昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(一) まるで、キスしてるみたいね

2014-09-12 08:37:04 | 小説
(四)

真っ青な空があり、ふんわりとした雲がゆっくりと流れている。
緑々とした草むらに、彼は寝転がった。

彼の右手を腕枕にして、麗子がいる。
お互い言葉を発することもなく、どこまでも青く澄んだ空を見ていた。

ゆったりと流れていた雲が、突然二つに割れた。
そしてその別れた雲が、再び一つになった。

「ふふふ、、まるで、キスしてるみたいね」
麗子の言葉に誘われるように、彼の唇が重ねられた。

“な、なんだ?なんて夢だ”
翌朝目覚めた時、初めての夢精を体験した。

“佐久間さんがあんなことを言うから”
と顔を赤らめる、まだ純情初心な彼だった。

何も手に付かぬ彼に、三度目のデートはその四日後にあった。

事前の連絡無しに、寮の前に車が止められた。
イヤも応もなかった。しかしその為に、彼はアルバイトを休まねばならなかった。

他の寮生達の羨望の眼差しを意識しつつ、彼は車中の人になった。
車の中で、麗子は無言だった。何か話しかけようにも、それを許さない厳しい表情だった。

いつもの麗子ではなかった。
不安を拭えない彼だったが、生唾を飲み込むたびに、言葉を失った。

先のデート以来、夜ごとに麗子との隠微な世界を思い巡らせていた彼だった。
それ故に、この沈黙は真綿で首を絞められるが如きものだった。
ともすれば、白日夢の如き世界に浸ってしまう。

国道から高速道路に、車は滑り込んだ。
長い沈黙が、車のエンジン音すら飲み込んでしまう。

フィーン!という風切り音が、彼の首筋に冷たい鋭利な刃物を感じさせる。
これからの彼を暗示させるが如くに、思えた。


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