昭和の恋物語り

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[昭和の恋の物語り] (三十八)Last

2013-02-18 21:17:44 | 小説

(三十八)Last

が、それだけではない。
虚無感という言葉が、突如浮かんだ。
孤独感と言い換えてもいい。

そして、スピードという危険と隣り合わせの中に自分を置いていたことに気付いた。
一瞬の気の緩みも許されない環境に、自分を追い込む。

そうすることで、充足感を得ていたのかもしれない。
しかし今の俺は、満たされた思いでいる。

自営業で忙しい両親に、中々かまってもらえなかった幼少時代だった。
不満のはけ口は、当然の如くに周りの友達に向かった。

小学校時代、当時流行ったスカートめくりに興じ過ぎて、女子から総スカンを喰らった。
ならばと今度は気の弱そうな男子を、いじめ始めた。

手を出すようなものではなく、軽口を叩くだけのものだった。
冗談ですむ程度のものと、俺は考えていた。
相手の心に作られる傷の深さなど、まるで思いもしなかった。

中学時代には、両親から貰うふんだんな額の小遣いでもって、取り巻き連を作っていった。
けれども、親友と呼べる奴は、一人もいなかった。

優しい声をかけて普通の付き合いをしようとしても、
「何だよ、今日は。気持ち悪いぜ。
あ、何かたくらんでるだろ。その手はくわないよ。」
と、皆逃げてしまう。

女子に目を向けたりしたら、最悪だ。
「おいおい、女を相手にするのかよ。
女に媚びを売ってどうするんだよ。
俺たち、硬派でいくんだろうが。」

もう非難ごうごうとなり、軽蔑の眼差しを向けられる始末だ。
そのくせ陰では付き合っていることを、俺だけが知らなかった。

そして高校に入って、佐伯民子のひと言で、皆俺から離れていった。
それだけじゃない。

今度は俺が、無視といういじめを受ける羽目に。
人間不信に陥ってしまった、高校の三年間だった。

しかし今、やっとその呪縛から解放されそうな気がする。


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