昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十三) 暗いお家に一人なのよね

2013-12-01 11:59:07 | 小説
(一)

小夜子が自宅に辿り着いたのは、どっぷりと日が落ちて落ちてからのことだった。

“灯りの点いていない暗いお家に一人なのよね。
こんなことならもう少し実家に居ればよかったわ。

それにしても武蔵ったら、どうして出張に行くのよ。
新妻を放ったらかしにするなんて、ほんとに信じられないわ”

「着きました、小夜子奥さま」

竹田の声に促されるように車から降りた小夜子の目に、信じられない光景があった。

「えっ! 灯りが点いてる。ひょっとして武蔵、帰ってきてるの?」

「いえ。社長はまだ二日はお戻りになりません」

冷然と告げる竹田に対し、語気鋭く詰め寄る小夜子。
しかし竹田は涼しい顔をしている。

「だって、灯りが…。泥棒? 竹田、警察を呼んで!」

「あぁ、灯りですか。泥棒じゃありません、すぐに分かります」
にこやかに答える竹田だ。

「そりゃ、分かるでしょうよ。
中に入れば、誰かが居るのか、灯りだけが点いてるのか。
分かって当たり前でしょ!」

憮然とした面持ちで、言い返す小夜子。
しかしなそれでもなお、竹田の笑みは消えない。


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