昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

大長編恋愛小説 【ふたまわり】(二)の1

2011-02-21 19:35:33 | 小説
昭和二十一年春、
日用品を主に取り扱う富士商会が
新橋闇市の一角に設立された。
武蔵と五平、
そして事務員一名に社員が三名の小さな会社であった。

「はいぃ、
いらっしゃいませぇぇ!」
「はい、
はいぃぃ、
品物たっぷりありますよ!」
「いらっしゃいませぇ・・」
大声を張り上げる二人に挟まれて、
蚊の鳴くような小声が聞こえる。
「おい、
もっと大声で呼び込め。
お客が来ねぇと、
俺たちの給料が出ねぇぞ。」
「そうだ、そうだ。
お前だけ、
無しだぞ。」

開店当日、
閑古鳥の鳴く状態だった。
朝七時に店を開けて、
昼どきの今に至るまでに訪れた客は、
わずか三人だった。
“素人さん、
個人客、
お断り!”の看板が、
やはりのことに響いた。

「社長!
もう、
背に腹は代えられねえ。
個人客もオーケーにしましょうや。」
五平が武蔵に泣きを入れた。
社員たちも一様に、
五平に賛成した。
「いや、だめだ。
卸で行くと決めたんだ。
まあ待て。
夕方には、
どっと客が押し寄せるから。」
「ですが、
社長ぉぉ・・」


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