昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十七) 五と六

2012-10-07 17:18:13 | 小説
長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十七)の
三部構成の、
大長編です。
どうぞ気長に、
読んでください。
実はこれ、
まだ執筆中なんです。
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(五)

そうなのだ、茂作翁には見せていない。
それどころか、結婚の許しすら得ていない。
武蔵の言い付けにも関わらず、手紙で報告をしてしまった。

体を許してしまった今、渋々ながらも許してくれるだろうと考えていたのだが。
しかし結婚ともなれば、一生のことだ。
烈火の如くに怒る返事が返ってきた。

「そんなふしだらな女に育てた覚えはないぞ!」
と、ある。
「すぐにも戻れ!」 と、きつく書いてある。
小夜子の対応如何では、すぐにも来る勢いだった。

「正三と添うつもりじゃなかったのか! 」
それを言われると辛い。
捨てられたとは、断じて認められない小夜子だ。
有り得べからざることだ。

己が男に捨てられることなど、太陽が西から上りはしても、有り得ないのだ。
しかし未だに何の音信もない。
加藤宅には、くれぐれも頼んである。
盆暮れの届け物は、決して欠かしていない。

もっとも、そんなこととは露知らぬ武蔵こそ、いい面の皮である。
せっせせっせと、贈り続けている。
商売に関しては生き馬の目を抜く武蔵も、小夜子に対してはまるでだった。

小夜子にしてからが、正三に未練があるわけではない。
しかし、訳の分からままの宙ぶらりんが納得できない。
そしてなにより、小夜子の意思で、言葉で終わりにしたいのだ。
でなければ、小夜子のプライドが許さない。




(六)

「明日、昼前に迎えを寄越すから。」
「えぇ! 来てくれないの? 」

拗ねた表情を見せる小夜子。
恨めしげに武蔵を見る小夜子。

「分かった、分かった。
俺が来る、多分大丈夫だろ。 」

「だめ! 多分なんて。
絶対来て! じゃなきゃ、行かない! 」

頬をぷーっと膨らませて、迫る。

「分かった、分かった。
だったら、振り袖着てろ。
お互いの、約束だ。」

「うーん、分かった。」

渋々といった表情を見せる小夜子だが、内心では
“それも悪くないか”
と、思えてきていた。

夜半に降り出した雨だったが、朝にはすっかり上がっていた。

「プップー!」
車のクラクションが鳴り響く。

「はあぁい! 」
バタバタと玄関に走ってきた。

「待ってろ、小夜子。 」

玄関の引き戸が引かれ、
「おう。道がぬかれん出るからな、この板の上を歩けよ。」
と、靴を汚している武蔵だ。



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