昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十八) 茂作詣で

2013-10-18 17:57:31 | 小説
(一)

小夜子詣での隣で、同じようにいやそれ以上に、茂作詣でがあった。
武蔵が残した言葉は、小夜子の思う以上に大きかった。

「茂作さんに言ってくだされば結構です」
このひと言で、茂作の存在感がぐんと増した。

「どんなことでも、茂作さぁに言えばええ。
村長に頼むより何ぼか確かじゃて」

村の角々でこんな声が聞かれた。
床に就いている小夜子の耳に、秋の夜長の虫たちほどの声、声、声が聞こえてくる。

「娘の進学なんじゃけれど……」
「家の前の道が、雨が降るたんびにぬかるんで……」
「婆さまの家が傷んでしもうて…。と言うて借りるあてもないし……」

そして帰り際には必ず
「小夜子嬢さんに、ちょこっと挨拶を……」と、付け加えていく。

今ほど、武蔵の妻となった実感を感じることはない。
ひしひしと、感じさせられている。

武蔵の財力と権力に群がってくる村人たち。
それらが嘗ては茂作を小ばかにしていた者たちだ。

曰く。
「娘を売った男」
「娘を人身御供にした男」

やっかみの裏返しの言葉ではあったにせよ、唾棄すべき男と断じた村人たちだ。


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