「のんびりしますな、ここは 」
「ああ、東京の喧騒が嘘のようだ」
「まったく、です。ところで、女将と話が弾んでいたようですね。で、どんな話を?」
「なんだ、気になるのか?」
「いや、あれだけの女傑は、そんじょそこらには居ませんて。女将でなかったら、社長の伴侶に迎えたいもんですよ」
「五平もそう思うか? 」
我が意を得たりとばかりに身を乗り出す武蔵に、
「ってことは、社長! まさか? ただですねえ。あの女将、後家さんなんです。それでもいいとおっしゃるなら、話をつけますがね」
と、応じる五平に対し
「ばか言うな。ここを捨ててまで、俺について来る訳がねえだろうが。
おい、ちょっと待て。後家さんだと誰に聞いた?
俺には旦那が居るって口ぶりだったぞ。
いや待て、そう言えば生き死にの話はしなかったな。こりゃだめってことか」と、肩を落とした。
「いやいや、社長が本気で口説けば、分かりやしませんよ」
「おいおい、本気にしちまうぜ」
「どうぞ、どうぞ」
このまま話が続くと、五平は本気で女将を口説きかねない。慌てて武蔵は、五平を押しとどめた。
「やめとこう。あの女将は、男を食らう。男を踏み台にして、大きくなる。
たまに逢うぐらいで丁度いい。それはあの女将も先刻承知だろう。
それにまだ女盛りだ、どこぞに間夫が居る。案外花板あたりと、ねんごろじゃないか?」
「社長。そいつは、ちょっと違いますすぜ」
「ほう、違うってか。女のことでは、五平にはかなわねえや」
「あの女将は、一人に入れあげることは、まずないでしょう。
複数の男を、言葉は悪いが、手玉にとりますよ」
五平の目は確かだ。それは五平が見つけるオンリーさんで、証明されている。
アメリカ将校からの不平があるにはあるが、数える程だ。
“こんな高学歴の女が?”。“良家の子女だぞ?”。
そんな疑問符の付く女性が、魔法にかかったが如くに陥落する。
「おいおい、そんな女が、俺に似合ってるのか?」
「いや、女将だからですよ。会社で言えば、社長だ。何もかもを、一人で切り盛りしてる」
「なんでそんなことが、分かる?」
「いえ、仲居から聞きました」
「聞いたって、お前、いつだ……ええ! まさか、今朝ってのか」
「へへへ、そのまさかです。丁度目が覚めた時に、その……」
「どうやって布団に引張りこんだんだ。後学の為にも教えろよ」
舌を巻く武蔵に対し、頭をかきつつも鼻高々といった風情を見せる。
こと女性問題に関しては、武蔵を常に唸らせる五平だ。
「そんなご大層なことじゃありませんよ。夕べ、ちょいと心づけを多めに渡しときまして。それで、水をくれと。で、口移しで飲ませてくれまして」
「そうか、それじゃ俺もやってみるかな」
「だめだめ。あたしみたいな下衆野郎だから、いいんです。武さんみたいな二の字には似合いません、て」
「なんだそりゃ。それじゃ、どうすりゃいいんだよ 」
「何もいりませんて。今夜付き合えで、充分ですって」
「ほんとかよ。本気にするぜ」
「どうぞ、どうぞ。女将も、待ってますよ」
「ああ、東京の喧騒が嘘のようだ」
「まったく、です。ところで、女将と話が弾んでいたようですね。で、どんな話を?」
「なんだ、気になるのか?」
「いや、あれだけの女傑は、そんじょそこらには居ませんて。女将でなかったら、社長の伴侶に迎えたいもんですよ」
「五平もそう思うか? 」
我が意を得たりとばかりに身を乗り出す武蔵に、
「ってことは、社長! まさか? ただですねえ。あの女将、後家さんなんです。それでもいいとおっしゃるなら、話をつけますがね」
と、応じる五平に対し
「ばか言うな。ここを捨ててまで、俺について来る訳がねえだろうが。
おい、ちょっと待て。後家さんだと誰に聞いた?
俺には旦那が居るって口ぶりだったぞ。
いや待て、そう言えば生き死にの話はしなかったな。こりゃだめってことか」と、肩を落とした。
「いやいや、社長が本気で口説けば、分かりやしませんよ」
「おいおい、本気にしちまうぜ」
「どうぞ、どうぞ」
このまま話が続くと、五平は本気で女将を口説きかねない。慌てて武蔵は、五平を押しとどめた。
「やめとこう。あの女将は、男を食らう。男を踏み台にして、大きくなる。
たまに逢うぐらいで丁度いい。それはあの女将も先刻承知だろう。
それにまだ女盛りだ、どこぞに間夫が居る。案外花板あたりと、ねんごろじゃないか?」
「社長。そいつは、ちょっと違いますすぜ」
「ほう、違うってか。女のことでは、五平にはかなわねえや」
「あの女将は、一人に入れあげることは、まずないでしょう。
複数の男を、言葉は悪いが、手玉にとりますよ」
五平の目は確かだ。それは五平が見つけるオンリーさんで、証明されている。
アメリカ将校からの不平があるにはあるが、数える程だ。
“こんな高学歴の女が?”。“良家の子女だぞ?”。
そんな疑問符の付く女性が、魔法にかかったが如くに陥落する。
「おいおい、そんな女が、俺に似合ってるのか?」
「いや、女将だからですよ。会社で言えば、社長だ。何もかもを、一人で切り盛りしてる」
「なんでそんなことが、分かる?」
「いえ、仲居から聞きました」
「聞いたって、お前、いつだ……ええ! まさか、今朝ってのか」
「へへへ、そのまさかです。丁度目が覚めた時に、その……」
「どうやって布団に引張りこんだんだ。後学の為にも教えろよ」
舌を巻く武蔵に対し、頭をかきつつも鼻高々といった風情を見せる。
こと女性問題に関しては、武蔵を常に唸らせる五平だ。
「そんなご大層なことじゃありませんよ。夕べ、ちょいと心づけを多めに渡しときまして。それで、水をくれと。で、口移しで飲ませてくれまして」
「そうか、それじゃ俺もやってみるかな」
「だめだめ。あたしみたいな下衆野郎だから、いいんです。武さんみたいな二の字には似合いません、て」
「なんだそりゃ。それじゃ、どうすりゃいいんだよ 」
「何もいりませんて。今夜付き合えで、充分ですって」
「ほんとかよ。本気にするぜ」
「どうぞ、どうぞ。女将も、待ってますよ」
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