「どういうことです?」
「会社経営をなされていますお客さまが、いかに大変なご苦労をなされているか、いかに大きなご心痛をお持ちになっていらっしゃるか、思いが至りませんでした」
「それを、今朝の僕に見た、と?」
「はい、海を眺めていらっしゃる御手洗さまに。大変失礼なことを申し上げまして」。
深々と頭を下げる、女将だった。
「いやあ。女将と、一戦交えたいものですなあ」。突然、武蔵が言う。
「あらあら、こんなおばさんでよろしいんですの? 」と、女将は受け流した。
「その色香は、そんじょそこらの女どもでは出ません。
口はばったいですが、僕も年の割には遊んだと自負しています」
なおも食い下がる武蔵に
「まあ、まあ、まあ、どうしましょう。都会の殿方はお口が、お上手ですから。
でも、おからかいもほどほどに。でないと、大やけどなさるかも」と、さらに妖艶な科を作って見せた。
「社長、おはようございます。いゃあ、参りました。二日酔いです、完全に。社長は大丈夫ですか?」
「おやおや、専務さんはお弱いんですね 」
朝の光に目を細めながら現れた五平に、女将が声をかけた。
「女将、言ってくれるね。弱くはないんだ、わたしだって。弱くはないんだが、この社長が底なしなんだ」
「ほんとに。ひょっとして、ご酒が血液で、体中を回っていらっしゃるとか? ほほほ、失礼しました」
「女将も、いけそうだね。どう? 一丁、勝負しますか。
そうだな、僕が勝ったら女将の操を貰おう。
万が一僕が負けたら、僕の操を捧げますよ」
間の悪い時にと思う武蔵だったが、もう一度粉をかけてみた。
「あらまあ。それじゃ、どちらもおなじことじゃありません? 」
「ハハハ、ばれたか。大抵の女はひっかかるんだがなあ。
細かいところまで、聞いてるおられる。さすがは老舗旅館の、女将だ」
「ありがとうございます。賭は別としまして、社長さまとはゆっくり “さしつさされつ” と、まいりたいものですわ 」
社交辞令か?と、勘ぐる武蔵だが
「よし、決まった。もう一晩お世話になることにしょう。空いてるよね、部屋 」と押してみた。
「はい、もちろんでございますとも。
万が一にもふさがっておりましても、何としてでもお泊まりいただきますわ」と、女将が返してきた。
「聞いたか、五平。泣かせるねえ、女将は。丁々発止とはこのことだぜ 」
「社長。盛り下げるようですが、明日は銀行が来ます。酒を抜いておきませんと」
「無粋だぜ、五平。と言っても、銀行じゃ何ともならんか。
名残り惜しいけれど、女将。また、日を改めてと言うことで」
「承知いたしました。首をながーくして、お待ち申し上げております」
女将が去った後、武蔵の隣に五平が腰を下ろした。
「会社経営をなされていますお客さまが、いかに大変なご苦労をなされているか、いかに大きなご心痛をお持ちになっていらっしゃるか、思いが至りませんでした」
「それを、今朝の僕に見た、と?」
「はい、海を眺めていらっしゃる御手洗さまに。大変失礼なことを申し上げまして」。
深々と頭を下げる、女将だった。
「いやあ。女将と、一戦交えたいものですなあ」。突然、武蔵が言う。
「あらあら、こんなおばさんでよろしいんですの? 」と、女将は受け流した。
「その色香は、そんじょそこらの女どもでは出ません。
口はばったいですが、僕も年の割には遊んだと自負しています」
なおも食い下がる武蔵に
「まあ、まあ、まあ、どうしましょう。都会の殿方はお口が、お上手ですから。
でも、おからかいもほどほどに。でないと、大やけどなさるかも」と、さらに妖艶な科を作って見せた。
「社長、おはようございます。いゃあ、参りました。二日酔いです、完全に。社長は大丈夫ですか?」
「おやおや、専務さんはお弱いんですね 」
朝の光に目を細めながら現れた五平に、女将が声をかけた。
「女将、言ってくれるね。弱くはないんだ、わたしだって。弱くはないんだが、この社長が底なしなんだ」
「ほんとに。ひょっとして、ご酒が血液で、体中を回っていらっしゃるとか? ほほほ、失礼しました」
「女将も、いけそうだね。どう? 一丁、勝負しますか。
そうだな、僕が勝ったら女将の操を貰おう。
万が一僕が負けたら、僕の操を捧げますよ」
間の悪い時にと思う武蔵だったが、もう一度粉をかけてみた。
「あらまあ。それじゃ、どちらもおなじことじゃありません? 」
「ハハハ、ばれたか。大抵の女はひっかかるんだがなあ。
細かいところまで、聞いてるおられる。さすがは老舗旅館の、女将だ」
「ありがとうございます。賭は別としまして、社長さまとはゆっくり “さしつさされつ” と、まいりたいものですわ 」
社交辞令か?と、勘ぐる武蔵だが
「よし、決まった。もう一晩お世話になることにしょう。空いてるよね、部屋 」と押してみた。
「はい、もちろんでございますとも。
万が一にもふさがっておりましても、何としてでもお泊まりいただきますわ」と、女将が返してきた。
「聞いたか、五平。泣かせるねえ、女将は。丁々発止とはこのことだぜ 」
「社長。盛り下げるようですが、明日は銀行が来ます。酒を抜いておきませんと」
「無粋だぜ、五平。と言っても、銀行じゃ何ともならんか。
名残り惜しいけれど、女将。また、日を改めてと言うことで」
「承知いたしました。首をながーくして、お待ち申し上げております」
女将が去った後、武蔵の隣に五平が腰を下ろした。
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