道子は、実子とのわけへだてなくという思いから、泣きさけぶ赤児をしり目めに長男にたいする世話を優先した。
そんな道子にシゲ子が苦言をていした。しかし道子は相手にしない。
「大丈夫ですよ、お義母さん。
いまはこういう育て方なんですから。
泣いている赤ん坊をあとまわしにすることで、上の子は安心するんです。
そして下の子に愛情を感じるようになるものなんですよ」
「口出しはえんりょしろ。
定男の子どもを面倒をみてくれているんだ。感謝こそすれ、だ」
常々、孝道がシゲ子に言うことばだ。
そんな孝道に、シゲ子は反論することができない。
必然、気持ちのなかにうつうつとしたものが溜まっていった。
そして火の点いたように泣きさけぶ次男をあやしながら
「そんなものかねえ。あたしたち古いばあさんには分からないことなんだけどねえ」
と言うのが精一杯だった。
そしていまになって、長男を道子にあずけたことを後悔した。
〝おじいさんにさからってでも、あたしたちの養子にした方がよかったかねえ。
(相手の娘さんの将来をかんがえてやれ)。
おじいさんはそう言ったけども、それじゃあ、定男はどうなんだい。
町内の風当たりのつよさで、とうとうまた出ていってしまったじゃないか!
ワル仲間とつるんでいるようだねなんて知りたくもないことを、わざわざ教えに来るひとまで出て。
それにしても、いったいだれなんだい。
2人の将来のために、子をなしたことは内緒に、と約束したはずなのに。
相手方からもれることはないだろうし、お医者さまだって……。
まさか?〟
シゲ子の頭のなかに、おそろしい名前がうかんだ。
すぐに否定したけれども、またぞろムクムクとわいてきた。
〝いやいや、まさかねえ……〟
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