七
慌てふためいた己がおかしくなった。
「おう、分かった。
もう、下がっていいぞ。
さてと、引導でも渡すか。
怒るかな、それとも泣くかな、
何にしても修羅場は覚悟せにゃいかんだろう。」
小夜子の気持ちを考えると少し胸の痛みを覚えたが、
遅かれ早かれ通らねばならぬ道ではあった。
“となると、あいつの機嫌取りをしておかなくちゃ、な。
うーん、どうするか……”
“それとも、いっそのこと強引に、いくか……”
“どうもあいつのことになると、弱気の虫が出ていかん。
情けないぞ、武蔵!”
「はい、佐伯だが…」
「お初でございます。
私、富士商会の代表を務めさせて頂いております、御手洗武蔵と申します。」
虚を突かれた源之助だった。
外部に公表していない、一部の人間しか知らぬ電話に、武蔵がかけてきたのだ。
“この男、どういう男だ。
政府関係者に繋がりがあるのか?
こりゃあ、迂闊なことはできんぞ。”
八
「先ほどは留守をしておりまして、大変失礼いたしました。
局長様直々のお電話だということで、早速連絡をさせて頂きましたが。
何ですか、竹田小夜子嬢のことだとか?」
慇懃な武蔵の口調に、源之助はつい椅子から立ち上がってしまった。
「いやいや、早速のお電話、恐縮です。
実はですな、竹田小夜子嬢は私の見知りおきでして。
上京していると聞き及びましたので、消息を調べていましたところ、
何ですか御社にお世話になっていると聞き及びまして。
実家の方からも、頼まれましたものですから。」
弱気な己に憤りを覚えつつも、
“実家に連絡もしないとは、どういうことだ!”
と、言外に責めた。
「あぁ、そうでしたか。
本人には親御さんに近況をお知らせするよう、申し付けていたのですが。
これは、失礼致しました。
今現在、英会話の研修中でして、私の家に住まわせております。
中々にいい娘さんで、やらなくていいと申しているのですが、
おさんどんもやってくれております。」
「ほお、そうですか。
で、社長さんのご家族は?」
「私、まだ独り身でして。
うーん、局長様になら、よろしいかな。
実は、小夜子嬢を伴侶に迎えたいと思っております。
時期を見て、使者を立てるつもりでおります。」
「ほお、そうですか。
それは、それは……。
小夜子を嫁に、ですか。
それは、それは。」
互いの腹の探り合いの会話が続いた後、
来客があるかのように見せて、電話を切った。
「……では、失礼致します。」
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