昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(十四)クルーザーの経験は?

2015-07-11 11:25:20 | 小説
車が、静かにパーキングエリアに滑り込んだ。
海が見える、眺望の良い場所に車は止められた。

窓を少し開けると、潮の匂いが車の中に入り込んできた。
軽く深呼吸をしながら、麗子は海に視線を投げかけた。

車外に出る様子のない麗子に倣い、彼も又海を眺めた。
ゆったりと、波が動いている。

遙か遠くに、船の航跡が見える。
視線をずらすと、漁船らしきものが見えた。

「貴方、クルーザーの経験は? 海は、よろしいことよ。
外海は、よろしいことよ。嫌なこと、忘れさせてくれますわ。
今度、ご一緒しましょうね」

彼には漁船と見えたものが、麗子にはクルーザーと見えるのだろうか。
麗子の世界との落差が、彼にズシリとこたえた。
「僕は、貧乏学生ですから」

「あら、ごめんなさいね。そんなつもりじゃないのよ。
貴方に、海の広さを知って欲しいだけなの。
ごみごみとした町中では味わえない、爽快感をね」

麗子はシートを倒すと、大きく背伸びをした。
「お疲れのようですね」
麗子を気遣ってしまう己に、彼は嫌悪感を抱いた。

“どうして、麗子さんに迎合しようとするんだ。俺を捨てた女じゃないか!”
己を叱りつつも、彼の口から出た言葉は違っていた。
「少し、眠りますか? 実は僕、眠いんです。昨夜、夜更かししたもので」


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