昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~地獄変~ (十九)鬼畜

2024-07-03 08:00:45 | 物語り

 それからのわたくしときましたら。
娘の入っていることを承知で、風呂場をのぞいてみたり電気を消してみたり、とまるで子どもでございました。
娘の嬌声に歓びを感じているのでございます。
そんなことを、はじめの内は勘違いと思っていた妻も、たび重なるにつれ疑問を抱きはじめたようでございます。
わたくしの行動に目を光らせるようになりました。
そんな時でございました、あの、忌まわしい、そして、恐ろしい夢を見ましたのは。

 ある夜のことでございます。
わたくしと妻は、ひとつの布団におりました。
が、急に妻が起きあがるのでございます。
あっ申しわけありません、夢でございます。
ご承知おきください。
まだ、べつの部屋での就寝でございます。

わたくしの腕のなかからすり抜け、だれか男の元に、走っていくのでございます。
一糸まとわぬ姿で、その男にすがりつきます。
わたくしは妻を追いかけるとともに、その男をにらみつけました。
とっ! 何ということでしょう、あの青年だったのでございます。
娘の婚約者でございます。
わたくし自身めが、そうなることを望んでいたが為のことかもしれません。
そのとき、わたくしがどんな思いで妻を連れもどしたか、お分かりにはいただけませんでしょう。
いえいえ、そのような単純な思いではございません。
とても、これだけはお話しいたすわけにはまいりません。
ただそののち、年甲斐もなく激しく嬌声を発しながら、力のあらん限りをつくし荒々しく抱きしめておりました。

妻は、わたくしの、そのあまりの声に怯えたのか、はげしく悶えながら逃げようといたします。
わたくしは、両手で顔をしっかりと押さえつけ、唇を押しあてました。
そしてそこから、わたくしの熱い吐息を、そして男を注ぎこんだのでございます。
妻はまえにも増して、激しくもだえ抵抗します。
いまだに信じられないことなのですが、抵抗されればされる程に、激情と申しますか劣情と申しますか……。
頭の先から足の指先まで全身をなめまわしたのでございます。
ぐふふ、ナメクジが這いずりまわるが如くにです。
仲睦まじかったおりでも、そのような行為に及んだことはございません。
どちらかと言えば、淡泊でございました。
大恩あるご主人さまの忘れ形見だという思いが、あったのかもしれません。
いえ、美しい女人を蹂躙してみたいという思いは、確かにございました。
ひょっとして、ここにおられるあなた方のどなたよりも、そういった獣のような行為に憧れておりました。

まだ赤線がありました頃には、足しげく通ったものでございます。
お気に入りの娼婦がおりまして、その者に対しては口にするのも憚られるような行為をくりかえしたものでございます。
えっ!”どんな行為か?”ですと。
うーん……。
お話したくはないのですが。
緊縛はご存じでございますか?
いま風に申しますれば、SM行為のようなものでございます。
いやいや、お恥ずかしいことでございます。

申し訳ございません、お話をもどしましょう。
全身をなめまわしておりましたおりに、ふと気がつきますと妻のからだに鳥肌が立っていることに気がつきました。
こころなしか痙攣を起こしているようにも見えます。
わたしは、思わず手の力をゆるめ、顔をあげました。
が、何ということでしょう、これは。

…………、あぁ、お願いでございます。
わたしめを、このカミソリで殺してください。
もうこれ以上の苦痛には耐えられません。
そう、そうなのでございます。
妻、だったはずが、娘だったのでございます。
わたしは、犬畜生にもおとる人間、いや、鬼畜でございます。

ふふん。しかし、あなた方だってそんな気持ちを抱かれたことはあるはずです。
よもや、ないとは言われますまい。
まして、血のつながりのない娘でございます。
わたしの立場でしたら、あなた方だって、きっと、きっと。ふふふ……。

申しわけございません、取り乱してしまいました。
お話をつづけましょう。



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