昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (二十六)ここでわたし、

2025-01-29 08:00:02 | 物語り

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 ここでわたし、すこし違和感を感じたのです。
おふたりとも相当な美人ですし、女学校時代の可憐さというものは想像するに、オーバーにいえば気絶ものでしょうか。
これは冗談ですが。
違和感というのは、重くるしい戦前戦中の世相のなかにおられた小夜子さんが、それこそキラキラと輝く青春時代を送られている妙子さんに、激しいジェラシーのようなものを感じられているのではないかと、そう思えたのです。

と言いますのも、妙子さんはただ単に恋文を受けとっていただけのこと。
しかし小夜子さんの場合は、それ以上のことを、待ち伏せだとかいったふうに具体的です。
わたしの考えすぎでしょうか。
横にいて黙りこくっておられる善三さんを盗み見しましたが、なにやら鼻白んでいらっしゃるように見受けられました。
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  あまた言い寄られる方たちに対して、まるで見向きもいたしません。
まあ幼いころから男児たちとの交わりがない妙子でしたし。
ご近所におられなかったわけではありません。
同い年の男の子はいませんでしたが、三つ違いまでとしますれば、五、六人はいたはずです。
ただ、お恥ずかしい話ですが、わたくし自身が娘をかまってやれずにいたことから、引っ込み思案になってしまいまして。

 正夫も悪いのです。
なにかといえば奥の仕事場に妙子をつれこんで、ときには型取りやら飾りの手伝いをもさせていたようでございます。
天性のものがありますよ、と嬉しそうに話しておりましたが、どこまでが本当のことやら。
さらにはすこしの時間を見つけては、妙子を近所の公園やら川縁に連れ出していたようです。
子ども時代のわたくしの寂しさにきづいていたのでしょうか。
じつに子煩悩なところを見せておりました。

「良い旦那さまでいいわねえ」
 と、お客さまからしょっちゅう声をいただいておりました。
ですので、まったくといっていいほど男友だちには縁がありませんでした。
正直のところ、レズビアン? と疑ったこともありました。

 でもねえ、あの穀物問屋の健夫さんだけはちがうかと、期待を寄せておりましたのに。
残念でございます。
もうすぐお式だというのに、妙子が突然に「結婚したくない!」などと言いだす始末で。
理由でございますか? 
それが分からないのでございます。
なんですか、マリッジブルーとかいったことでしょうか。
結婚生活に不安があってとかなんとか、そういった類いのものだとお聞きしましたが。
まあねえ、わたくしどもにはとんと理解のできないことでございます。

 健夫さんからは時期を遅らせてもいい、とそんなお言葉をいただいたのですが。
どうにも妙子が、どうしてもいやだと申しますし。
正夫ですか? 顔には出しませんが、喜んでいたと思いますわ。
口では、良いご縁じゃないかと申しておりましたが。
どうも、健夫さんのご両親からなにか言われましたようで。
それが妙子を傷つけたようでございます。



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