昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十八)の九

2013-04-13 13:03:42 | 小説

(九)

「茂作、そうなのか? 
そんな話が持ち上がっていたのか? 

それで、正三との話を御破算にしたのか? 
なんで言うてくれんのじゃ、そんな大事なことを。

お前ひとりで、どうするつもりじゃった!」

思いもかけぬ話に、繁蔵が茂作を問い詰めた。

「別に本家の世話になるつもりはなかったですけ。」

冷たく言い放つ茂作に、次の言葉が出ない繁蔵だ。

「ところが、その話が頓挫してしまいまして。」

「はあはあ、そうでしょうとも。
そんな夢物語りみたいなこと、あるわけがないでしょう。」

得心したように頷く助役、不機嫌な色を隠さない繁蔵、そして俯いたままの茂作。
ひとり武蔵だけが、嬉々として見える。

「頓挫といっても、ある意味不可抗力なんです。
いや別の角度からすると、遅すぎたとも言えますな。

小夜子が早くそのロシア娘の元に行っていれば、この不幸は防げたかもしれません。
その思いが小夜子を暫くの間、苦しめました。

そりゃもう、見ていて可哀相でした。
ひどい落ち込みようで、自殺するのじゃないかと心配になったほどです。」


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