる試みを続けることです。
人はどうしてもその土地に住んでいればそこが安全だと思いたいし、防護など必要ないと言う政府系の人々の言説にも惑わされてがちです。いやこの言説は部分的には脱原発派の中からも起こっており、これに巻き込まれるのはやむを得ないことでもあります。
避難が理想だとしてもかなりの条件が揃っていなければ実行し、長期にわたって維持していくことは困難です。それまでのさまざまな社会的蓄積を失ってしまう困難さや悲しさもあります。
だから少なくとも今は、多くの人が動ききることができないのが実情です。避難を可能とするために権利の拡大を急ぐ必要がありますが、それができていない今、被曝地でいかにしてリスクを減らして生きるのかを討論しあっていく必要があります。
僕はここには福島エートスとの重大な闘いが含まれていると思います。エートスとは「放射能に前向きになろう」とかいいながら、放射線被曝の影響は大したことはない、被曝地に住んでいて大丈夫だと偽りの「安全」を流布し、防護意識を解体する運動です。発信地はチェルノブイリの周辺です。
この言説はもともとは広島・長崎の被爆者に向けられた言葉でした。「放射線を気に病むから身体が悪くなるのだ」という被害と加害をすり替えた悪質な言葉の暴力です。それが核実験後でもチェルノブイリでも福島でも同じように繰り返されてきています。
これに立ち向かわねばなりませんが、そのためには、被曝地から動けない人、また動きたくない人の事情を理解し、寄り添い、苦しみを分かち合い、その中で危険なものはやはり危険であるとの認識を共有していく努力を続けていくことです。
そのためにどうしたらいいのかの黄金原則があるわけではありません。難しい方程式の解を求めるようなセンシティブな面があります。でもここから逃げてはいけない。手探りで遮二無二答えを求めていかなくてはいけない。
被曝の影響の強調は、ときに人の心を傷つけてしまうこともあります。相手が傷つば当然こちらも傷つく。だからこの側面にはできるだけ触れない方が楽であるに決まっているのですが、この「楽」はより悪い結果、悶絶の苦しみに続いていると僕は思います。
相手に不快なことであっても、危ないものは危ないと伝えなくてはいけない。しかし相手にとって不快であることをどれだけこちらの側が我がものとできるのか、理不尽な福島原発事故のその人にとってのあり方をシェアできるのかが鍵だと思います。
何よりそのために僕は今後、もっとたくさんの地域に足を伸ばさなくてはいけないと思っています。
「隠された核戦争」との対決のためにはより本格的な学問的格闘が必要です。研究のためにとにかく経費が掛かります。
また放射線防護を訴えに各地をまわるためにも経費が必要です。ぜひ多くの方にお支えていただきたいです。心より御協力を訴えます。
続く
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