昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~二十年前のことだ~(四)

2016-01-17 10:38:07 | 小説
 道子は、実子との分け隔てなくという思いから、泣き叫ぶ赤児を後目長男に対する世話を優先した。
そんな道子にシゲ子が苦言を呈した。しかし道子は相手にしない。

「大丈夫ですよ、お義母さん。今はこういう育て方なんですから。
泣いている赤ん坊を後回しにすることで、上の子は安心するんです。
そして下の子に愛情を感じるようになるものなんですよ」

「口出しは遠慮しろ。定男の子どもを面倒見てくれているんだ。感謝こそすれ、だ」

 常々、孝道がシゲ子に言う言葉だ。
そんな孝道に、シゲ子は反論することができない。
必然、気持ちの中に鬱々としたものが溜まっていった。

そして火の点いたように泣き叫ぶ次男をあやしながら
「そんなものかねえ。あたしたち古い婆さんには分からないことなんだけどねえ」
 と言うのが精一杯だった。
そして今になって、長男を道子に預けたことを後悔した。

 不遇の三十代、孝男はそう思っている。
同期の中田に後塵を拝したのは己の才覚不足ではなく、上司の恣意的人事だと思っている。
直属の上司に恵まれなかった己が哀れだと思っている。
そして、上司に嫌われたからだと思っている。

 担当させられた地区には目ぼしい企業はなく、資産家も居ない。
中田が担当した地区には資産家が複数人居住していたし、本店に移動した鈴木は企業街を担当した。
なんで俺だけ…という思いが渦巻いた。


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